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Makaya McCraven

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International Anthem / Pヴァイン

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Makaya McCraven

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Where We Come From (Chicago × London Mixtape)

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小川充   Dec 06,2018 UP

 2018年はサウス・ロンドン勢の活躍により、US以上にクローズ・アップされることの多かったUKのジャズ。そして、いままで以上にUSのジャズ、UKのジャズと対比されることも増えていったのだが、その両方が交わった希少な作品にマカヤ・マクレイヴンの『ホエア・ウィ・カム・フロム』がある。マカヤ・マクレイヴンはシカゴを拠点とするドラマーだが、彼が2017年10月にロンドンを訪れた際、トータル・リフレッシュメント・センターで南ロンドンのミュージシャンとセッションしたライヴ録音である。その後シカゴに戻ってマカヤ自身の手で編集を施し、今年になってミックステープとして発表したものだ(最近になってアナログ盤もリリースされた)。マカヤ以外のセッション参加メンバーは、ジョー・アーモン・ジョーンズカマール・ウィリアムズ、ヌビア・ガルシア、テオン・クロス、ソウェト・キンチで、彼らが演奏する作品以外にもダークハウス・ファミリー、クワイエット・ドーン、エマ・ジーン・ザックレイらUK勢の曲に、マカヤと同じシカゴの〈インターナショナル・アンセム〉所属のコルネット奏者で、ボトル・ツリーでの活動のほかにソロ作もリリースするベン・ラマー・ゲイの曲などが織り交ぜられていた。サブ・タイトルの「シカゴ×ロンドン」どおり、まさにUSとUKのアンダーグラウンド・ジャズの最前線が交差し、ぶつかり合った熱い記録である。ミックステープという形式ではあるが、2018年度にリリースされた作品の中でも極めて重要な一枚と言えるだろう。

 マカヤ・マクレイヴンは2015年の『イン・ザ・モーメント』で一躍注目を集め、クリス・デイヴ、マーク・ジュリアナなどと共にUS新世代のジャズ・ドラマーとして評価されてきた。アーチー・シェップやユセフ・ラティーフなどと共演するドラマー、ステファン・マクレイヴンとハンガリー出身のフォーク歌手アグネス・ジグモンディの息子で、マサチューセッツで育ち、ティーン時代にザ・ルーツに影響を受けたヒップホップ・バンドのコールド・ダック・コンプレックッスを組む。マサチューセッツ州立大学卒業後、コールド・ダック・コンプレックッスでレコード・デビューも果たすが、大学で講師を務める妻の仕事の関係で2006年にシカゴへ移住している。シカゴでマカヤはヒップホップ以外にさまざまな音楽的体験を積み重ね、昔からシカゴに根付くフリー・ジャズやフリー・インプロヴィゼイションなどから、ポストロックやシカゴ音響派などからの影響も併せ持つミュージシャンとなる。『イン・ザ・モーメント』はそうした彼の特徴がよく表れたもので、トータスのジェフ・パーカーやタウン&カントリーのジョシュア・エイブラムスたちと重ねたライヴ・セッションを、DAW上で再構築して生まれたものだ。そこにはニューヨークなど東海岸のジャズとは違う、ロサンゼルスなど西海岸のジャズとも違う、シカゴ特有のジャズがあった。
 また、LAのジャズにフライング・ロータスなどビート・ミュージックの影響が介在するとすれば、マカヤのジャズにはシカゴや隣接するデトロイトのクラブ・サウンドからの影響もあると言える。2017年にリリースした『ハイリー・レア』は、まるでセオ・パリッシュやムーディーマンがジャズをやったかのようなアルバムで、さらにアフリカ音楽や民族音楽などの要素も交え、レフトによるターンテーブルもフィーチャーされていた。このアルバムもベン・ラマー・ゲイたちとやった2016年のライヴ録音を編集したミックステープで、そもそもカセットでリリースされたもの。マカヤはこうした通常のジャズのレコーディングではないDJミックス的なスタイルを好み、ライヴでもドラム以外にキーボードやサンプラーなどを用いて、ビートメイカー的に即興演奏をおこなっている。『ホエア・ウィ・カム・フロム』は音楽的にもスタイル的にも『ハイリー・レア』の延長線上にあるもので、さらにそこへ南ロンドンのジャズのエッセンスを加えたものだった(レフトも『ハイリー・レア』に続いてミックスで参加している)。

 そんなマカヤ・マクレイヴンの最新作『ユニヴァーサル・ビーイングス』は、『イン・ザ・モーメント』、『ハイリー・レア』、『ホエア・ウィ・カム・フロム』と続いてきた彼の世界を総括する、CD2枚組に及ぶ圧倒的なヴォリュームの作品となった。アルバムは4つのパートに分かれ、それぞれニューヨーク、シカゴ、ロンドン、ロサンゼルスでおこなわれたセッションから構成される。NYセッションはハープ奏者のブランディ・ヤンガー、チェロ奏者のトメカ・リードとの共演。“ホリー・ランズ”や“ヤング・ジーニアス”でコラやンゴニなどアフリカの民族楽器を思わせる神秘的な音色が奏でられる一方、イントロダクションや“ブラック・ライオン”は彼のヒップホップ・ドラマーだった頃を思い起こさせるもの。全体的にはディープで美しいスピリチュアル・ジャズを展開する。
 シカゴ・セッションはトメカ・リードと『ハイリー・レア』にも参加していたベーシストのジュニアス・ポールのほか、ロンドンからシャバカ・ハッチングスがテナー・サックスで参加。“ファラオズ・イントロ”から“アトランティック・ブラック”へと続く流れは、シャバカ・ハッチングスとアンセスターズによる『ウィズダム・オブ・エルダーズ』に通じるアフリカ色濃厚なもので、さらにセオ・パリッシュなどのディープ・ハウスのエッセンスも加わっている。ヒップホップ・ビートを咀嚼した“インナー・フライト”にしてもアフリカ的なテイストは濃く、アルバム・ジャケットや『ユニヴァーサル・ビーイングス』というタイトルを含め、アフリカをルーツとするジャズの在り方を示すというのがアルバム全体のコンセプトとなっているようだ。

 ロンドン・サイドは『ハイリー・レア』にも参加したヌビア・ガルシアがテナー・サックスを演奏するほか、ピアノのアシュレイ・ヘンリー、ベースのダニエル・カシミールが参加。カリビアンな雰囲気が流れる“スイート・ハウス”は、変拍子から次第に四つ打ち風へと変化し、クラブ・ジャズ的なエッセンスも交えたものとなっている。“フリップド・アウト”のズレたJ・ディラ的なビートは、マカヤの新世代ドラマーたるところを見せるものだ。
 LAセッションはジェフ・パーカーの自宅で行われたもので(現在、ジェフはシカゴからLAへと移住している)、彼がギターを弾くほか、ヴァイオリンでミゲル・アトウッド・ファーガソン、パーカッションでカルロス・ニーニョ、アルト・サックスでジョシュ・ジョンソン、ベースでアンナ・バタルズが参加。“バタルズ”や“タートル・トリックス”などで見られるマカヤとジェフとの共演は、『イン・ザ・モーメント』におけるポストロック的な雰囲気を思い起こさせるものであり、そこへミゲルとカルロスによるフォークトロニカ的な要素も融合されている。4つのセッションのなかでももっともフリーフォームで、即興演奏の色合いが強いのがLAサイドである。四つの都市で行われたこれらセッションを通じ、マカヤはアメリカのそれぞれの都市のジャズ、そしてロンドンのジャズを繋げたと言える。

小川充