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Elzhi

Hip Hop

Elzhi

Seven Times Down Eight Times Up

Fat Beats / Glow365

大前至   Dec 14,2020 UP

 一時は J Dilla 脱退後の Slum Village にも在籍しながら、Black Milk がメイン・プロデューサーを務めた『The Preface』(2008年)によってアルバム・デビューを果たしたデトロイト出身のラッパー、Elzhi(エルザイ)。2011年には WIll Sessions をバック・バンドに従えて制作した Nas『Illmatic』のカバー作『Elmatic』がヒップホップ・ファンの間で広く話題を呼び、さらに2016年のアルバム『Lead Poison』を経て、3作目のオリジナル・アルバムとしてリリースされたのが本作『Seven Times Down Eight Times Up』である。日本のことわざ「七転び八起き」を直訳したと思われるアルバム・タイトルが示す、現在42歳である Elzhi のこれまでの人生の流れが本作に反映されており、前作『Lead Poison』では内省的かつナイーブな面も見せていた Elzhi であるが、メンタル的にも完全復活し、次のレベルへと完全にバージョンアップした姿を本作で披露している。

 多少ぶっきらぼうに語るイントロによって幕を開け、続く “Smoke & Mirrors” からラストの “JASON” まで、決して大袈裟な表現ではなく、捨て曲は一つもない。本作のプロデュースを手がけているのは、ブルックリン出身で現在、ヴァージニアを拠点とするプロデューサーの JR Swiftz という人物で、これまで Conway The Machine や Westside Gunn の楽曲を手がけてきたそうであるが、おそらくヒップホップ・シーンではまだまだ無名に近い存在だ。SNSを通じて JR Swiftz が Elzhi へ直接コンタクトを取ったことによって今回のコラボレーションがスタートしたとのことだが、まるで人知れず眠っていたお宝のように光り輝く JR Swiftz のビートに Elzhi が強く刺激を受けたことで、このアルバムがこれほどまでに高い水準の作品になったのは疑いようがない。

 J Dilla や Black Milk に強い影響を受けたという JR Swiftz のビートが Elzhi のラップと相性が良いというのは至極当然のことではあるが、思わずヘッドバンギングしたくなるような太く響き渡るドラムにバラエティに富んだサンプリング・サウンドを乗せて作られたビートに対して、Elzhi は感情の強弱をつけながら、自らの経験を踏まえたドキュメンタリーから映画に着想を得たストーリーテリングまで、さまざまなテーマを横断しながら極上のラップを展開する。本作の何が特別なのかを言葉に表すのは非常に難しいのだが、この二人を掛け合わせることによって特別な化学反応が起きていることは、アルバムを一聴すればすぐに分かるだろう。特にアルバム前半部、“Smoke & Mirrors” から “Light One Write One” までの4曲は完璧すぎるほどの流れで、30代後半以上の日本語ラップ・ファンであれば “Light One Write One” のサンプリング・ネタにニヤリとする人もいるに違いない。

 本作によって JR Swiftz がプロデューサーとして今後大きく飛躍することは間違いなく、そして Elzhi 自身のアーティストとしての第二章のはじまりさえも感じさせる素晴らしいアルバムだ。

大前至