Home > Columns > Dennis Bovell- デニス・ボーヴェルひさびさの新録は無類のカヴァー集
河村祐介 Sep 03,2026 UP
UKルーツ・レゲエ/ダブ、そしてラヴァーズ・ロック・レゲエのイノヴェイターであり、ポストパンクとレゲエ/ダブを直接サウンド的に繋げた重要人物でもあるプロデューサー/エンジニア/マルチ・インストゥルメンタリストのデニス・ボーヴェル。御年73歳、昨年のエイドリアン・シャーウッド、マッド・プロフェッサーと帯同した来日公演でもパワフルなトースティングを会場に響かせていた。本作はそんな昨年にリリースされたひさびさの本人名義のアルバムだ(比較的アーカイヴの編纂音源が多かったので、ソロ名義の新録は2006年の自身のヴォーカル・アルバム『All Over the World』以来?)。LPとデジタルのみでリリースされていたが、このたびめでたくCD化と相成った。
本作はタイトルに「ダブ」とあるが、純然たるダブ・アルバムではなく、ゲスト・ヴォーカルなども配し、歌モノにもデニスのキレキレのダブワイズが施されつつで、さまざまな要素がシームレスにつながったそんなアルバムとなっている。また全曲がカヴァーで構成されているのも特徴だ。
バック・バンドは、アスワドやアフリカン・ヘッド・チャージで活躍してきたドラマーのペリー・メリウス、ベースはデニス本人が担当──彼はマルチ・インストゥルメンタリストだが、LKJ作品や自身のバンド、マトゥンビなどでは主にベースを担当、UKレゲエを代表するベーシストでもある。またホーン隊にはモダンUKレゲエ〜アフロビート・シーンで活躍するソースセイヤーズの中心人物、ロビン・ホップクラフト(トランペット/トロンボーン)、イドリス・ラーマン(サックス)が参加するなどUKレゲエ人脈で固められてる。一部、“Dutchie Dub” に関しては故ジャッキー・ミットゥーやリロイ・シブルス、マイティ・ダイアモンズのメンバーといったジャマイカのアーティストがクレジットされている。これに関しては詳しくは後述するが、恐らく1980年代初頭の彼らが演奏した音源が下敷きになっており、そこにスティール・パンなどのオーヴァー・ダブ/ダブワイズを施したのではないだろうか。
本作に関していろいろと調べてみるとわかるのが、意識的なのか、いやデニス自身のバックグランドとそのキャリアから自然と出てきたものといえばそれまでだが、まさに、イギリスの帝国主義〜植民地主義、奴隷貿易を含むアフリカとカリブとイギリスを結ぶいわゆる三角貿易によって生み出された、「黒い大西洋」が背景に浮かぶそんな作品でもある。UKのアフロ・ディアスポラの歴史から生まれてきたということを非常に意識させる要素に満ちたアルバムだ。
デニス自身はジャマイカ出身ではなく、同じく英植民地で、カリブ海の島国のバルバドスで生まれている。1940年代末にはじまった、第二次大戦で疲弊した労働力を補うための、カリブ諸国の植民地からイギリス本国への、主にアフリカ系住民の移住──いわゆるウィンドラッシュ世代と呼ばれる一団、その第一世となる両親とともにイギリスとへと移住してきたようである。
彼ら移住者はそれぞれのカルチャーを持ち込み、それが現在のUKの芳醇で多様な音楽を形作ったわけだが、本作の背景はまさにそうしたカルチャーの上に成り立っている。例えば本作ではバルバトス系のデニスが、ジャマイカ系の住民によって運ばれてきたサウンドシステム・カルチャー、そしてレゲエに、ロンドンで出会い、彼はそこに自らの表現を見出していく。またデニスはイギリスで生まれ育ち、UKのポップスやロックを聴いて育つことで、UKのレゲエにジャマイカ産にはないカラーを施し、オリジナルなサウンドへと進化、それはラヴァーズ・ロック・レゲエの誕生にも影響を与えているといわれている。また彼らカリブ系の移住者によって持ち込まれたのはレゲエだけでなく、それぞれの地域に根ざしたカリプソやソカといった、さまざまなカリブの音楽も同様で、例えば本作で頻繁に使われているスティール・パンもトリニダード・トバコの楽器だ。
全曲がカヴァーで構成されているが、カヴァーの元の楽曲もこうした背景を感じさせるデニスらしい選曲とも言える。以下にそれぞれ解説するが、一部、資料などに公表されていない楽曲もあり、クレジットなどを参考にAIとともに同定したものがあるが、原曲などを聴きくらべてみるにおそらく間違いはないだろう(間違ってたらすいません)。本作は大きくわけて4つの楽曲で構成されている。まずはUKレゲエのクラシック、さらにはジャマイカのレゲエ、そしてアメリカのソウルやR&B、さらにはイギリスのロックやポップスだ。
まずはUKレゲエで言えば、元アスワドのブリンスリー・フォードがヴォーカルをとる “Black and White” はグレイハンドのラヴァーズ・ロックの名曲 “Black and White”、“dUb Delight” はUK最初期のレゲエ・バンド、シマロンズの “Dim the Light”。
ジャマイカのレゲエからは、エチオピアンズのクラシック・ロックステディ “Train to Skaville” の “Train to dUbville”、トリニダード出身で、主にスカ時代にジャマイカでも活躍したロード・クリエイターの “Don't Stay Out Late” をカヴァーした “Don't Stay Out Late”、そして〈スタジオ・ワン〉出身のシンガー、ウィンストン・フランシスが歌うのは、同じく〈スタワン〉のミスター・ロックステディ、ケン・ブースによる “My Heart Is Gone” である。残す1曲は “Dutchie dUb”、UKのポップ・レゲエ、子ども合唱なトースティンとスティール・パンが心地よい楽曲だが、オリジナルは “Pass The Dutchie”、イギリスのミュージカル・ユースの大ヒット曲。しかし、これはジャマイカのプロデューサー、ガッシー・クラークのプロデュースのコーラス・グループ、マイティ・ダイアモンズの “Pass the Kouchie”(クーチーは大麻の意味)のカヴァーだったりもする(さらにいえば、〈スタワン〉のサウンド・ディメンションによるファンデーション・リディム “Full UP” のリメイクでもある)。おそらく前述のジャマイカン・アーティストたちのクレジットはこの音源に由来するものではないだろうか。
USのソウル、R&B由来の楽曲、まずは “dUb Together” はロバート&ジョニーの “We Belong Together”。1980年代からグループ、イマジネーションとして活躍するUKソウルのシンガー、リー・ジョンが歌う “You're a Big Girl Now” は、ザ・スタイリスティックスの “You're a Big Girl Now”。そして本作の目玉とも言える、ラヴァーズ・ロックの歌姫、キャロル・トンプソンが歌いあげる “Les dUb” は、4ヒーローもカヴァーしたミニー・リパートン “Les Fleurs” だ。
UKの白人のロックやポップスにも慣れし親しみ影響を公言するデニスだが、ゾンビーズやアージェントのカヴァー “dUb Season”“dUb hEaD” はまさにそうした趣向を現すものだろう。
こうした選曲をみるだけでも、デニス・ボーヴェル、そしてUKのアフロ・ディアスポラの歴史と社会背景が見えてくるというのは、本作を聴く上での補助線として知っておいても損はないだろう。とにかく気持ちの良いダブ・サウンドと、甘美なメロディ、スティール・パンがもたらすトロピカルな雰囲気もある。ヴォーカル楽曲など彼らしいラヴァーズ・ロック・レゲエの要素もふんだんに取り入れ、もちろんサウンド的にもキラーなダブワイズも効かせた、まさに彼の集大成と呼べるスタイルが結実した作品となっている。悲しい歴史は本作を聴く上でたしかに必要はないかもしれない。しかし、こうしたサウンドが、その背景となる多様な文化のミクスチャーによってできたことが事実であることもこの作品はまた伝えていると言えるだろう。
河村祐介/Yusuke Kawamura