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Columns

7月のジャズ

Jazz in July 2026

小川充 Jul 29,2026 UP

 先月紹介したラキーシャ・ベンジャミンは、ゲイリー・バーツに師事して彼との共演作も残しているが、このようにゲイリー・バーツは若手ミュージシャンの指導や交流も積極的におこなっているミュージシャンのひとりだ。若い頃はアート・ブレイキー、マックス・ローチ、マッコイ・タイナー、マイルス・デイヴィス、アリス・コルトレーンらと共演し、ジョン・コルトレーンの後継的なサックス奏者としてスピリチュアル・ジャズを演奏してきたが、その後はマイゼル兄弟やノーマン・コナーズらと組んでジャズ・ファンクやフュージョン、ディスコやソウルなど幅広い表現を展開してきた。そんな彼は若手ミュージシャンと組むことも多く、2020年にエイドリアン・ヤングとアリ・シャヒード・ムハマドの『Jazz Is Dead』シリーズに参加し、サウス・ロンドンのアフロ・ジャズ・バンドのマイシャと共演している。マイシャはドラマーのジェイク・ロングを中心としたグループで、その共演時にはゲイリー・バーツが1970年代に率いたウントゥー・トゥループというグループの “Uhuru Sasa” や “Dr. Follow’s Dance” も演奏していた。

Your Brother's Keeper & Gary Bartz
Where Rivers Meet

Brownswood Recordings

 今回バーツが組むバンドはユア・ブラザーズ・キーパーというが、これはジェイク・ロングの新しいバンドで、アフロ・ジャズやスピリチュアル・ジャズを主軸としたマイシャに比べ、即興演奏や実験性に主軸を置いたグループである。ティム・ドイル(パーカッション)とトゥム・ディラン(ベース)はマイシャでも一緒に演奏していたメンバーで、その他にシード・アンサンブルなどで演奏してきたチェルシー・カーマイケル(テナー・サックス)、フロックなどで演奏するアル・マックスウィーン(キーボード、シンセ)、シカダなどで演奏するアクセル・カネル・リドストローム(トランペット)が集まる。ゲイリー・バーツの名作 “I’ve Known Rivers” は、黒人詩人ラングストン・ヒューズの『The Negro Speaks Of Rivers』を歌詞としているが、その流れでアルバム・タイトルは『Where Rivers Meet』となっているのだろう。チェルシー・カーマイケルもソロ・アルバムで『The River Doesn’t Like Strangers』というタイトルを付けていたが、この「川」というワードは黒人たちにとって故郷であるアフリカへと繋がるものなのだろう。

 深遠なバーツのアルト・サックスの響きからはじまる “Cauldron” は、次第にプリミティヴなアフロ・リズムとシンセによるミステリアスな空間で満たされていく作品。ダビーでアンビエントなテイストが強く、トランペットの音色などを含めてジョン・ハッセルブライアン・イーノの『Fourth World, Vol. 1: Possible Musics』(1980年)を彷彿とさせるところがある。“Solar Flare” はエレクトロニックな色彩が強く、ザ・コメット・イズ・カミングあたりに近いタイプの楽曲。アンビエント・テクノとジャズが融合したような世界だが、こうした作品に現在85歳のバーツが一緒にセッションしてしまうところが凄い。ファラオ・サンダースとフローティング・ポインツとの共演もそうだったが、本当に優れたミュージシャンは年を重ねても実験精神を失わないものだ。“Locris” は比較的バーツのテイストを感じさせるアフリカ色の強いモーダル・ジャズだが、この作品においてもダビーなエフェクトが用いられており、ユア・ブラザーズ・キーパーのグループとしての個性を感じさせる。


Tenderlonious
Africa / Brass (Live)

22a

 テンダーロニアスが影響を受けたミュージシャンにはユゼフ・ラティーフ、サヒブ・シハブ、エリック・ドルフィーなどがおり、特にフルートを用いた作品ではそのラティーフを意識したような演奏も見せることがあった。また、『The Piccolo』(2020年)という作品はタビー・ヘイズの作品集なのだが、タビーが生前に使っていたピッコロをテンダーロニアスが手に入れ、そのインスピレーションから生まれた作品であった。このように、影響を受けたミュージシャンへの敬意を作品制作のモチーフにすることが多いテンダーロニアスだが、今回はジョン・コルトレーンの『Africa / Brass』(1961年)を丸ごと演奏したライヴ・アルバムを発表した。

『Africa / Brass』はコルトレーンにとって〈インパルス〉移籍後初のアルバムで、マッコイ・タイナー、エルヴィン・ジョーンズ、ジミー・ギャリソンのカルテット以外に21名のブラス・セクション(エリック・ドルフィーやブッカー・リトルらが参加)と共にスタジオで録音をおこなった。1960年にアフリカでは17ヶ国が独立し、そうした新しい時代の幕開けを告げるアフリカ大陸をコルトレーンが表現したアルバムである。コルトレーンは『Africa / Brass』の2年前の1959年にマイルス・デイヴィスの『Kind Of Blue』のレコーディングに参加し、そこでモード奏法に関して多大な影響を受けた。『Africa / Brass』は音楽的にはコルトレーンがモードを極めた時期にあたり、ブラス・アンサンブルに関してはマイルスのアレンジを手掛けたギル・エヴァンスの影響も認められる。コルトレーンはモードから次第にフリーへと進んでいくのだが、『Africa / Brass』において多くのミュージシャンが集団で即興演奏をおこなう展開は、後のフリー・ジャズ・アルバムの『Ascension』(1965年)へと繋がる萌芽も認められる。

 テンダーロニアスの『Africa / Brass』は、2025年にオーストラリアの「メルボルン国際ジャズ・フェスティバル」において、ザ・ジャズラボでおこなわれたライヴ録音となる。「メルボルン国際ジャズ・フェスティバル」の中ではジャズの名盤を忠実な形で再現し、同時に新たな芸術的付加価値を加えて演奏するというカヴァー企画があり、その一環としてテンダーロニアスはコルトレーン作品に挑んだ。当初はより有名な『A Love Supreme』(1965年)の演奏も考えたそうだが、『Africa / Brass』は過小評価されている作品で、モードの追求という点ではより相応しいものとしてこれを選んだ。テンダーロニアスがアルト・サックス、ソプラノ・サックス、フルートを演奏し、ルビー・ラシュトンなどでテンダーロニアスと一緒に演奏するティム・カーネギーがドラム、30/70などで演奏するホレイショ・ルナことヘンリー・ヒックスがベース、そのホレイショ・ルナ周辺のミュージシャンであるオン・リーがピアノという編成。“Africa” と “Blues Minor” はコルトレーンの作曲、“Greensleeves” は英国民謡のワルツ曲で、コルトレーン以外にも多くのジャズ・ミュージシャンがカヴァーしている。コルトレーンとしては『Africa / Brass』が初録音となるが、それ以外にも幾度か演奏していて、“My Favorite Things” と並ぶお気に入りのワルツ曲だった。テンダーロニアスの演奏は基本的にブラスが入らないぶんコンパクトだが、この時期のコルトレーン・カルテットの神髄に近づこうという意識が十分に感じられる。


Scrimshire
Bring Our Light To Every Corner

Albert’s Favourites

 アダム・スクリムシャーは2000年代後半より活動するDJ/プロデューサー/マルチ・ミュージシャンで、登場時はジャズ、ファンク、ソウル、フォーク、アフロなどから、ヒップホップ、ブロークンビーツなどクラブ・サウンドを縦断したクロスオーヴァーな作風を見せ、UKではクアンティック、4ヒーロー、ボノボミスター・スクラフなどの流れに属するアーティストだった。初期は生演奏とエレクトロニクスの比重は半々くらいだったが、2019年の『Listeners』あたりから生演奏の比重が増し、音楽的にもジャズへと傾倒していく。このアルバムにはチップ・ウィッカムマーク・ド・クライヴ・ローエマ・ジーン・サックレイ、アイドリス・ラーマン、ジェイムズ・アレキサンダー・ブライト、ジョージア・アン・マルドロウエゴ・エラ・メイ、ジョシュア・アイデヘンらが参加しており、スクリムシャー自身も演奏家としての存在感が強まっている。当時は南ロンドンのジャズ・シーンが注目を集め出した時期でもあり、彼もジ・エクスパンションズというバンドのプロデュースもおこなっていた。その後もアイドリス・ラーマンやナット・バーチャル、タマル・オズボーン、ジェシカ・ローレン、エマネイティヴ、クリーヴランド・ワトキス、アーシュラ・ラッカー、フェイ・ヒューストンなどと共演し、ジャズの中でも特にスピリチュアル・ジャズに対する理解が深まっていった。

 新作の『Bring Our Light To Every Corner』はこれまで共演してきたアイドリス・ラーマン、ジェシカ・ローレン、ジョシュア・アイデヘン、フェイ・ヒューストンのほか、プロデュースなどで関わったハープ奏者のアマンダ・ホワイティングや、マシュー・ハルソールなどとの共演で知られる伝説的ジャズ・シンガーのドワイト・トリブルも参加。そのドワイト・トリブルが歌う “Asleep, A Dream” は、アイドリス・ラーマンのフルートやアマンダ・ホワイティングのハープ、ストリングスを交えた繊細かつスケール感のあるサウンドに包まれる。スクリムシャー自身はクラヴィネット、モーグ・シンセ、アップライト・ピアノを演奏し、要所でスペイシーなエフェクトが用いられたコズミック・ジャズとなっている。14分を超す大作の “Awake, A Dream” はじめ、全体を通じてフォークとスピリチュアル・ジャズが融合したような作品となっており、神秘的でサイケデリックな風景を描いている。パトリック・フォージ曰く「ペンタングルとデヴィッド・アクセルロッドの間にあるどこか」とのこと。


Kobie Dozier
N'namdi

KND

 コビー・ドジャーはアメリカ東海岸で生まれ、ロサンゼルスで育ったサックス奏者。カマシ・ワシントンの父親であるサックス奏者のリッキー・ワシントンからレッスンを受け、またカマシやテラス・マーティンらを育てたピアニストで音楽教師のレジー・アンドリュースにも学ぶ。その後ニューヨークのニュースクール大学に進学し、現代音楽の博士号を得ている。卒業後はロサンゼルスとニューヨークを往来しながら活動し、ロサンゼルス・カウンティ美術館で開催されたカマシ・ワシントン+100人による『Harmony Of Difference』コンサートにも参加している。共演アーティストはカマシのほかにレジー・ワークマン、ジェイソン・モラン、エスペランサ・スポールディングなどがおり、自身のクインテットを率いて全米各地をツアーしている。

 作品リリースでは2024年に “For The People” というシングル曲でデビューしているが、この曲はジャズとゴスペル、R&Bが結びついた楽曲。そして、この度ファースト・アルバムの『N'namdi』を発表した。“The Vanguards” はダイナミックなリズム・セクションによるジャズ・ファンク調のナンバーで、コビー・ドジャーのエモーショナルなサックスのほか、トロンボーンのソロなどがフィーチャーされ、特に終盤に向けての盛り上がりが最高。“Tribe” はモーダルなテイストのアフロ・ジャズ・ファンクで、タイトルどおり黒人のルーツに立ち返った作品。女性コーラスをフィーチャーしたアフロ・カリビアン・フュージョンの “N’namdi” 含め、全体的にアフリカ風味やブラックネスが感じられる点はカマシ・ワシントン周辺の作品にも共通する部分だ。

Profile

小川充 小川充/Mitsuru Ogawa
輸入レコード・ショップのバイヤーを経た後、ジャズとクラブ・ミュージックを中心とした音楽ライターとして雑誌のコラムやインタヴュー記事、CDのライナーノート などを執筆。著書に『JAZZ NEXT STANDARD』、同シリーズの『スピリチュアル・ジャズ』『ハード・バップ&モード』『フュージョン/クロスオーヴァー』、『クラブ・ミュージック名盤400』(以上、リットー・ミュージック社刊)がある。『ESSENTIAL BLUE – Modern Luxury』(Blue Note)、『Shapes Japan: Sun』(Tru Thoughts / Beat)、『King of JP Jazz』(Wax Poetics / King)、『Jazz Next Beat / Transition』(Ultra Vybe)などコンピの監修、USENの『I-35 CLUB JAZZ』チャンネルの選曲も手掛ける。2015年5月には1980年代から現代にいたるまでのクラブ・ジャズの軌跡を追った総カタログ、『CLUB JAZZ definitive 1984 - 2015』をele-king booksから刊行。

COLUMNS