Home > Reviews > Album Reviews > Ezra Collective- Where I’m Meant To Be
サウス・ロンドンのジャズ・シーンで活動するミュージシャンの多くは音楽家育成機関のトゥモローズ・ウォリアーズ出身者で、なかにはエズラ・コレクティヴやネリヤといったトゥモローズ・ウォリアーズ内のメンバーで結成されたバンドもある。エズラ・コレクティヴは2012年に結成され、いまのようにサウス・ロンドン・シーンが注目を集める以前からこの界隈を牽引してきた存在だ。フェミ・コレオソ(ドラムス)とTJ・コレオソ(ベース)の兄弟を中心に、ジョー・アーモン・ジョーンズ(ピアノ、キーボード)、ディラン・ジョーンズ(トランペット)、ジェイムズ・モリソン(サックス)からなる彼らは、まずライヴ活動で評判を呼ぶようになり、2016年に初のEP「チャプター7」をリリース。バンド活動と並行してメンバーのソロ・ワークや別プロジェクトでの活動などもあり、バンドとしてのレコーディングの時間を確保することが難しく、ファースト・アルバムの『ユー・キャント・スティール・マイ・ジョイ』をリリースしたのはようやく2019年に入ってのことだった。
アフリカ系のコレオソ兄弟、ラテン系のジェイムズ・モリソン、アングロ・サクソン系のジョー・アーモン・ジョーンズ、ディラン・ジョーンズという多民族集団である彼らの特徴は、ジャズを基調とした上でルーツである民族音楽を融合している点。サウス・ロンドンにはこうした民族的なカラーを反映したミュージシャンが多く、アフロ、カリビアン、インド、中近東などさまざまなルーツとジャズを結び付けた音楽が生まれているわけだが、エズラ・コレクティヴの場合はリズム・セクションがアフリカ系のコレオソ兄弟ということもあり、アフリカ音楽のビートが骨格となることが多い。アフリカ音楽を取り入れたサウス・ロンドンのジャズ・バンドやミュージシャンではココロコやシャバカ&ジ・アンセスターズなどもいるが、エズラ・コレクティヴは純粋なアフリカ音楽やアフロ・ジャズというより、そもそもアフリカ音楽とファンクを結び付けたアフロビートが基盤となっていて、すなわち雑食性の高いミクスチャー・バンドである。
その雑食性の高さからアフロビート専門のバンドとも異なって、アフロ以外の音楽やリズムもふんだんに取り入れている。『ユー・キャント・スティール・マイ・ジョイ』においてはラテンやブラジル音楽、そしてヒップホップやブロークンビーツなどクラブ・サウンドも幅広く融合し、極めてダンサブルで明解なサウンドを見せていた。ダンサブルで明解というのはシャバカ&ジ・アンセスターズなどとは対極にあるもので、フェスやライヴなどで観客が踊ることを予め想定したような曲作りをおこなっている。生粋のダンス・バンド、クラブ・ジャズ・バンドと言えるのがエズラ・コレクティヴなのである。
そんなエズラ・コレクティヴが約2年半ぶりのセカンド・アルバム『ホェア・アイム・メント・トゥ・ビー』をリリースした。今回メンバー変更があり、トランペットがディラン・ジョーンズからイフェ・オグンジョビへ変わっている。イフェはナイジェリアをルーツとするミュージシャンで、モーゼス・ボイドの『ダーク・マター』(2020年)などに参加してきた。エズラ・コレクティヴには2019年6月のグラストンベリー・フェスの時点で既に参加しており、〈ブルーノート〉の企画作品『ブルーノート・リイマジンド』(2020年)でエズラが演奏したウェイン・ショーターの “フットプリンツ” のカヴァーから正式に加入した模様だ。
なお、ディラン・ジョーンズの方は現在、Pyjean(パイジャン)というグループで主に活動している。前作では5人のメンバー以外に楽曲によってココロコがコラボし、ロイル・カーナーとジョルジャ・スミスのゲスト・シンガーを迎えて歌モノのヴァリエーションも見せていたが、今回はゲスト・シンガー、ゲストMCの数も増え、サンパ・ザ・グレイト、コージェイ・ラディカル、エミリー・サンデー、ネイオが参加している。ちなみに、メンバーが部屋でセッションする光景を収めたジャケット写真は、セロニアス・モンクの『アンダーグランド』(1968年)の構図をモチーフにしたものだ。
アルバムの冒頭はヒップホップMCのサンパ・ザ・グレイトをフィーチャーした “ライフ・ゴーズ・オン”。アフロ・サンバを軸とした曲調で、アフリカのザンビア出身のサンパはこうしたトライバルなグライム調の楽曲にマッチしている。“ヴィクトリー・ダンス” は「勝利の舞」というタイトル通りアッパーでダンサブルな楽曲。アフリカ音楽というより、サルサのようなラテン音楽をベースとした楽曲で、ジョー・アーモン・ジョーンズのピアノ、イフェ・オグンジョビのトランペットもラテンの奏法である。レア・グルーヴとしても名高いハー・ユー・パーカション・グループの “ウェルカム・トゥ・ザ・パーティー” を彷彿とさせる楽曲で、“ライフ・ゴーズ・オン” での冒頭のざわめきもハー・ユー・パーカション・グループ風である。何せ50年以上も前のバンドなので、エズラ・コレクティヴがどこまでハー・ユー・パーカション・グループのことを知っているのかわからないが、どこか参考にしているのではないかと勘繰りたくなる。
コージェイ・ラディカルが「ジャズ・イズ・マイ・ウェイ」とMCする “ノー・コンフュージョン” は、アフロビートとグライムをミックスしたエズラ・コレクティヴらしい楽曲。ナイジェリア警察の腐敗や暴力を題材にしたフェラ・クティの “コンフュージョン”(1975年)を下敷きとしたような曲調である。収録時間は3分ほどと短く、途中で終わってしまうような展開だが、ライヴなどでは10分以上も続いていくようなグルーヴを感じさせる。
なお、リリース元の〈パルチザン〉はフェラ・クティのリイシューをおこなったり、息子と孫にあたるフェミ・クティ/メイド・クティの『レガシー+』(2021年)をリリースしていて、エズラ・コレクティヴのようなバンドをリリースするのも何かの縁かもしれない。
“ウェルカム・トゥ・マイ・ワールド” もハー・ユー・パーカション・グループの “ウェルカム・トゥ・ザ・パーティー” と繋がりがあるのか、アフロビートとラテン・ジャズがミックスしたような楽曲。ジェイムズ・モリソンのメランコリックなサックス・ソロがあり、エズラ・コレクティヴの売りのひとつであるホーン・セクションの魅力が大きくフィーチャーされている。“トゥゲザーネス” はレゲエ/ダブの色合いが濃く、同じサウス・ロンドンではサンズ・オブ・ケメットに共通するような楽曲だ。続く “エゴ・キラー” はスカ調の楽曲で、このあたりはロンドンを拠点とするダンス・バンドらしいところだ。
一方、メロウなホーン・アンサンブルを聴かせる “スマイル” は、グレン・ミラー楽団によるジャズ・スタンダードの “ムーンライト・セレナーデ” のテーマを基に、ジャズ・ヒップホップ的なアレンジを施したナンバー。ジョー・アーモン・ジョーンズのピアノ・ソロも聴きどころで、全体的にはムーディーなスイング・ジャズを下敷きとしながら、ピアノ・ソロだけは新主流派時代のハービー・ハンコックを思わせる感じとなっていて面白い。前述の『ブルーノート・リイマジンド』におけるウェイン・ショーターの “フットプリンツ” でピアノを演奏するのはハービー・ハンコックで、実際そこで聴くことのできるフレーズにもかなり似ているので、ジョー・アーモン・ジョーンズのなかに何らかの意識があったのかもしれない。
エミリー・サンデーをフィーチャーした “シエスタ” は、哀愁に満ちたスパニッシュ風味と透明感溢れる歌声により、かつてのクァンティックとアリス・ラッセルのコラボを思わせる。ストリングスとホーンのコンビネーションでメランコリックな旋律を奏でる “ネヴァー・ザ・セイム・アゲイン” も、ラテンやスパニッシュのアクセントを感じさせるナンバー。ゆったりとしたムードから一転して急速テンポへ移行し、イフェ・オグンジョビのトランペットが高らかなフレーズを奏でる。
ネイオのネオ・ソウル調のヴォーカルをフィーチャーした “ラヴ・イン・アウター・スペース” は、たとえば1970年代にディー・ディー・ブリッジウォーターが歌った “ラヴ・フロム・ザ・サン”(自身のソロ・アルバム、ノーマン・コナーズ、ロイ・エアーズのアルバムでもそれぞれ歌った)あたりを彷彿とさせる。スピリチュアル・ジャズとコズミック・ソウルの蜜月的なナンバーだ。今回もジャズ、アフロ、レゲエ、スカ、ヒップホップ、ソウルなどさまざまな要素が結びついたアルバムだが、そのなかでも特にラテンからの影響が印象深い内容となっている。
小川充