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interview with Toshimaru Nakamura

interview with Toshimaru Nakamura

世界を魅了する、類い稀なる電子音響

──中村としまる、待望の初期ベスト盤リリースと超ロング・インタヴュー

取材・文:細田成嗣    Sep 07,2026 UP

 キース・ロウ、クリスチャン・フェネスオーレン・アンバーチと結成したグループ「4g」での活動や、デイヴィッド・シルヴィアン『Manafon』(2009年)への客演などでも知られる、ノー・インプット・ミキシングボード(No-Input Mixing Board、NIMB)のパイオニア、中村としまるが初のベスト・アルバムをリリースする。1999年〜2002年に録音した4枚のソロ・アルバム、『No-Input Mixing Board』『同2』『同[3]』『Vehicle』から抜粋した自選アーリー・ワークスである。
外部入力せずミキサーそれ自体をフィードバックさせることで音を出すNIMBを中村としまるが「発明」したのは90年代後半のことだった。折しもウィーン、ベルリン、ロンドン、シカゴそして東京など、世界各都市では同時多発的に、従来の即興音楽とは異なる価値観/方法論に基づく演奏をおこなうインプロヴァイザーたちが続々と出現していた。そうした「即興音楽の新たなパラダイム」についてかつてコントラバス奏者/音楽学者のペーター・ニクラス・ウィルソンは「脱主観化、制限、静止、静寂、感情表現しない演奏など」を中心概念として挙げていたが*、東京において中村をはじめ杉本拓、秋山徹次、大友良英、Sachiko M、吉田アミといった面々が形作ったムーヴメントは「音響」という言葉と共に語られ、なかでも代々木のギャラリー/フリースペース、オフサイト(2000〜2005年)を舞台としたエクストリームなまでの弱音の試みでひとつの極点に達した、とひとまずは整理することができる。
 オフサイト閉店後のそれぞれの活動はさまざまだ──作曲や構造へと目を転じた者もいればサウンド・インスタレーションへと重点を移した者もいるし、音楽へと「回帰」した者もいれば特段変わらずマイペースな活動を続ける者もいる。正確にはいずれもオフサイト運営時からそのように動き出していたものの、ともあれ、中村としまるの場合、ゼロ年代後半〜テン年代を通じての変化をひとつ挙げるとするなら「ノイズ化」だろうか。NIMBをはじめた初期にはあまり聴かれなかった激しい演奏を積極的に取り入れるようになり、ノイジシャンからフリー系ジャズ・ミュージシャンまでさまざまなタイプのインプロヴァイザーとのセッションを重ねてきた。むろんこの間、新しい世代のアーティストも陸続と台頭しており、中村はジャンルのみならず国境も世代も超えて日夜ライヴを繰り広げ、録音作品も共作してきている。


かつてAMMでも活動した即興界の巨匠、Keith Roweと一緒に。(by Yuko Zama)

 中村としまるがNIMBを開拓して以降、すでに30年近くの歳月が経過した。いまではこの手法も一定程度は人びとに定着したと言っていいだろう。少なくともYouTubeで「No-Input Mixing Board」と調べてみるなら多数のチュートリアル動画からプレイ動画まで公開されている。世界中の人びとが──なかにはToshimaru Nakamuraの名を介することなく──好奇心の赴くままに取り組んでいるようである。
 このたび世に送り出されるNIMBアーリー・ワークスをそのような現在の地点から聴くことの意義はいくつかある。ひとつは当時、チュートリアル動画どころかプレイヤーすらほぼ存在しなかった状態で、中村としまるが独自に開発した実践が、いわば初期衝動とともに新鮮な状態でパッケージされているということ。そしてもうひとつは、しかしそこに選ばれ収められた音楽は、「即興」「ノイズ」「音響」といった言葉から連想されるようなサウンドとはやや異なるということ──虚心坦懐に耳を傾けてみるなら、ときにはグルーヴィーでダンサブルに、ときには穏やかなアンビエント・テイストに鳴り響くその音楽は、クラブで流れる極度にミニマルな実験的エレクトロニカ、と言ったほうが近いかもしれない。
 アーリー・ワークスに選ばれることのなかったいくつかのトラック、あるいは中村としまるが90年代後半〜ゼロ年代初頭に制作したSachiko Mとのデュオ・アルバムや杉本拓、秋山徹次らとのライヴ盤等々が「即興音楽の新たなパラダイム」のイメージを築いたエクストリームな「音響」だったとするならば、このアーリー・ワークスにはそれとはまた別の一面、エクストリームな「音響」のイメージに隠れてしまっていたかもしれない、じつに音楽的なNIMBのありようが刻まれているのである。むろんそれは旧来の音楽的記号──五線譜やメロディ/ハーモニー/リズムといった記号には回収し得ない音響のテクスチュアそのものに基づいた先鋭的な録音実践ではあるものの。
 いずれにせよ中村としまるの初期NIMBの記録を新たな視座に置き直して聴くにはじゅうぶんな時間が経った。彼は30代半ばに差し掛かった当時**、なぜNIMBの「発明」へと至ったのか。それ以前はどのような活動をおこなっていたのか。「音響」ムーヴメントの内実とは。そして彼自身はこたびのアーリー・ワークスをどう捉えているのか。まずはNIMBについての基礎的なことの確認から話を訊いた。

*ペーター・ニクラス・ウィルソン「即興音楽の新たなパラダイム」(北里義之訳、山田衛子補訳、『NEWS OMBAROQUE』VOL.64、2004年4月刊)
**中村としまるは1962年生まれ。海外のウェブサイトには1966年生まれとの記載もあるが間違い。なおDiscogsでは初録音がユージン・チャドボーンのカセット『Solo History』(1982年)と登録されてしまっているが、これも間違いとのこと。

◆ノー・インプット・ミキシングボードとは何か

取り扱い説明書には「そういうことしないでね」って書いてある。一般的な音楽の要素からすれば排除すべきノイズ成分が出てしまう。でもそれをやったからといって壊れるわけじゃないし、ノイズ成分もうまく扱えば音楽にちゃんと使える。

そもそもノー・インプット・ミキシングボードとは何か、という基礎的なところからお話を伺いたいのですが。

中村としまる(以下、中村):僕が演奏で使っているのはミキサーです。マッキーというメーカーの小型アナログミキサー。普通、ミキサーというのは、楽器やマイクロフォンなどの外部の音源を入力(インプット)して、2チャンネルのステレオにミックスして出力(アウトプット)するものなんですけど、僕は外部から音を入力しないで、ミキサー自体の出力を入力に戻して音を出しているんです。取り扱い説明書には「そういうことしないでね」って書いてある。そこを繋げるといわゆるフィードバックを起こして、一般的な音楽の要素からすれば排除すべきノイズ成分が出てしまう。でもそれをやったからといって壊れるわけじゃないし、ノイズ成分もうまく扱えば音楽にちゃんと使える。

外部音源の入力がないミキサーだからノー・インプット・ミキシングボードと。もともとミキサーは楽器ではないわけですよね。

中村:楽器ではないです。普通はPAやレコーディングで使う音響機器なんで。

つまり音響機器を楽器に転用している。

中村:はい。

純粋にフィードバックだけ起こすとどういう音が鳴るんですか?

中村:いちばんシンプルな状態だと「ピー」とか「チー」とか鳴ってますよ。

音としてはサインウェーヴに近い?

中村:いや、サインウェーヴはもっと綺麗な波形ですけど、そういう音にはならない。もっとひずんでいて、波形も複雑で。言ってみれば汚い音。僕は自分でケーブルを作って7つに分岐させていて、7系統のフィードバックを使うようにしています。で、各チャンネルのイコライザーの設定をうまく変えてちょっとズラしたりすると、その差でなかなか面白い音が出るんですよ。あとギター用のファズとか、エフェクターも間に噛ませているんで、自分自身としては「中村としまる、よくやった!」というぐらいのヴァリエーションが出せている(笑)。まあ、何度か試したことありますよ、ものすごくシンプルなフィードバックだけで演奏するのは。それはそれでとても豊かです。だけど普段はエフェクターを使っています。

ミキサー自体がフィードバックして発生する音が大元にあって、ループする回路をいくつか設けたり、エフェクターを使用したりすることで、音色を変えていくと。そうして作った柔らかい音から激しいノイズまで、さまざまな音色を用いて演奏していくわけですね。

中村:そうです。ただ、激しいノイズを出すのは簡単ですけど、柔らかい音はなかなか難しい。だから柔らかい音が出たときは嬉しいですね。まあ即興なんでね、行き当たりばったりですから、自分が「今日はこの音を出したい」と狙って演奏に臨んでるわけではなくて。最初に出た音があって、それにどう対処していくかということの連続なんです。そのなかでときどき、柔らかい音が出ると「おお、出た出た」と思いますね。

ライヴで使うミキサーはいつも同じですか?

中村:同じです。自分の手が届く範囲のほうがいいので、あんまり大きなものだと持て余しちゃうから、もうずっとマッキーの小型アナログミキサーを使ってます。

30年近くも?

中村:はい。最初に買ったのをいまでも使ってます。ま、一時期、破損してノブが取れちゃったことがあって、困ったなあと思ったらヤフオクに同じモデルのミキサーが出てたんですよ。それを買ったから、2台を併用しています。壊れたミキサーは修理してね。修理に出すとき、古いからガリノイズとかも出ちゃっていたんですが、それも味だから、「このガリノイズは絶対に直さないでください。僕が直してほしいのは折れたノブなので、そこだけ取り替えてください」って修理屋さんに口を酸っぱくして言ったの。歴史を繋げておきたい感じがあってさ。ガリノイズが出ない状態で戻ってきたら途切れてしまうから。まあ、その2台をメインで使ってます。エフェクターとか他の機材は毎回変わりますね。一回演奏したらもう忘れたいんで。

忘れたいと。

中村:同じセッティングでずっと続けていると、慣れてきちゃうじゃないですか。使い方を勉強してしまう。そうすると「ここのエフェクターとこう繋いで、ここのツマミをこういうふうにするとこんな音が出るな」といったことがだんだんわかってくるんです。それが嫌で嫌で。わかりそうになったらセッティングを変える。つねに自分を驚かせておきたいんですね。自分を不安定な状態に置いておかないとダメなんです。

取材・文:細田成嗣(2026年9月07日)

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Profile

細田成嗣/Narushi Hosoda細田成嗣/Narushi Hosoda
1989年生まれ。ライター/音楽批評。編著に『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(カンパニー社、2021年)、主な論考に「即興音楽の新しい波 ──触れてみるための、あるいは考えはじめるためのディスク・ガイド」(ele-king ウェブ版、2017年)、「来たるべき「非在の音」に向けて──特殊音楽考、アジアン・ミーティング・フェスティバルでの体験から」(ASIAN MUSIC NETWORK、2018年)など。2018年5月より国分寺M’sにて「ポスト・インプロヴィゼーションの地平を探る」と題したイベント・シリーズを企画/開催。

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