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Nala Sinephro

Nala Sinephro

ナラ・シネフロの奏でるジャズはアンビエントとしての魅力も放っている

──最新作『Endlessness』を聴いて

原 雅明   photo by Tofjan Sep 06,2024 UP

 ナラ・シネフロのデビュー・アルバム『Space 1.8』がリリースされる前のことだ。インタヴューができるというので質問を送った。しかし、返ってきたのはインタヴューを受けられなくなったというレーベル側のコメントだった。オフィシャルなプロモーション取材が優先されたのだろうと理解したが、そこにはシネフロ本人のお詫びの言葉も添えられていた。丁寧な対応だと思った。その後に公開されたピッチフォークのインタヴューで、「アンビエント・ジャズ」や「ハープ奏者」というメディアの形容からシネフロが逃れようとする発言をしているのを知った。完全に制度化されたジャズの間違った売られ方、教えられ方への厳しい批判を口にして、本物のクラシックのハープ奏者が見たら発狂するような伝統を破る弾き方をしていることもクソ喰らえと言わんばかりに強気に語っていた。そうした発言は意外ではなく、当然の態度のように感じた。
 シネフロの音楽は、本人にどんな意図があろうと、良質のアンビエントとしての魅力を放っているし、ジャズを聴いている耳にも引っかかるだけのハーモニーとリズムのうねりの美しい重なりがある。心地良さに包まれる瞬間も確実にある。ただ、それらは、粗い質感と歪んだ音響が見えないレイヤーに潜んでいるような、ある種の危うさを伴って響いてくる瞬間もあるのだ。『Space 1.8』が、いくつかの文脈を伴って多様なリスナー層にアピールした所以だと思う。
 シネフロの経てきた聴取体験や音楽的な嗜好は、かつてNTS Radioで持っていた番組のプレイリストから少し伺い知ることできる。2020年頃に月に1回ほど放送していたミックスはMixcloudでいまも聴くことができて、botがまとめたプレイリストがYouTubeに上がってもいる。例えば公開されていない初回の放送では、MFドゥームの “Gas Drawls” からスタートして、ヘンリー・フランクリン、オープン・スカイ(デイヴ・リーブマン、フランク・トゥサ、ボブ・モーゼス)、ウェザー・リポート、アルハジ・チーフ・コリントン・アインラ、ミニー・リパートン、ファラオ・サンダース、モネット・サドラー、エベニーザー・オベイなどが掛かった。この回はスピリチュアル・ジャズやナイジェリアの音楽に主にフォーカスしているようだったが、間に幾度かMFドゥームの曲が挟まれていた。その他の回でも、日本の環境音楽やアシッド・フォーク、フランスやデンマークの初期の電子音楽から、UKのポスト・インダストリアル、ドローン、〈ECM〉、エレクトロ・ディスコ、ニューヨーク・ラテン、クレタ島のフォークロア、アンゴラのクドゥロ、ジャマイカのダブ、そしてエリック・ドルフィーとチャールズ・ミンガスなど、異なるジャンルと時代が入り混じった選曲をしていた。
 これらがすべてシネフロの音楽のバックグラウンドを形成しているという単純な話をしたいわけではない。ただ、この豊かなプレイリストを見ていると、ハープ奏者という枠にはめられることを否定して作曲家であると言い張る理由がわかるのだ。ジャズを教える音楽大学からドロップアウトしたシネフロにとって、吸収すべきものは音楽そのものだったということだ。ある楽器を演奏するテクニックに秀でるといっても、本来いろいろなスタイルがあり、それによって判断基準も異なる。ジャズでよく使われる「最高峰」という形容は、演奏家のヒエラルキーを可視化しようとする。だが、そこにあるヒエラルキーにふと疑問を抱いた者に、別の可能性を与えるだけの余地をまだジャズという音楽は持っている。演奏家ではなく作曲家であろうとするシネフロが、『Space 1.8』で見出したのはそのことだ。
 ジャズがビバップのコード進行から解放されて、モードに則った演奏に向かった中に、すでにアンビエントの萌芽のようなものがあったのではないか、と感じることがある。ビバップのコード・チェンジで進行していくヴァーティカルな演奏は、調性が明確で、テンション・ノートの使い方を含めて完成されたスタイルを成している。それに則って演奏することでジャズらしくなる。一方で、モード・ジャズ、モーダルな演奏というものは、縦割りのコード進行に囚われずホリゾンタルに広がって、コードトーンではなくキーからモチーフが作られていく。そのように一般的には説明されるのだが、実際はモーダルな演奏といっても、ビバップのコーダルな演奏が混じることもある。特に現代の有能なジャズの演奏家たちはあらゆるスタイルに長けていて、それらを混ぜ合わせて妙技を見せる。だが、そうしたハイブリッドな演奏からドロップアウトしてしまった音楽がある。調性の足かせを外したフリー・ジャズもそのひとつだが、調性を残しながら(あるいは極めて単純化させながら)環境に馴染ませていったアンビエントもそのひとつだ。

 シネフロの新しいアルバム『Endlessness』は、『Space 1.8』よりも幾分かジャズに寄っている。オープニングの “Continuum 1” がそれを象徴する曲だ。エズラ・コレクティヴのジェームス・ モリソンのサックスとブラック・ミディのモーガン・シンプソンのドラム、それにシネフロがアレンジしたストリングスが加わる。 シンセサイザーのクレジットがあるが、ハープを取り込んだ音のようにも聴こえる。抑制的に短いモチーフが反復されていく中から、ストリングスが次第に聴こえてくるが、そのハーモニーが支配的になることはなく、別のレイヤーにずっと存在し続けているかのようだ。まとまりがないということではない。ストリングスは緩やかな高揚感をもたらすが、やがて霧散していくものとして存在している。
 この流れは、“Continuum 2” にも続く。ライル・バートンのピアノがまず基軸を作り、ヌバイア・ガルシアのサックスやシーラ・モーリスグレイのフリューゲルホーンは、ココロコのようなUKジャズのダイナミズムから離れて、ひとつのサウンドスケープの中に溶け込んでいる。この2曲はまさにホリゾンタルに広がっていく世界を描く。そして、アルバムで唯一ハープがクレジットされている “Continuum 3” からアンビエントのサウンドスケープが色濃くなるが、その音響は『Space 1.8』よりもダイナミズムを増している。“Continuum 6” で、シンセサイザーとガルシアのサックスやナシェット・ワキリのドラムとの演奏は熱を帯びていくが、長くは持続せずに起伏のひとつを成し、ラストの “Continuum 10” ではアリス・コルトレーンとクラウトロックの側へと至っている。
 聴覚と視覚や触覚など、五感が互いに影響を及ぼし合うクロスモーダル(cross-modal)という現象がある。音響心理学や音の物理学への関心を深めてきたシネフロにそのことを尋ねてみたいというちょっとした好奇心から質問のひとつに加えたのを覚えているが、いまとなってはクロスモーダルという言葉自体が示唆的に聞こえ、その現象と言葉から勝手に読み解くことがありそうだ。『Endlessness』を聴きながら、そんなことを思っている。

NALA SINEPHRO
ナラ・シネフロ、ニューアルバムを完成させ、待望の初来日公演が決定!

ジャズの感性、ハープとモジュラー・シンセが奏でる瞑想的なサウンド、そしてフォーク音楽やフィールドレコーディングを融合させた独特の世界観で、広く賞賛を集めるナラ・シネフロが、ニューアルバム『Endlessness』を携え、強力なバンドメンバーと共に待望の初来日公演を行うことが決定した。

カリブ系ベルギー人の作曲家でミュージシャンのナラ・シネフロ。話題を呼んだデビュー・アルバム『Space 1.8』は、UKの名門レーベル〈Warp Records〉から2021年9月にリリースされた。サックス奏者のヌバイア・ガルシアやジェームス・ モリソン(エズラ・コレクティヴ)をはじめ、新世代UKジャズ・シーンの最前線の面々の参加を得つつ、当時22歳のナラが作曲、プロデュース、演奏、エンジニアリング、録音、ミキシングを行い創り上げた。その静かな狂気と温かな歓喜に満ちたサウンドは、主要音楽メディアがこぞって大絶賛、ここ日本でもアナログ盤とCD盤が異例のロングヒットとなった。

そんなナラ・シネフロが遂にニューアルバム『Endlessness』を完成させた。2024年を代表するだろうそのアルバムは9月6日にリリースされる。そして待望の初来日公演が決定!完売必至の一夜は11月25日にめぐろパーシモンホールにて開催!チケットの確保はお早めに!

2024年11月25日(月)
めぐろパーシモンホール 大ホール
meguro Persimmon Hall

開場 18:00 / 開演 19:00

TICKET:8,000 YEN (税込/全席指定) ※未就学児童入場不可 ※開演前にお早目のご入場をお願いします。

企画制作:BEATINK
INFO:03-5768-1277 / E-mail: info@beatink.com / [ WWW.BEATINK.COM]

チケット詳細:
一般発売:8月23日(fri)18:00~

イープラス
LAWSON TICKET (L:70999)
BEATINK

INFO: BEATINK 03-5768-1277 www.beatink.com

label:BEAT RECORDS / WARP RECORDS
artist:Nala Sinephro
title:Endlessness
release:2024.9.6.
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=14242
Tracklist:
01. Continuum 1
02. Continuum 2
03. Continuum 3
04. Continuum 4
05. Continuum 5
06. Continuum 6
07. Continuum 7
08. Continuum 8
09. Continuum 9
10. Continuum 10

Profile

原 雅明/Masaaki Hara原 雅明/Masaaki Hara
音楽ジャーナリスト/ライター、レーベルringsのプロデューサー、LAのネットラジオ局の日本ブランチdublab.jpのディレクターも担当。ホテルの選曲やDJも手掛け、都市や街と音楽との新たなマッチングにも関心を寄せる。早稲田大学非常勤講師。著書『Jazz Thing ジャズという何か』ほか。

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