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Beatrice M.

DubstepLeftfieldTechno

Beatrice M.

Sinking

Tectonic Recordings

Bandcamp

野田努 Jul 02,2026 UP

 ベリアルがファースト・アルバムを出してから早20年。ダブステップは、ポスト・ダブステップと呼ばれたり、ベース・ミュージックと呼ばれたり、ゴスやインダストリアルと結ばれたり、当のベリアルはワケのわからない無形的な展開へと向かったり……。だからいまベアトリス・Mの“Dear Dubstep”を聴くことは、この20年を思うことでもあった。
 ベリアルがファースト・アルバムを出したとき、誰もがそれを賛辞したわけではなかった。あの当時、ぼくはUKのアーティストに取材するたびにそのことを訊いた。否定派の意見は、「あれは新しくない。すでに誰かがやったこと」というもので、たいてい「グライムと違ってね」と付け足された。
 ひとつ面白かった意見はアンドリュー・ウェザオールで、最初はたいしてピンとこなかったけれど、それを車のなかで聴いたとき、これはロンドンの風景にぴったりだと思ったと彼は言った。そのとらえ方は当たっていた。なぜならベリアルのファーストが目指したものは、おそらく、リズムを更新することでも、手法的な目新しさを披露することでも、機能的なダンス・トラックを作ることでもなかったからだ。あれはたしかにひとつの「景色」を見せることだった。遠のいていく灯りと伸びていく巨大な影に覆われながら、人びとはなんとか生活し、週末には重低音を感じながら踊る。そんな今日的な侘しさと、小綺麗なプール付きのホテルに泊まりながらセンスの良いDJたちがかけるミニマルやハウスを楽しむ光景と、どちらがほんとうの意味で「生命」を感じられるのだろう。究極的に言えば、ベリアルが問いかけたのはそういうことだった。

 「沈む」と題されたベアトリス・Mのデビュー・アルバムは、もはやそんなことを誰も気にしなくなった今日に、またいちどそこに接続しているかのようだ。まずはアルバム最後の曲、“Years”から聴いてもいいかもしれない。もちろん1曲目の“Ever”からでもいいのだが、それというのも、このアルバムがどこに立脚しているのかがよくわかるからである。すなわち、アンダーグラウンドと呼びうる場所に。
 ダブの強度が上がっている。リズムの観点でいえば、これはダブステップとは言いがたいし、2ステップでもない。ジャングルではなく、よりテクノに寄ったそれらの変異体で、“Motion”のような曲、そして本作でもっともダンサーを熱くさせる“Disco Corner”のような曲ではそれが鮮明化される。決して新しい風を運ぶ曲ではないが、頭を吹っ飛ばす曲ではある。ふたりのMCがラップを吹き込む“In Touch”も気に入っている。90年代後半の〈スヴェック〉のダブ・テクノを思い出す“Juice”も良いトラックだが、アルバムの最初と最後の3曲が出色だと思う。つまりアルバムは円環を描いている。

 レーベルはブリストルの〈テクトニック〉で、ピンチもミキシングを手伝っている。エレクトロニック・ダンス・ミュージックが好きで、とくにダブとミニマルが好きであるなら、これは間違いない1枚だ。ダンス・カルチャーも不自然なほど綺麗になっていくなか、アンダーグラウンドからやり直すには、いまほど良いタイミングはないのだから。

野田努