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「ディープ・ダブステップ」なる言葉で括られている新しい潮流がいよいよ巷で話題になりつつあるようだ。『CRACK MAGAZINE』のレポートを読むと、少し前にレヴューしたZ世代のベアトリス・M、そしてEma、Carré といった3人の女性DJが重要な働きをしている点において、確実に20年前とは異なっていることがわかる。「ディープ・ダブステップ」のシーンを特徴付けている事象のひとつは、女性、クィア、ノンバイナリーのプロデューサーたちの活躍にあると、そのレポートは言う。20年前のダブステップは、ほかのクラブ・ミュージックのシーンにくらべると、たしかに男性率が高いというイメージがあった。
ただまあ、女性やクィア系プロデューサーの台頭は、ダブステップに限らず、エレクトロニック・ミュージック全般に言えることでもあるのだが、ひとつ面白いと思うのは、彼女たちはダブステップをやろうと思ってダブステップをやっているわけではないという点だ。ベアトリス・Mに関して言えば、テクノとアンビエントを追求していった過程で、サウンドがダブステップ化したのである。そうしたテクノのダブステップ化(140BPM化)的展開は、1年前にリリースされたロサンジェルスのプロデューサー、Introspektのアルバム『Moving the Center』にもはっきり表れている。
ちなみに「140BPM」とは、単なるテンポの数字ではない。ダブステップにおける聖域的数値で、ディープ・ダブステップというジャンルそのものを指す代名詞にもなっている。(クレジットに「140BPM」とあれば、それがディープ・ダブステップであることを謳っている)
ミニマルでテクノ風のダブステップね、なるほど、でもそれを言ったら、20年前のオランダのMartynや2562、あるいはPinch(ベアトリスのアルバムは〈Tectonic〉からだった)やShackletonがいるだろ、という声があって当然だ。Blawanだって忘れちゃいけない。そういう意味では、これは「ポスト・ダブステップ・リヴァイヴァル」と言えなくもない。実際、最近は〈Deep Medi Musik〉やUntoldなどの動きも広く注目されているし、アンディ・ストットの新譜もこの機運と無関係ではないだろう。早い話、ディープ・ダブステップとは、「ポスト」時代よりもサウンドの拡張性が格段に増した現在形である。
ここでは、最近ぼくが聴いて面白かったダブステップの最新型をいくつか紹介したい。
『Dusty & Friends』は、ニュージーランドを拠点に活動するプロデューサー Dustyのアルバムで、自身の「Hydro EP」などからの楽曲を世界各国のディープ・ダブステップ・シーンで活躍するプロデューサーたちに再構築してもらっている。言うなれば、ディープ・ダブステップのコンピレーションとして聴ける作品だが、まさにディープな音響が次から次へと襲いかかる。UKベース・ミュージック界のレジェンド、Killa Pをフィーチャーした“Hydro VIP”、パリのQuasar、チェコのWZ、オランダのTMSV、UKのKyberやNova、ニュージーランドのEbb、ウィーンのPharma……といった具合に、横のつながりが国際的なのもこのシーンの特徴だ。20年前のダブステップと言えば、UKの専売特許だったが、いまはもうそういう時代ではない。それにしても……ダブステップとは、やはりダークだのう。
UKジャズ・シーンで活躍するAlfa Mist(トム・ミッシュからヨセフ・デイズなんかとも共演)をフィーチャーしたCommodoの4曲入りもお薦めだ。隙間を活かしたハーフステップを基調に、ディープ・ダブステップの自由度を活かしたサウンドの好例と言える。ただし、音の拡張性ということで言うなら、Untoldの「False Vacuum EP」が抜群の出来で、ぼくにとっては、今年聴いたなかではずば抜けて格好いいシングルだ。ダブステップとテクノの中間領域でもっとも冒険できているのは彼だろう。アルバムを早く聴きたいアーティストのひとりである。Untoldと同じように型破りな作品には、〈Deep Medi Musik〉からリリースされたカナダはヴァンクーバーのプロデューサー、MYTHMの「Revenge EP」もある。
そんなわけで、とりあえずは、時代のハイパーな明るさに抗するがごとく、よりダークな新しいベース・サウンドとつき合ってみようと思う。
野田努