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Roy Montgomery & Martha Skye Murphy

AmbientDream pop

Roy Montgomery & Martha Skye Murphy

Nebular

AD 93

野田努 Aug 18,2026 UP

 先だって、タワーレコードでyukinoiseとトークをやったとき、話題がコクトー・ツインズになり、彼女の口から、いま多くの若いリスナーがドリーム・ポップに夢中になっているし、コクトー・ツインズを発見しているという話を聞いた。タワーレコードの人からも、最近、コクトー・ツインズがものすごい勢いで売れていると言われて、おー、そうか、やったぞ、次号の紙エレキングはドリーム・ポップを特集しているんだよねと、ぼくは得意げに言った。
 しかしなんでまた……。

 ロイ・モンゴメリーとマーサ・スカイ・マーフィーによるアルバム『Nebular(ネビュラー)』を聴いて、これ、思い切りコクトー・ツインズやんけと思った。マーサ・スカイ・マーフィーは、ほとんどエリザベス・フレイザー風というか、天上の声とでも言いたくなるような響き、吸引力をもった幽玄さがある(ゴシック版ジュリアナ・バーウィックと形容してもいいかもしれない)。モンゴメリーの何重にも絵の具を塗りたくったようなサウンドは、ロビン・ガスリーとハロルド・バッドの音響美学を継承し、超越的な情感を創出している。これが “いま ” という時代の音なのか。最後の曲ではメアリー・ラティモアが参加しているが、彼女のハープ演奏は、塗りたくられた音の層のどこかに紛れてしまっている。
 ロイ・モンゴメリーはニュージーランド在住のギタリスト、すでに30年ほどのキャリアのある人で、あのグルーパーとのカップリングを1枚出している。マーサ・スカイ・マーフィーはロンドン在住、彼女はアンビエント・アルバムを1枚出している。ここ数年精力的なリリースを続けている〈AD 93〉レーベルの昨年のヒット作、James Kのアルバムもドリーム・ポップ作品だった。そうか、やはり時代は……。

 ドリーム・ポップという言葉自体を言い出したのは、A.R.ケインだと言われている。1987年、ジャマイカのサウンドシステム文化を愛するアフリカ系の彼らは自らの音楽をその言葉で定義したわけだが、A.R.ケインがそのとき聴きいていたのはマイルスとECMと、そしてコクトー・ツインズだけだった。彼らのセカンドEPのプロデューサーは、ロビン・ガスリーである。まったく黒人音楽の要素を欠いたエリザベスとロビンの音楽に、カリブ海の音楽を好むふたりが惚れ込んだという、この奇妙な屈折が、ある意味ドリーム・ポップに広がりをもたらすことになった(そのいっぽうで、彼らがあの「Pump up the Volume」の作者でもあるというが、いまとなっては妙に思える)。
 当時、彼らがその用語を思いついたのは、「ポップはかつて夢についてだったと思うけれど、いまは味気ない現実や願望を反映している」だけのものになっているからで、サイモン・レイノルズの定義によれば、ドリーム・ポップとは、「スローガンを捨て去るスタイルを象徴するスローガン」であり「音楽の本質は、夢想、幻覚、ヴィジョン、トランス状態のために、そしてそれらから生まれるという信念」の産物だ。

 いまドリーム・ポップが求められている理由、そのヒントが彼らの言葉のなかにあるかもしれない。安全で心地よい意識高い系をありがたがる人たちがいるいっぽうで、音楽でいちいち教化されたくない人たちがいる。ドリーム・ポップは後者だろう。ちなみにA.R.ケインは3年前に再結成し、シーフィールジャブなどとライヴで共演し、過去作をまとめたボックスセットもリリースしている。
 時代の音を聴きましょうや。

野田努