ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Brian Eno ──ブライアン・イーノがレーベル〈Opal〉を再始動、あわせて00年代の2作品がリイシュー
  2. Arca - XXXXX
  3. interview with Actress UKテクノ界の奇才が語るみずからの哲学 | ──アクトレス、インタヴュー
  4. 細野晴臣 - Yours Sincerely | Haruomi Hosono
  5. Klara Lewis - Opening | クララ・ルイス
  6. R.I.P. 鷲巣功
  7. 別冊ele-king パンク50周年記念号──それは何だったのか、何でありえるのか
  8. Loraine James ——ロレイン・ジェイムズの新作、突如のリリース(しかも無料DL)
  9. interview with Cameron Picton (My New Band Believe) 元ブラック・ミディのキャメロン・ピクトン、新バンドにかける想い | ──初のアルバムを送り出したマイ・ニュー・バンド・ビリーヴ
  10. ele-king vol.37 ボーズ・オブ・カナダ大研究/サイケ&ドリーミー特集
  11. interview with caroline いま、これほどロマンティックに聞こえる音楽はほかにない | キャロライン、インタヴュー
  12. Future Sound of Jazz ——蘇る「フューチャー・ジャズ」、ドイツの〈Compost〉の人気シリーズが16作目
  13. This Is Lorelei - The Singer in My Band | ディス・イズ・ローレライ
  14. 異次元の常識──パンク/ハードコアの思想とメッセージ
  15. interview with Wendell Harrison 音楽の楽園=デトロイトから、ウェンデル・ハリソンがファラオ・サンダースとサン・ラーの思い出を語る
  16. 別冊ele-king 坂本慎太郎の世界
  17. RYUICHI SAKAMOTO + SHIRO TAKATANI AMBIENT KYOTO - TOKYO -
  18. Tohji - angel
  19. Kim Doeon - SLAPSTICK | キム・ドオン
  20. Arca - &&&&&  | アルカ、Jesse Kanda,Distroid

Home >  News >  RIP > R.I.P. Sensational (Colin Julius Bobb) - センセーショナルとの思い出

RIP

R.I.P. Sensational (Colin Julius Bobb)

R.I.P. Sensational (Colin Julius Bobb)

センセーショナルとの思い出

文:Kohei Matsunaga (NHK yx Koyxen) Aug 14,2026 UP

 センセーショナルは、もともとアメリカのメジャーなラップ・グループ、Jungle Brothersのメンバーだった。本人から聞いた話では、気がついたらいつの間にかメンバーから外されていたらしい。
 そんな経歴を持つ彼と僕が出会ったのは、2002年頃だったと思う。彼のことを知ったきっかけは、僕が十代の終わり頃、1998年に参加した〈Mille Plateaux〉のコンピレーションだった。そこに〈WordSound〉のSpectre(スペクター)が参加していた。そこから少し掘っていって、センセーショナルが1997年にリリースした『Loaded with Power』というアルバムを見つけた。それを聴いて、僕は「すごくカッコいいな」と思った。当時、僕は日本で音楽イベントを企画したりしていたので、彼を日本に呼ぶことにした。
 それが、センセーショナルとの付き合いの始まりだった。

 日本に招聘してイベントをやったことをきっかけに、僕たちは一緒に音楽を作るようになった。最初は僕のトラックを彼のアルバムで使ってもらうことができて、その後、一緒にアルバムを一枚作ることになった。当時から交流のあったAutechreも、僕とセンセーショナルのことを気に入ってくれていたので、僕たちの作品のリミックスまで引き受けてくれた。しかも、たしかギャラは1ドルだったと思う。
 それが2005年頃だった。

 そこから僕はセンセーショナルを何度も日本に呼んだし、一緒にヨーロッパツアーにも何度か行った。そして、センセーショナルと一緒にいると、とにかく何でも珍道中になった。彼と遊んでいるというより、彼と一緒にいること自体が、もう珍道中だった。例えば、日本に呼んだときのこと。いつだったかは忘れてしまったけれど、ホテルが全然取れなくて、僕と〈WordSound〉のレーベルオーナーのスペクターとセンセーショナルの三人で、一部屋しか取れなかったことがあった。その夜、僕とスペクターが寝ている横で、センセーショナルが女の子を連れ込んで、何やら始めてしまった。

 「おいおい、ここ三人部屋やぞ……」
 と思いながら、僕らはどうすることもできず部屋を出た。
 そもそもセンセーショナルは、ものすごく女好きだった。

 本当に、目が合った女の子を片っ端からナンパするような勢いだった。一緒に街を歩いていると、またナンパしている。「またかよ」と思って、3メートルくらい歩いたら、もう別の女の子をナンパしている。ヨーロッパでも、またナンパ。アメリカでも、またナンパ。一緒にいるこっちが恥ずかしくなるくらいだった。ニューヨークのメトロでもナンパしていた。
 たしか大阪だったと思うけれど、そのときもセンセーショナルが女の子をナンパしていた。ところが、その女の子は、どう見てもヤクザっぽい男と一緒に歩いていた。普通に二人で歩いているのに、その連れの男が明らかに怖そうな人なのに、センセーショナルはかまわずナンパしていた。その瞬間、僕はさすがに「これはヤバい」と思って、若干隠れた。「俺は関係ありません」という感じで。
 そんな人だった。

 ヨーロッパツアーでも、いろんなことがあった。
 たしかフランスのマルセイユからパリへ戻るTGVのなかだったと思う。センセーショナルはものすごく酔っ払っていた。僕は対面式のシートに座って、ちょっとうとうとしていた。周りには普通にたくさんの乗客がいる。すると突然、センセーショナルがお金を取り出して、破り始めた。
 「What the fuck is money?」
 そう言いながら、札をビリビリ、ビリビリと破っていく。
 数百ドル分くらいはあったと思う。周りの乗客は完全に引いている。
 僕も「うわ、最悪だ」と思った。もうこれは悪夢でしかない。
 だから僕は、寝たふりをした。
 「俺は何も見ていません」ということにした。
 そしてパリで下車するとき、同じ車両に乗っていたフランス人のおばあさんに、「私はあなたのお友達のこと、一生忘れないと思うわ」と真顔で言われた。
 そんなこともあった。

 でも、センセーショナルは、ただめちゃくちゃな人だったというだけではない。彼には、ものすごく強烈な音楽的な身体感覚があった。食べるものにもかなりこだわりがあって、イタリア料理か、ハンバーガーしか食べなかった。どこに行ってもハンバーガー。海外ツアーでもハンバーガー。日本でもハンバーガー。
 一緒にどこかのハンバーガー・ショップにいたときのことだったと思う。たしかフレッシュネスバーガーだったような気がする。
 店内でフォーク・ミュージックみたいな音楽が流れていた。
 するとセンセーショナルが、その音楽に合わせて突然踊り始めた。
 その踊りが、ものすごくカッコよかった。
 やっぱりリズム感がすごい。何気なく踊っているだけなのに、身体の動きそのものが音楽になっているような感じだった。
 「ああ、この人はやっぱりすごいな」と思った。

 楽器屋に一緒に行ったこともある。MPCみたいなリズムマシンを見つけると、センセーショナルは適当に触り始める。別に真剣に曲を作っているわけでもない。
 ただ遊んでいるだけ。
 ところが、適当に打ち込んだリズムが、もう異常にカッコいい。
 「なんだそれ?」と思う。
 本人は遊んでいるだけなのに、出てくるリズムが完全に音楽になっている。そういう瞬間が何度もあった。

 ライヴも、また大変だった。

 センセーショナルは、ものすごく緊張する人だった。ライヴ前になると、汗が指先からしたたり落ちるくらい汗をかいている。そしてライヴが始まる。僕がDJとして、自分の作ったトラックをかける。センセーショナルが、その上でラップをする。
 ところが、「あ、これ違う」と言う。
 次の僕の曲をかける。
 「これも違う」
 また次。
 「これも違う」
 3曲、4曲と、次々に僕の曲を却下していく。
 客は目の前にいる。
 ステージの上である。
 僕としては、
 「いや、どれやねん……」という感じになる。
 でも、ある瞬間、僕がかけた曲に対して、
 「あ、これ」という感じになる。
 すると突然、バーッとラップを始める。
 それまで何曲も「違う」と言っていたのに、ハマった瞬間、一気に始まる。
 そういうライヴだった。
 事前に全部決められたものを淡々とやるというより、その瞬間に自分の感覚に合うものを探していたんだと思う。
 そして、ハマった瞬間の彼は、本当に凄かった。

 もちろん、無茶苦茶なこともたくさんあった。ライヴ前に無茶をしすぎて、ステージに立てなくなってしまったこともあった。僕は無茶をしない人間なので、横で見ながら「こいつ、やばいだろ」と思っていた。
 でも、今振り返ると、それも含めて全部センセーショナルだったんだと思う。
 とにかく、彼と一緒にいると何かが起きる。
 普通にホテルに泊まることすらできない。
 普通に電車に乗ることすらできない。
 普通に街を歩くことすらできない。
 普通にライヴをすることすらできない。

 でも、そういう人だったからこそ、一緒にいて面白かった。
 いや、正確に言うと、全部面白かったし、全部面倒くさかった。
 それが僕にとってのセンセーショナルだった。

文:Kohei Matsunaga (NHK yx Koyxen)

NEWS