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橋元優歩   Jul 14,2015 UP

 “セイム”・インパラ、今回もきっと彼らは変わらない。しかしトレンドの先端をゆくことが正義ではないから、音の充実や成熟が約束されるのなら、曲調が「セイム」な新譜だろうと心から祝福したい。彼らこそは停滞感をぬぐえないロック・バンドの現在に、清新な風をもたらす存在のひとつなのだから──という期待は、正反対の方向へ、しかしポジティヴに裏切られる。

 オーストラリア出身のガレージ・サイケ・バンド、テイム・インパラの3枚めとなるフル・アルバム『カレンツ』がリリースされた。彼らのデビューEP『テイム・インパラ』が発表された当時は、〈スリル・ジョッキー〉からウッデン・シップスが登場し、往時の発掘音源さながらのスペース・ロックを展開、北欧のドゥンエンにもあらためて注目が集まるなか、オール・ザ・セインツやクリスタル・アントラーズなど〈タッチ・アンド・ゴー〉の最終世代も同様に重心低めのサイケデリック・ジャムを若々しく鳴らしたりと、その種のヴィンテージな楽曲センスや、いささかファズの効きすぎた音作りなどがちょっとしたトレンドをなしていた。

 テイム・インパラはそのなかでとくにみずみずしさと華やかさを感じさせたバンドだった。カット・コピーやヴァン・シーなど、当時熱かったエレクトロ・ポップの嚆矢ともいえる〈モジュラー〉から現われた意外性も印象深い(もちろんウルフ・マザーなども擁する地元豪州のレーベルだという点は大きいだろうけれど)。

 ただ、盛り上がりがあるとはいえ、当時はまだまだ限定的なリスナー層にアピールするものであったことにはちがいない。彼らが一気にステージを上げたのは前作『ローナイズム』(2012)だ。デイヴ・フリッドマンが絶妙に彼らのサウンドをバーストさせ、そしてポップ・ミュージックとしての翻訳を施した。ジャケットに配されたフォトグラフにもチルウェイヴふうのドリーミーなポップ・センスがある。このアルバムはグラミーで「最優秀オルタナティヴ・ミュージック・アルバム」にノミネートされ、以降彼らは映画『ダイバージェント』のサウンドトラックにおいてケンドリック・ラマーとのコラボ曲を発表するなど、大きなシーンでの注目度とともに、他ジャンルの先鋭的な表現者たちとも交差する、リアルな時代性をそなえた存在であることをあらためて示してみせた。

 さて、そんな彼らが放つサード・アルバムから聴こえてきた音は、冒頭こそ「セイム」なソフト・サイケだったものの、中ほどではダリル・ホールと……とまでは言わないにせよシンセバリバリのモダンポップに、そして終わりには流行色のレトロめなR&Bになっていて、イスからずり落ちるほど驚く。

 彼らがひときわみずみずしかったのは、「俺たちのサイケ道」をゆくというタイプのオタク性ではなく、タグ付けされないサイケデリアを体現していたからだった。それでいて、13thフロア・エレベーターズのような西海岸的な佇まいの一方に、ブリティッシュ・サイケふうのちょっとミステリアスな翳りを感じさせるようなところには、オタクや年長者からも「ほう」と好意的な反応を引き出す魅力がある。テイム・インパラの実質的な本体であるケヴィン・パーカー自身はというと、いくつかのインタヴューで「とくにサイケだと思ってやっているわけではない」という旨を明かしている。むしろそうしたアルカイックさというか、柔構造こそが彼らの存在を大きくしたひとつの理由だと言えるだろう。

 しかし、ここまで柔らかいとは……。たしかに、ヴォーカリゼーションやメロディの発想自体には通底するものがあるものの、“ニュー・パーソン,セイム・オールド・ミステイクス”のシンセ・ベース、“イヴェンチュアリー”の16ビートには本当に驚くしかないし、歌詞はほとんどがビターめなラヴ・ソング、“ディシプリン”あるいは“ザ・レス・アイ・ノウ・ザ・ベター”などの洒脱なファンクネスはアリエル・ピンクやアンノウン・モータル・オーケストラなども彷彿させ、さてテイム・インパラのアイデンティティとは何だったのかと、はたと立ち止まってしまうほどだ。
 
 各誌絶賛のムードだけれど、これが評価されて、トロ・イ・モワの新譜が冷遇されるのは少々不公平だと思わざるをえない。そこにはいかにも「彼らは正統派サイケ出身だからエライ」というようなニュアンスが隠されているように思われるし、そうした視線によって彼らが空虚な祭壇へとまつりあげられるとすれば、かつて筆者が“デザイア・ビー,デザイア・ゴー”に打たれたときの爽やかな感動もともに封じ込められてしまうように感じられる。ケヴィン・パーカーの音楽も、トロ・イ・モワと同じようにひとつの偉大で小さなアマチュアリズムから生まれてきたものなのだ。今作でおずおずと、しかし楽しげにヴォコーダーやドラムマシンが使われているのはひるがえってその証左ともなるだろう。おそれずにアイディアを広げ、音のかたちを模索していて、やっぱりそんなところは輝いている。

 というわけで、本作はちょっとヒプノシスふうのサイケ、プログレ感ただようジャケットからはおよそ想像のつかないアルバムになっている。アートワークを手掛けるのは人気のマルチ・ヴィジュアル・アーティスト、ロバート・ビーティー。彼の手掛けた作品のアーカイヴをながめると、本当にパロディがうまい(http://www.robertbeattyart.com/)。愛があって、かつドライなところもいい。テイム・インパラ×ロバート・ビーティーとなればプログレッシヴ色が強まりそうなものだけれど、このインディ・シーンにおけるキー・マンとの交差と、そこに出現した大いなるギャップは、さらなるテイム・インパラのポテンシャルを予感させるものなのかもしれない。おそらくはまだ本人にもたしかにつかめていないような「カレント」が剥き出しになっている作品なのだ。
そう思って自分の頑迷な態度を解いて聴いてみると、しばらくは手放せない、結局のところはやはり愛聴すべき音楽だと感じられる。

橋元優歩