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interview with Mount Kimbie

interview with Mount Kimbie

マウント・キンビー、3.5枚目にして特殊な新作について語る

質問・序文:小林拓音    通訳:原口美穂 Photo by Bolade Banjo   Nov 11,2022 UP

(パンデミックについて)LAって極端でさ、最初のころはめちゃくちゃ厳しくて、みんな警戒してたんだけど、一度少し緩むと、誰も気にしなくなった(笑)。(メイカー)

前作のタイトル『Love What Survives』には、カンポスさんの解釈によれば、ファーストをつくったころの気持ちや勢い、動機が現在でも「生き残っている(survive)」、という思いが込められていました。いまも「survive」しているものはありますか?

KC:自分の数年前の発言を聞くのって、なんか心地わるいね(笑)。いまも生き残っているのは、面白い音楽をつくりたいという気持ち。音楽をつくるのと、音楽業界で仕事をするのって、まったく別物なときもある。なかには、音楽業界で働くことのほうが強くて、結果的に自分が好きだと思わない音楽をつくる方向に進むひとたちもいるけど、ぼくらのなかには、自分たちが面白いと思える、喜びを感じられる音楽をつくりつづけたいという思いがいまだに残っているんだ。高評価をもらったら、それをつくりつづけないといけないと感じるアーティストもいるかもしれないけど、ぼくらにとっては、昔と変わらず音楽づくりを楽しむということが最優先なんだよ。だからぼくたちは、いろいろなやり方で音楽をつくりつづけているんだ。いまも新作に取り掛かっているけど、そのサウンドも今回のアルバムとはまた違うしね。

通訳:もう次のアルバム制作にとりかかっているんですか?

KC:そうだよ。『3.5』は、1年以上前にはすでに仕上がっていた。で、そのあとすぐに次のアルバムをつくりはじめたんだ。

『MK 3.5』の「MK」はマウント・キンビーのことだと思いますが、「3.5」は何を意味しているのでしょう?

KC:3枚めと4枚めのあいだという意味だよ。

通訳:これは4枚めのアルバムではないということでしょうか?

KC:そう、違うね(笑)。

通訳:では、いまつくっているのが4枚めのアルバムということですね。どのようにつくっているのでしょう? バラバラに? それとも一緒に?

DM:ロンドンで一緒に作業してる。いい感じだよ。あと、ぼくらにはあとふたり、バンド・メンバーがいるんだけど、彼らも作業やソングライティングに参加してくれている。彼らが加わることで、いい意味でエナジーが変わるんだよね。集中力が高まるんだ。

『MK 3.5』が完全な分業形態になったことに、パンデミックの影響はありますか?

DM:多少はあったと思う。でも、ぼくはLAに住んでいて、カイはロンドンに住んでいるから、すでに分業形態ではあったんだよね。『Love What Survives』のツアーが終わったあとで、カイはDJ活動に集中して、ぼくはLAでプロダクション活動に集中していたから、パンデミックがなくても分業形態には自然となっていた気もする。まあそれに加えて、簡単に移動ができなくなったから、その状態が思ったより長くなったり多くなった、というのはあるかもね。

ちなみに昨秋出た限定シングル「Black Stone / Blue Liquid」は、今回の新作に連なるものというよりも、『Love What Survives』のアウトテイクだったのでしょうか?

KC:あれは、『Love What Survives』にもフィットせず、今後の作品にもフィットしなそうだったから、ああいう形でリリースしたんだ。ぼくたちがただインターネットでノイズをつくったようなトラックだったしね。ちゃんとできあがっていた曲だったから、シェアするためにはなにがベストだろうと思ってシングルにしたんだ。

ここ2年ほどのパンデミック中は、それぞれどのように過ごしていましたか? やはり家にこもっていることが多かったのでしょうか?

DM:ぼくらはふたりともラッキーで、パンデミックのあいだもスタジオに通えていたんだ。

KC:そうそう。ぼくのスタジオは、家から歩いてすぐのところにあってさ。みんな運動のために家の外に出ていいってことになってたんだけど、ぼくにとっての運動はスタジオに歩いていくことだったんだ(笑)。

DM:ぼくが家にこもっていたのは4週間くらい。あれはキツかったな(笑)。ヘッドフォンつけながら作業するのって好きじゃないんだ。でもそのあとは、スタジオに行けたからよかった。LAって極端でさ、最初のころはめちゃくちゃ厳しくて、みんな警戒してたんだけど、一度少し緩むと、誰も気にしなくなった(笑)。スタジオに入れない期間があったと思ったら、スタジオで大人数のセッションがすぐにはじまってさ(笑)。40人はいたんじゃないかな(笑)。しかもノー・マスクで(笑)。

「Die Cuts」は、ジェイムス・ブレイク作品におけるメイカーさんの貢献が非常に大きいことを確認させてくれるサウンドです。ブレイクの楽曲をプロデュースするときとはどのような違いがありましたか?

DM:違っていたのは、もちろんマインドセット。ジェイムス・ブレイクに限らず、自分以外のだれかをプロデュースするというのは、自分にコントロール権はない。でも今回のアルバムでは、自分のヴィジョンを自由に形にすることができた。ジェイムスの素晴らしいところは、カイも同じなんだけど、僕との合意点が必ずあるんだ。互いを評価しあって、最高のサウンドが生まれていく。でもやっぱり大きな違いは、タイムラインも含め、自分がコントロールを持っているかいないかだね。今回、自分がすべてのコントロールを持っている、というのを初めて経験したんだ。すごくユニークな経験だったし、その状況でどう作業していくか、かなり勉強になった。もちろん、だれかと一緒に作業すること、なにかをつくることも大好きだけど、クリエイティヴ・コントロールをすべて自分が持っているというのも、また気持ちがよかったね。

今回、自分がすべてのコントロールを持っている、というのを初めて経験したんだ。すごくユニークな経験だったし、その状況でどう作業していくか、かなり勉強になった。(メイカー)

“in your eyes” はスロウタイとダニー・ブラウンという、UKとUSのラッパーの組み合わせが興味深いです。メイカーさんはスロウタイの一昨年のシングルや昨年のアルバムにも参加していましたが、彼らふたりのラッパーの魅力はそれぞれどこにあると思いますか?

DM:スロウタイは、みんなが知っている以上に多芸多才なんだ。声だけでなく、彼のソングライティングもほんとうに素晴らしいんだよ。それに、ラップだけじゃなくて歌声も最高。あと、スロウタイとダニー・ブラウンという、イギリスとアメリカ、ふたつの異なる国のラッパーを迎えることができたのもよかった。彼らはそれぞれに独自のクレイジーなエナジーをもっているし、彼らがいると、周りにもそのエナジーが広がるんだよね。あの曲では、異なるラッパーのエナジーをつかって、いろいろと遊んでみたかったんだ。“in your eyes” は、曲自体は暗い感じだけど、ふたりが出てくることで、嵐のなかに太陽がのぼってくるような明るさが生まれる。あと、あの曲は、ふたりのショート・ストーリーがひとつの曲に入っているような感じだね。

カンポスさんの「City Planning」にはアクトレスを思わせる触感、音響性があります。じっさい、8月にアクトレスとの共作曲 “AZD SURF” が出ていますね。

KC:彼からはつねに影響を受けてる。ぼくらは、特定の時代の音楽への興味をシェアしてると思うんだ。いまって、エレクトロやダンス・ミュージックをノスタルジックな音楽と捉えてつくられているサウンドも多いよね。でも、そのなかには聴いていて面白くないものも多い。ぼくも90年代後半から2000年代のダンス・ミュージックは大好きだけど、最近つくられているものは、それをただつくりなおそうとしているものも多いと思うんだ。でもアクトレスは──それはぼくがやりたいと思っていることでもあるんだけど──ラップ・ミュージックをそういった音楽に取り入れて、ただのコピーでない新しいサウンドをつくってる。彼のそういう部分から影響を受けてるんだ。

“Satellite 9” などのエレクトロはドレクシアを、“Zone 1 (24 Hours)” などはジェフ・ミルズを想起させる部分があります。今回の制作にあたり、デトロイトの音楽を参照しましたか?

KC:デトロイト系はかなり聴いてたよ。あとは、当時のあのエリアの楽器の使い方にも影響を受けてる。でもさっきも言ったように、それをコピーしただけの、再現のようなサウンドはつくりたくなかった。それはぼくの専門分野でもないしね。でも、ぼくが好きなエリアだから、要素として取り入れたいと思った。アルバムのSFっぽさも、デトロイトの影響なんだ。

いまって、エレクトロやダンス・ミュージックをノスタルジックな音楽と捉えてつくられているサウンドも多いよね。でも、そのなかには聴いていて面白くないものも多い。(カンポス)

「Die Cuts」と「City Planning」は多くの点で対照的です。まったく異なる作品を、それぞれのソロとしてではなく、マウント・キンビーとして発表するのはなぜなのでしょうか?

KC:さっきも少し話したけど、今回のアルバムにかんしては、あまりアルバムをつくるという感覚はもっていなかったんだ。たぶん、ソロ・アルバムとして取り組もうとしていたら、もっと大変だったと思う(笑)。アルバムを意識せず、あまり構えなかったおかげで、今回のレコードでは、自分たちの頭のなかにあるアイディアを、あまりプレッシャーを感じずに、自由に実験し、探求することができたんだ。それに、ふたつの作品の対比がまた面白いとも思った。サウンドは違うけど、両方ともいまのぼくたち、つまりいまのマウント・キンビーがつくったサウンドであることに変わりはないしね。ぼくらの音楽の歴史の一部であることは変わりないから。

通訳:しかも、すでにもう、ふたりで共同作業をしながらアルバムをつくっているんですもんね。

KC:そうそう。今回の作品をつくって出したことは、次のアルバムのアプローチを定める助けにもなったしね。

通訳:次のアルバムの共同作業は、どんな感じでおこなわれているんですか?

KC:次のアルバムは、これまでのなかでいちばん共同作業が多いと言ってもいいかもしれない。アルバムを1年以上前に書きはじめたときは、ぼくがLAに行ってドムと一緒にデモをつくったし、そのあとは離れていたけど互いにアイディアを投げ合った。で、いまはドムがロンドンにいるんだ。今回は、リモートで曲を仕上げたことが一度もないんだよね。曲を仕上げるときは、かならず一緒にいるんだ。

『MK 3.5』を引っさげてツアーはしますか? その場合どのような形態になるのでしょう?

KC:まだわからないんだよね。2枚に分かれているから、それを一緒にやるとなるとどうしたらいいのかまだ考えていないんだ。ぼくはここ数年ひとりでDJをやってるんだけど、もしかしたらそういうヴェニューでぼくだけで自分の作品をパフォーマンスするのは考えてるんだよね。来年のはじめごろからやろうかと思ってる。で、来年の中盤くらいからまたマウント・キンビーでなにかやりはじめてもいいかなと。ドムがどう思ってるかは知らないけど(笑)。

DM:ぼくもDJセットは何回かやろうかなと思ってる。LAに戻ったら、またプロダクションの仕事で忙しくなるから、あまりパフォーマンスはできないかな。マウント・キンビーのアルバム制作もあるしね。

今回の『MK 3.5』のリミックス盤をつくるとしたら、参加してほしいひとはいますか?

KC:もうすでに、何人かのアーティストには頼んでいるんだ。でも、いまはまだ言えない。たくさんいるよ。発表されるのを待ってて。

通訳:以上です。ありがとうございました。

KC:ありがとう。ぼくは今年の末に日本に行く予定だから、もうすぐみんなに会えると思う。

DM:ぼくも、また日本に行けるのを楽しみにしているよ。ありがとう。

質問・序文:小林拓音(2022年11月11日)

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