ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. interview with Rafael Toral いま、美しさを取り戻すとき | ラファエル・トラル、来日直前インタヴュー
  2. R.I.P. Brian Wilson 追悼:ブライアン・ウィルソン
  3. Lucy Railton - Blue Veil | ルーシー・レイルトン
  4. GoGo Penguin - Necessary Fictions | ゴーゴー・ペンギン
  5. 忌野清志郎さん
  6. Autechre ──オウテカの来日公演が決定、2026年2月に東京と大阪にて
  7. Columns 高橋康浩著『忌野清志郎さん』発刊に寄せて
  8. R.I.P.:Sly Stone 追悼:スライ・ストーン
  9. Columns 対抗文化の本
  10. Rafael Toral - Spectral Evolution | ラファエル・トラル
  11. interview with caroline いま、これほどロマンティックに聞こえる音楽はほかにない | キャロライン、インタヴュー
  12. PHYGITAL VINYL ──プレス工場の見学ができるイベントが開催、スマホで再生可能なレコードの製造体験プログラム
  13. Saho Terao ──寺尾紗穂の新著『戦前音楽探訪』が刊行
  14. Dean Blunt - The Redeemer  | ディーン・ブラント
  15. Rashad Becker - The Incident | ラシャド・ベッカー
  16. 別冊ele-king 渡辺信一郎のめくるめく世界
  17. Columns The Beach Boys いまあらたにビーチ・ボーイズを聴くこと
  18. These New Puritans - Crooked Wing | ジーズ・ニュー・ピューリタンズ
  19. みんなのきもち ――アンビエントに特化したデイタイム・レイヴ〈Sommer Edition Vol.3〉が年始に開催
  20. MOODYMANN JAPAN TOUR 2025 ——ムーディーマン、久しぶりの来日ツアー、大阪公演はまだチケットあり

Home >  Reviews >  Album Reviews > James Blake- Assume Form

James Blake

ElectronicGhosts of My LifePopSoul

James Blake

Assume Form

Polydor / ユニバーサル ミュージック

Tower HMV Amazon iTunes

小林拓音山﨑香穂木津 毅   Apr 05,2019 UP
123

不器用だからこそ生々しい物語山﨑香穂

 ここまで顔を前面に出したジャケットがジェイムス・ブレイクの過去作にあっただろうか。『James Blake』も『Overgrown』も『The Colour in Anything』も本人(もしくは本人らしき人物の絵)がジャケットに登場しているが、顔がはっきりとみえるわけではない。
 ジェイムス・ブレイクにはアンニュイな男性というレッテルがつきまとっていた。ジェイムス・ブレイクといえば、昨年の1月にリリースされた“If the Car Beside You Moves Ahead”(『Assume Form』日本盤のみボーナストラックで収録)に続く、“Don't Miss It”(『Assume Form』収録)をリリースした際、自分自身に「sad boy」というレッテルを貼られていることに抗議する声明文をツイッター上に投稿したことが記憶に新しい。女性は弱さや悲しみなど、そういった自身の精神的な内面の感情を歌っても特別問題視されないのに対し、男性は正直な自身の内面の感情を歌うと「sad boy」的なレッテルを貼られ、感情をオープンにできないのは不健全だといったような内容だった。そして自分自身もいままでそういった感情を押し殺し、オープンにすることができなかったとも述べている。

https://twitter.com/jamesblake/status/1000228403998425088/

 その声明文の内容を踏まえてなのか、今作『Assume Form』ではこれでもかというほどの自身の主に恋人への赤裸々な心情をオープンに語りかけてくる。『Overgrown』にも恋人からの影響が大きいと思われる楽曲はあったものの(『James Blake』と『Overgrown』のあいだには恋愛が関係したなにか大きな変化が彼のなかであったと思うし、インタヴューでも当時付き合っていたウォーペイントのテレサ・ウェイマンとの関係がプラスに働いていたともインタヴューで言っていた)、今回はそれよりもさらにダイレクトな内容になっているように感じる。「ポスト・ダブステップの人」として初期作品からサウンドメイクの面で革新的な存在という印象が強い彼だが、やはりシンガーソングライターとしての歌詞の存在感も彼の魅力のひとつであり、今回のアルバムもその魅力が前面にでていることは間違いない。
 1曲目“Assume Form”で「さてと そろそろ打ち明けようか(Now I'm confiding)」とはじまり、アルバムを通してこれでもかというほどの恋人との関係、自身の内面の感情、がオープンに綴られていくわけだが、決して激甘な恋模様が綴られているわけではなく、恋人への思いに関する自問自答が繰り返され、葛藤や躁鬱が繰り返され、どこか不器用な物語にジェイムス・ブレイクらしさを感じ、ぐっと引き寄せられる。硬質で冷たい音のイメージのなかにもどこか温かみを感じるのはオープンにされた人間の生々しい感情ゆえだろう。

 このようなジェイムス・ブレイクの魅力からか、近年ではビヨンセフランク・オーシャンケンドリック・ラマーなどなどUSメインストリームのアーティストとのコラボも増え、トラヴィス・スコット“Stop Trying To Be God”やアブ・ソウル&アンダーソン・パークとの“Bloody Waters”でもヴォーカリストとしての地位を確立してきているようにみえる。今作にもアウトキャストのアンドレ3000や、エレクトロサウンドとフラメンコを融合し、新しいフラメンコのかたちを提示したスペインのロザリアなど多角的なゲストを迎えている。2曲目“Mile High”と3曲目“Tell Them”には、USのトップ・プロデューサー、メトロ・ブーミンが参加し、“Mile High”ではトラヴィス・スコット、“Tell Them”ではモーゼス・サムニーといった、縁のあるゲストを迎えている。ある意味客演陣の面からもメインストリームにオープンな内容だが、ここには消費されないなにかがある。『Assume Form』はジェイムス・ブレイクの(かつては)閉ざされていた内面を描いた作品であり、なにもかもくれてやればすべてを失うことになる(The world has shut me out. If I give everything, I'll lose everything.)という締め出された世界から、毎日大好きな人と出かけて、鈍い痛みが消えたなら、殻の中で幽霊みたいに引きこもるのをやめたならという祈りである。そして、僕みたいにしくじるなよ(Don't miss it. Like I did.)という警告でもある。(カッコ内は収録曲“Don't Miss It”から)
 ジェイムス・ブレイクが前髪をあげたそのジャケット写真を手に取り、あらためてなるぼどなと納得させられる。

山﨑香穂

Next >> 木津毅