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Kiefer

Jazz

Kiefer

When There's Love Around

Stones Throw

小川充   Dec 20,2021 UP

 いまさらではあるが、いまもっとも充実しているレーベルのひとつが〈ストーンズ・スロー〉ではないだろうか。レーベルの歴史は長く、これまでもさまざまな名作や話題作を提供してきた〈ストーンズ・スロー〉だが、基本的にはヒップホップを軸に、ファンクやソウルなども幅広く扱っている。扱う音楽の種類が増えるに従ってサブ・レーベルもいろいろと生まれ、〈ナウ・アゲイン〉のように独立・派生していったレーベルもある。マッドリブ、メイヤー・ホーソーン、ジョージア・アン・マルドロウ、アロー・ブラックなど、優れた才能を次々と世に送り出していった。
 そんな〈ストーンズ・スロー〉だが、近年はヒップホップ色がすっかり薄れているのも事実だ。ジャズ、ラテン、ソウル、ファンク、ディスコ、シティ・ポップ、AOR、ビート・ミュージック、エレクトロニカ、アンビエントなどほとんどありとあらゆる音楽を扱う総合レーベルとなっている。そして、とにかくリリース量が多い。2021年を見ても月に2作ほどのアルバムをリリースしていて、その中には以前レヴューで取り上げたアピフェラの『オーヴァースタンド』、ジョン・キャロル・カービーの『セプテット』、ザ・スティオプルズの『ワイド・スロー・ジ・アイズ・オブ・ノー・ワン』があり、これを見ても〈ストーンズ・スロー〉の充実ぶりがわかるだろう。ほかにもベニー・シングス、ノレッジ(knxwledge)、マインド・デザイン(mndsgn)など人気アーティストたちの新作をリリースした。

 キーファーはそんな近年の〈ストーンズ・スロー〉の核となるアーティストのひとりだ。本名はキーファー・シャックルフォードといい、〈ストーンズ・スロー〉のオーナーのピーナッツ・バター・ウルフと同じドイツ系アメリカ人だ。サン・ディエゴ出身でハイ・スクール卒業後にロサンゼルスへやってきたが、幼少期は父親の影響でジャズ・ピアノを学び、クラシックのレッスンも受けていた。ロサンゼルスに出てきたのもUCLAでジャズを専攻するためで、ケニー・バレルやジェイムズ・ニュートンといった巨匠たちに師事している。卒業後はジャズ・ピアニストとしてエイブラハム・ラボエリ、ギルバート・キャステラノスらと共演する一方、マインド・デザインやジョン・ウェインなど〈ストーンズ・スロー〉周辺のビートメイカーたちともコラボをするようになる。

 そうしたところから自身でもビートメイクやプロデュースをおこなうようになり、2017年に『キッキンイット・アローン』というアルバムを〈ストーンズ・スロー〉傘下の〈リーヴィング・レコーズ〉からリリースする。〈リーヴィング・レコーズ〉の主宰者でもあるマシューデヴィッドとジョン・ウェインもミキシングなどで制作協力したこのアルバムは、ギターが入るほかは基本的にキーファーのピアノとビートメイクで作られたもので、LAビート・シーンの流れを汲むジャジー・ヒップホップ集と言えるものだ。しかしながら、キーファーの本格的なジャズ・ピアノが入ることにより、よくあるジャジー・ヒップホップにはない洗練された味わいを生み出していた。そして、このアルバムをリリースした頃にはテラス・マーティンのバンド・メンバーとして来日公演を果たしており、ジョナ・レヴィン・コレクティヴの一員としてアルバムもリリースするなど飛躍していく。アンダーソン・パークやケイトラナダなど著名なアーティストとの共演も増え、キーファーは注目のピアニストとなっていった。

 2018年にセカンド・アルバムとなる『ハッピーサッド』を〈ストーンズ・スロー〉からリリースし、以降は『スーパーブルーム』(2019年)、そして新作の『ホエン・ゼアーズ・ラヴ・アラウンド』(2021年)とすっかり〈ストーンズ・スロー〉の顔のひとりとなっている。『ハッピーサッド』と『スーパーブルーム』は、基本的には『キッキンイット・アローン』の延長線上にある作品で、キーファーのピアノ演奏とビートメイクのコンビネーションで聴かせるアルバムだった。それに対して新作の『ホエン・ゼアーズ・ラヴ・アラウンド』はアンドリュー・ランダッツォ(ベース)、サイモン・マルティネス(ギター)、DJハリソン(ギター)、ウィル・ローガン(ドラムス)、ジョナサン・ピンソン(ドラムス)、サム・ワイカーズ(ベース)、ジョシュ・ジョンソン(サックス)、カルロス・ニーニョ(パーカッション)、アンディ・マッコーレイ(ベース)、エリン・ベントレージ(ヴォーカル)などのミュージシャンと共演し、セッション・スタイルで作り上げたアルバムだ。カルロス・ニーニョやブッチャー・ブラウンのDJハリソンなど、LAシーンのキーパーソンたちが参加する点も見逃せない。

 こうしたこともあって、『ホエン・ゼアーズ・ラヴ・アラウンド』はそれ以前のアルバムに比べて複雑で豊かな演奏やアンサンブルを聴かせる作品だ。メロウで透明な空気に包まれた “アイ・リメンバー・ディス・ピクチャー” は、キーファーの洗練されたピアノの素晴らしさはさることながら、DJハリソンらと共に作り出すバンド・サウンドによって、いちミュージシャンではなくトータル・プロデューサーとしてのキーファーの力量を示すもの。全体的にはフュージョンやクロスオーヴァー的なジャズをやっていて、“リフト・サムボディ・アップ” はジョシュ・ジョンソンのアルト・サックスをフィーチャーし、ポスト・バップとジャズ・ファンクの中間的な演奏にコズミックなサウンド・エフェクトも加えている。“アーリー・シングス” は〈ストーンズ・スロー〉のレーベル・メイトであるリジョイサーにも通じる、ジャズ+アンビエント+ビート・ミュージック的な作品。“クライベイビー” も同傾向のナンバーで、オーガニックな質感のパーカッションとキーファーのキーボードのコンビネーションがイマジネーション豊かな世界を作り出す。キーファーはアルバムの中でアコースティック・ピアノほか、ローズ、プロフェット600、アープ600、コルグ・モノポリー、コルグ・クロノス、ジュノー106、モーグ・サブ37、ローランド202ストリングス、ヤマハDX7、ユーロック・システム、ソリーナ・ストリング・アンサンブルとさまざまなキーボードやシンセを駆使し、特にストリングス系のシンセによって複雑で深みのあるサウンドを作り出すことに成功している。

 キーファーのピアノが作り出すメロウなメロディは彼にとっての武器のひとつだが、比較的以前からのジャジー・ヒップホップ路線に則った “カーリー” は、そんなキーファーの美メロが最大限に発揮されたナンバーだろう。“アーティズ・ラヴ” も美しいキーファーのピアノがフィーチャーされるが、ここではローズとのコンビネーションによって透明感に満ちた音色を聴かせる。この “アーティズ・ラヴ” や “ウィズ・ユー・ホエア・ユー・アー” はキーファーのアンビエント感覚が生かされた作品だが、特に後者におけるエリン・ベントレージのワードレスなヴォイスの使い方もとてもセンスに溢れている。タイトル曲の “ホエン・ゼアーズ・ラヴ・アラウンド” は冒頭で出てきた “アイ・リメンバー・ディス・ピクチャー” に繋がるような楽曲で、往年のアジムスやロニー・リストン・スミスの作品が持っていたメロウネスを感じさせるフュージョン・タッチの作品。改めて聴くと、キーファーの演奏もロニー・リストン・スミスやアジムスのジョゼ・ベルトラミなどの影響を受けているなと思わせる。

小川充