ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Columns 攻めの姿勢を見せるスクエアプッシャー ──4年ぶりの新作『Dostrotime』を聴いて | Squarepusher
  2. マヒトゥ・ザ・ピーポー初監督作『i ai』が3/8より公開
  3. interview with Kode9 〈ハイパーダブ〉20周年 | 主宰者コード9が語る、レーベルのこれまでとこれから
  4. Squarepusher ──スクエアプッシャー4年ぶりの新作はストリーミングでは聴くことができない
  5. Jeff Mills × Jun Togawa ──ジェフ・ミルズと戸川純によるコラボ曲がリリース
  6. Lost Souls Of Saturn - Reality | ロスト・ソウルズ・オブ・サターン
  7. interview with Martin Terefe (London Brew) 『ビッチェズ・ブリュー』50周年を祝福するセッション | シャバカ・ハッチングス、ヌバイア・ガルシアら12名による白熱の再解釈
  8. Jeff Mills ——ジェフ・ミルズと戸川純が共演、コズミック・オペラ『THE TRIP』公演決定
  9. Columns Squarepusher 9 Essential Albums スクエアプッシャーはこれを聴け!
  10. interview with Squarepusher スクエアプッシャー、原点を語る
  11. Columns 2月のジャズ Jazz in February 2024
  12. 川口好美 - 『不幸と共存 魂的文芸批評 対抗言論叢書4』
  13. Kali Malone - All Life Long
  14. レコード蒐集家訪問記 第⼀回 ピンク・フロイド『夜明けの⼝笛吹き』を60枚以上持つ漢
  15. interview with Squarepusher あのころの予測不能をもう一度  | スクエアプッシャー、トム・ジェンキンソン
  16. R.I.P. Damo Suzuki 追悼:ダモ鈴木
  17. Columns ♯3:ピッチフォーク買収騒ぎについて
  18. Helado Negro - PHASOR | エラード・ネグロ
  19. Bonobo presents OUTLIER ──ダウンテンポの達人、ボノボがキュレートするイベントにソフィア・コルテシス、真鍋大度、食品まつりが出演
  20. Cowboy Sadness - Selected Jambient Works Vol. 1 | カウボーイ・サッドネス

Home >  Columns > 11月のジャズ- Jazz in November 2023

Columns

11月のジャズ

Jazz in November 2023

小川充 Nov 27,2023 UP

 先日、ele-king年末号で「2010年代のジャズ」に関するコラムを寄稿し、その中で英国マンチェスターのゴーゴー・ペンギンについて「テクノやドラムンベース的な生演奏を現代ジャズでやってしまう」と解説したのだが、スコットランドのエジンバラを拠点とするヒドゥン・オーケストラもそうしたタイプのアーティストである。


Hidden Orchestra
To Dream Is To Forget

Lone Figures

「アコースティックなスタイルでエレクトロニック・ミュージックを創生する」というコンセプトも両者に共通するものだ。ただし、ゴーゴー・ペンギンがバンドであるのに対し、ヒドゥン・オーケストラはマルチ・ミュージシャンであるジョー・アチソンのソロ・プロジェクトである。形態としてはジェイソン・スウィンスコーのシネマティック・オーケストラに近く、実際の作品制作やライヴにおいては様々なミュージシャンやシンガーが参加しまたフィールド・レコーディングを大幅に取り入れた制作スタイルをとる。ゴーゴー・ペンギンよりも少しキャリアは長く、2010年に〈トゥルー・ソウツ〉からファースト・アルバムをリリースしている。2010年といえば英国リーズのサブモーション・オーケストラもデビュー作をリリースしたが、ドム・ハワード率いるこちらは人力ダブステップ・バンドと形容されたが、ヒドゥン・オーケストラの方はジャズ、エレクトロニック・ミュージック、ポスト・クラシカルなどが結びついた存在と言えるだろう。

 最新アルバムの『トゥ・ドリーム・イズ・トゥ・フォゲット』は、前作『ドーン・コーラス』から6年ぶりのスタジオ・アルバムで、これまで作品を発表してきた〈トゥルー・ソウツ〉から離れ、アチソン自身が設立した新レーベルの〈ローン・フィギュアズ〉からのリリースとなる。基本的にはこれまでの路線を踏襲するものの、以前に比べてフィールド・レコーディングスは少なくし、音楽的なテーマやアイデアをより直接的なアレンジメントに落とし込んでいる。ジェイミー・グラハム(ドラムス)、ティム・レーン(ドラムス)、ポッピー・アクロイド(ヴァイオリン)など、これまで多く共演してきたメンバーに加え、ジャック・マクニール(クラリネット)、レベッカ・ナイト(チェロ)など新たなミュージシャンも迎え、重厚で繊細なオーケストラ・サウンドはより深みを増している。“スキャッター” はヒドゥン・オーケストラお得意のドラムンベースを咀嚼したようなリズム・アプローチで、スロヴァキアの民族楽器であるフヤラが尺八のようにエキゾティックな音色を奏でる。小刻みなドラミングと怪しげなクラリネットがサスペンスフルなムードを駆り立てる “リヴァース・ラーニング” も、現代ジャズとドラムンベースやダブステップの邂逅というヒドゥン・オーケストラを象徴するような世界だ。


Laura Misch
Sample The Sky

One Little Independent / ビッグ・ナッシング

2017年頃から作品をリリースするサウス・ロンドンのサックス奏者のローラ・ミッシュは、トム・ミッシュの姉として既に名前が広まっており、この度デビュー・アルバムの『サンプル・ザ・スカイ』をリリースした。サックスのみならずいろいろな楽器を操るマルチ・ミュージシャンで、作曲からヴォーカルまでこなすシンガー・ソングライターでもある。1年ほど前よりエレクトロニック・ミュージックのプロデューサーであるウィリアム・アーケインとコラボを重ね、そして完成したのが『サンプル・ザ・スカイ』である。

 エレクトロニックなプロダクションであるが、“ハイド・トゥ・シーク” に代表されるように全体のトーンは非常にオーガニックで、それは柔らかでナチュラルな彼女の歌声や風をイメージしたというサックスによる部分が大きい。そして、“リッスン・トゥ・ザ・スカイ” をはじめとした作品では、自然や草木、花などをモチーフにした歌詞、ハープなどの弦楽器やアンビエントなサウンドスケープ、鳥のさえずりなどのフィールド・レコーディングを盛り込み、空を浮遊するような感覚に襲われる作品集だ。“シティ・ラングス” のようにフォークトロニカ的な作品もあり、ギターと歌とサックスが織りなす優しい世界は非常に魅力的だ。


Astrid Engberg
Trust

Creak Inc. / Pヴァイン

 アストリッド・エングベリはデンマークのコペンハーゲンを拠点とするシンガー・ソングライター/プロデューサー/DJで、2020年にファースト・アルバム『タルパ』を発表した。デンマークをはじめとした北欧ジャズ界の精鋭が多く参加したこのアルバムは、現代ジャズにエレクトロニック・ミュージックのプロダクションを持ち込み、伝統的なジャズ・ヴォーカルやクラシックの声楽とネオ・ソウルやR&B的なヴォーカル・スタイルを邂逅させ、デンマーク・ミュージック・アワード・ジャズの年間最優秀ヴォーカル作品賞を受賞するなど高い評価を得た。そうして一躍期待のミュージシャンとなったアストリッドの3年ぶりのニュー・アルバムが『トラスト』である。『タルパ』から『トラスト』にかけての間、アストリッドは母となって長男を出産し、『トラスト』のジャケットでは赤ん坊を抱く彼女の写真が用いられている。子育ての中で『トラスト』は制作されたそうで、そうした子どもの存在や母としての自覚が信頼というアルバム・タイトルに繋がっている。

『トラスト』はトビアス・ヴィクルンド(トランペット)、スヴェン・メイニルド(サックス、クラリネット、フルート)など前作からのメンバーに加え、アメリカからミゲル・アットウッド・ファーガソンが参加する。ミゲル・アットウッド・ファーガソンが2009年にJ・ディラのトリビュートとして作った『スイート・フォー・マ・デュークス』を聴いて以来、アストリッドは彼の生み出すストリングスのファンとなり、切望してきた共演が本作で叶ったのである。その共演作である “スピリッツ・ケイム・トールド・ミー” は、ストリングスやフルートがアラビックで神秘的なフレーズを奏で、アストリッドの歌がスピリチュアルなムードを高めていく。


Kiefer
It's Ok, B U

Stones Throw

 2021年の『ホエン・ゼアーズ・ラヴ・アラウンド』から2年ぶりの新作『イッツ・OK、B・U』をリリースしたキーファー。『ホエン・ゼアーズ・ラヴ・アラウンド』はDJハリソンカルロス・ニーニョなど多くのゲスト・ミュージシャンが参加し、初期のジャジーなヒップホップ・サウンドから、より複雑で熟成されたサウンド・アンサンブルへ進化を遂げていった。そうした中でキーファーもビートメイカー的なピアニストからトータルなサウンド・プロデューサーへとさらにスキル・アップしていったわけだが、『イッツ・OK、B・U』はゲストも最小限にとどめてほぼ独りで作っており、『ホエン・ゼアーズ・ラヴ・アラウンド』以前の作風に帰ったものと言える。そして、改めてビートメイクとピアノをはじめとしたキーボードのコンビネーションに注力している。

 ヘヴィなビートに引っ張られる “マイ・ディスオーダー” はキーファーのビートメイカーならではのセンスが表われた作品で、“ドリーマー” やタイトル曲でのタイトなビートとメロウなピアノのコンビネーションは彼の真骨頂である。ジャジーなヒップホップだけでなく、“ドゥームド” のようなエレクトロとニューウェイヴの中間のようなビートもあり、ビートメイカーとしてもさらに幅が広がった印象だ。また、アンビエントな “フォゲッティング・U』は、キーファーの新しい一面を見せるに十分な楽曲である。そして、『ホエン・ゼアーズ・ラヴ・アラウンド』での体験がピアニストとしてのキーファーのキャリアも高めたようで、より繊細で複雑な表現力を持つピアニストとなっていることが、“ヒップス” や “ヘッド・トリップ” などを聴くとわかるだろう。

Profile

小川充 小川充/Mitsuru Ogawa
輸入レコード・ショップのバイヤーを経た後、ジャズとクラブ・ミュージックを中心とした音楽ライターとして雑誌のコラムやインタヴュー記事、CDのライナーノート などを執筆。著書に『JAZZ NEXT STANDARD』、同シリーズの『スピリチュアル・ジャズ』『ハード・バップ&モード』『フュージョン/クロスオーヴァー』、『クラブ・ミュージック名盤400』(以上、リットー・ミュージック社刊)がある。『ESSENTIAL BLUE – Modern Luxury』(Blue Note)、『Shapes Japan: Sun』(Tru Thoughts / Beat)、『King of JP Jazz』(Wax Poetics / King)、『Jazz Next Beat / Transition』(Ultra Vybe)などコンピの監修、USENの『I-35 CLUB JAZZ』チャンネルの選曲も手掛ける。2015年5月には1980年代から現代にいたるまでのクラブ・ジャズの軌跡を追った総カタログ、『CLUB JAZZ definitive 1984 - 2015』をele-king booksから刊行。

COLUMNS