Home > Reviews > 食品まつり a.k.a foodman- HIKARIGASASHIKOMU

食品まつり──この一風変わった屋号のもち主は、2010年代以降の日本のエレクトロニック・ミュージックにおける重要人物のひとりだ。〈Hyperdub〉からの2作目となる『Hikarigasashikomu』もまた、彼をそのポジションから脱落させることはない。
シカゴで生まれたフットワークを独自に改造するところから出発したのが食品まつりという音楽家である──といってしまうとちょっと語弊があるかもしれない。彼が世に浮上するまえからつくっていた曲たちが、たまたまフットワークに似ていたのだ。というわけで〈Orange Milk〉から声がかかった際、フットワークとして聞いてもらえそうな曲を送ってみると……それらはまずUSインディ・シーンのカセット文化のなかで受けいれられることに(ちなみに故センセーショナルからコラボのオファーを受けたこともあったという)。
より広汎なリスナーが食品まつりを発見したのは、セカンド『Ez Minzoku』(2016)以降だろう。つづいてサン・アロウのレーベル〈Sun Ark〉からリリースされた『Aru Otoko No Densetsu』(2018)でその地位を確固たるものとしたフードマンは、パンデミック下で制作された『Yasuragi Land』(2021)でみごとコード9の耳をとらえることに成功、〈Hyperdub〉ファミリーの一員となる。かくして中原昌也との食中毒センター(2021)、ナカコー&沼澤尚とのコラボレーション(2022)を挟んで届けられたのが、この最新オリジナル・アルバム『Hikarigasashikomu』だ。
前作『Yasuragi Land』は、個人的にはギターっぽい音の活用が印象に残っているのだけれど、その手法は声をサウンドとして用いた “Omoi”、あるいはチルなムードから一転、中盤からいきなりロック風になる “Hard Reclining” などで今回も堪能することができる。相変わらずほとんどの曲にベースやキックは搭載されておらず、比較的少なめの音数で余白を残しながらグルーヴを紡いでいく手腕は、もはや熟練の域に達している。けれども新作の核はそこにはない。2023年のEP「Uchigawa Tankentai」で試みられたアプローチのさらなる発展、すなわち大胆なる声の実験──いや、「声」というよりも「ことば」の跳梁跋扈こそ、『Hikarigasashikomu』がもつ最大の個性だ。
とにかくかつてなく騒々しい。エフェクトが施されているとはいえ、日本語話者の耳には嫌でも聞き慣れた単語が飛びこんできてしまう。「よかったよ」(“Hikariga”)、「ほらみろ」(“Horomiro”)、「ゆっくり/はっきり」(“Hoso Michi”)──これら平凡な日常単語の変形と反復には、とくになにかメッセージがこめられているわけではない。せわしなく転がりまわることばの数々は、むしろ「意味」から解放されている。ネット・スラングでいうところのゲシュタルト崩壊ってやつだ。唐突に高速4つ打ちにトランスフォームする “Nukumori” なんかはその最高のぶっ壊れ方を聴かせてくれている。
もともと短い間隔で要素同士を接続する彼だけれど、今回はさらにことばのクラッシュが加わることで、アルバムはまさに混沌と呼ぶべき様相を呈している。次から次へと景色を切りかえていく彼の音楽は、ショート動画やSNSの世界そのものだ。文脈を剥奪されたことばの断片たちは、とくに読みたくも聞きたくもない文字列や音声が洪水のごとくあふれてくる現代の、果てしなき疲労を表現しているようにも思えてくる。
カオスに満ちた『Hikarigasashikomu』はしかし、けしてダークでも陰湿でもない。ナンセンスなことばの切れはしにはユーモアと、妙な人間味が宿っている。食品まつりはあくまで「光のほうへ」(“Hitorigoto”)と向かっているのだ。そこは人柄だろう。ボー・ニンゲンのタイゲン・カワベを筆頭に、ニッキ・ネアーからあっこゴリラまで、多方面の才能たちが彼のまわりに集まってくるゆえんである。
小林拓音