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Open Mike Eagle & Kenny Segal

Alternative Hip Hop

Open Mike Eagle & Kenny Segal

DOOMED!

Backwoodz Studioz

小林拓音 Sep 07,2026 UP

 ビリー・ウッズ主宰の〈Backwoodz Studioz〉から最近出た1枚、オープン・マイク・イーグルとケニー・シーガルによるアルバムが見すごせない完成度なので、ぜひ紹介しておきたい。

 シカゴ出身LA拠点のオープン・マイク・イーグル(以下OME)は、すでに20年以上のキャリアをもつラッパーだ。彼は2010年にLAの〈Mush〉から世に出てきているが、1997年に設立された同レーベルはまさに二木信監修『ele-king presents HIP HOP 2025-26』が特集していたようなアンダーグラウンド・ヒップホップを支える一翼で、クラウデッドやブーム・ビップなどのリリースで知られている。そうした文脈からOMEが浮上してきたことは、彼がみずからのスタイルを「アート・ラップ」と呼称している点とも関わってくるだろう。ハイプもセレブもご遠慮願います、と。
 そんな彼が今回タッグを組んだケニー・シーガルもまた20年以上のキャリアを誇るプロデューサーだが、とりわけビリー・ウッズとの共作が知られている(2023年の『Maps』はビリー・ウッズの名を知らしめることになった1枚だ)。この『DOOMED!』でもシーガルの貢献はかなり大きい。全体的にゆったりしたBPMを基調に、メロウと呼ぶにはあまりに曇った空模様、なんともけだるいムードが全篇をとおして支配していて、表題曲やビリー・ウッズを招いた “She Swear I'm Colorblind” によくあらわれているが、“Science Fiction/Fantasy” の鍵盤、“Infinity War Spoilers” のヴィブラフォンなどなど、ジャズのムードがこのうえない倦怠を運んでくる。異様にこもった “Don't Go Look” のトラックも聴き逃せない。しかしこの倦怠感、場合によっては憂鬱とも呼べそうな感覚は、いったいなにに由来するのだろうか。

 やはりジャズのムードに覆われた “The Many Hustles of my Lonely Time Traveling Uncle” では「以前はめっちゃカネ稼いでた」と繰り返されている。つまり、いまは稼げてないということだ。非凡ではないラッパーがやりそうな成金自慢とは真逆のベクトルで、はてさてこれはいったいどんな意味かしらとGenius先生に頼ってみると、つづくのは「変動金利住宅ローン」「収入証明なんかナシでぽっと家がもてた」といったフレーズ。サブプライム問題、リーマン・ショックの示唆である。なるほど、むかしは稼げてたというのはラッパーのことではなく、われわれ庶民のことだった、と。うまい仕掛けではないか。
 借家契約(lease)なる語は表題曲やインタールードにも登場し、OMEがいち生活者の目線に立っていることを物語っている。「アパートは空っぽ、財布も空っぽ」(“Unfinished Concrete”)「グッズの物販でガソリン代を払った」(“Trying to Remember What I Aimed At”)といったなまなましいことばが、すぐれた音響工作のなかで繰り出されるのを追っていると、はたと気づくことになる。まともに向きあったら退屈になりそうな題材を、うまく聴かせるための工夫──それこそがこの倦怠の正体だったのだと。サウンド上の冒険と現代のリアリティの描写がうまく両立されたアルバムといえよう。

 ちなみに、リリース元のレーベル〈Backwoodz Studioz〉の創設者、ビリー・ウッズのインタヴューを紙版『ele-king vol.37』に掲載しています。ぜひそちらもチェックを。

小林拓音