Home > Columns > Thundercat- 来日を控えるサンダーキャット、その新作が醸し出すチルなフィーリングについて
「人脈」という言葉はどのように英訳できるだろう。「人」は person だとして、「脈」は繋がり connections と脈絡 context のどちらが適切なのか。大方は connections という語で説明できる気もするが、前後の時系列を加味した適切な人間関係の間でのみ育まれることを考慮すると context が場合によっては正解になりそうな気もしている。脈拍 pulse ではまさかないだろう……いや、人肌の通ったコミュニケーションのみを「人脈」と定義するのならば、あながち外れていないのでもないのか???
サンダーキャットの新作を聴きながら考えていたのは、そんなことだった。ジャズ・ベーシストの教育と並行してハードコア/スラッシュメタル・バンドのスイサイダル・テンデンシーズへ兄とともに参加し、以降はエリカ・バドゥやスヌープ・ドッグのステージに参加。ここまでが20代前半の物語であり、フライング・ロータスの主宰する〈Brainfeeder〉のメンバーに名を連ねてからはLAを代表するプレーヤーとしてさらに頭角を表す。同郷のカマシ・ワシントンやテラス・マーティンとともにケンドリック・ラマー『To Pimp a Butterfly』へ名を連ねたのが最も象徴的だっただろうか、あれから10年以上が経過し最早捕捉できないほどの神出鬼没っぷりで彼は忙しなく動いている。ジャスティスであれゴリラズであれケラーニであれハイムであれ……いや、とてもじゃないが書き連ねていられない。ライヴ・パフォーマンスへの飛び入りを含めれば、ここ10年に限っても恐らく3桁では足りないほどのアーティストとのコネクションを彼は紡いできたのだ(実際、これを書いている現在開催中の Coachella にも、スイサイダル・テンデンシーズとピンク・パンサレスのステージにサンダーキャットは顔を出していた)。
ただ、サンダーキャットはたんなる都合の良いプレイヤーではない。ベーシストとしては異端そのものだ。Ibanez 製の6弦ベース──ボディの中央部には彼のオタク趣味を反映してか、『新世紀エヴァンゲリオン』のアスカがペイントされている──にワウをかけて、リズムと低音部を担うというオーセンティックなベースの役割から外れたプレイが彼のシグネイチャーだ。テクニックを存分に盛り込んだ素早い運指はむしろクラビネットのような音色であり、アンサンブルを邪魔しないプラスアルファとしてこの上なくファンキーに融和する。
サンダーキャットの強烈な個性は、どこにいても一聴すれば「あ!」と気付けるような音色にこそ表れており、結果的にセッション・マン以上の深い繋がりを世界中のアーティストと築くことに至った。これまでのソロ作しかり、『Distracted』では彼らとのホーム・パーティよろしく、豊富な面々を招いている。フライング・ロータスやマック・ミラーといった旧友たちとの再会もあれば、例えば冒頭の “Candlelight” でのドミ&JD・ベックに “ThunderWave” でのウィロー・スミスなど、20代の才能溢れるスターたちとの共演もある。さらに “No More Lies” でのケヴィン・パーカー(テーム・インパラ)や “What Is Left To Say” でのダダリオ兄弟(ザ・レモン・ツイッグス)など、全くの異領域からオーヴァーグラウンドな地点にリーチしてきたソングライターたちもアルバムの環世界に組み込んでいる。『Drunk』でマイケル・マクドナルドとケニー・ロギンスに声をかけただけあってか、自身の愛したカルチャーに忠実な愛を注ぐとともに、音に対して誠実な姿勢で向き合う作家を積極的に評価するサンダーキャットの嗜好がここには見て取れる。
そうした誠実さは作品自体の風通しの良さにも表出している。ドライヴ・ミュージックであることを念頭に置いたマック・ミラーとの “She Knows Too Much” は彼へのトリビュートであるという背景を考慮してもなお疾走感に溢れているし、エイサップ・ロッキーがライミングする “Funny Friends” ではミドルテンポながらもマキシマムな迫力で突き進む。こうしたアッパーなナンバーが前後を取り囲む80’sライクなAORと失恋からくるリリック──およそ半数以上が「She's gone」な内容だ──によって絶えずチルされるからこそ、フュージョン・バンドによるセッションという構造を保ったまま、まるでプレイリストを流しているかのようなヴァラエティ豊かな内容に「錯覚」するのだ。「1,2,3,4」というカウントとともにその魔法が解かれる “What Is Left To Say” 以降、そのチルなフィーリングはより深淵へと向かっていく。
中盤から後半にかけてのチルな展開にもかかわらず、サンダーキャットのキャラクターは損なわれることなく描かれていく。『Distracted』(つまり「気が散る」)のテーマとも密接に繋がる “A.D.D. Through the Roof” ではたおやかなサウンドのなかで自身の注意散漫な性を開陳しているし、続く “Great Americans” では《炎の中で1日が始まる/君にテキストを返さなかったから?》と歌われる。“Great Americans” ではこうも歌われている、《よくわからないけど/僕ずっとSOSを出しているんだ/明らかにどこかおかしいけれど/診断を受けてはいない》と。彼の悩みの種を掘り下げると、そこにはアテンションを四方八方から要求される現代病の影がついて回る。
だが彼はこの病理に対しても、あくまでユーモラスに付き合うことを選ぶ。最終曲 “You Left Without Saying Goodbye” のラストのライン──つまりアルバムを閉じる言葉──はこうだ。《OnlyFansに参加して脚でも見せてみようか?》。AORやシティ・ポップを意地悪く遅回しにして皮肉を突きつけるのは Vaporwave の連中の仕事だ。サンダーキャットは「むしろ」誠実に、遅回しにも早回しにもすることなく、適度に心地よいテンポを保ったまま、自身のメランコリーをシェアする。露悪に陥ることなく事物と向き合うことに慣れた者のみに許された特権を、サンダーキャットは仲間と共に謳歌しているのだ。

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