Home > Interviews > interview with Dolphin Hyperspace - ジャズの時代、イルカの実験
どちらも凄腕のプレイヤー、サックス奏者のニコール・マッケイブと、ベース奏者のローガン・ケインからなるLAのデュオがドルフィン・ハイパースペースだ。サンダーキャットやルイス・コールの系譜に連なる才能、その最新作をご堪能あれ。
ドルフィン・ハイパースペースはL.A.を拠点とするエレクトロ・ジャズ・デュオ。
サックス奏者のニコール・マッケイブとベーシスト/プロデューサーのローガン・ケインによるこのユニットは、2020年の1st EP、2021年作『Mini Giraffe』で頭角を現し、2024年の『What is my Porpoise?』ではルイス・コールやジャスティン・ブラウンを迎えて注目を集めた。
新作『ECHOLOCATION』にはジェラルド・クレイトンも参加。モダン・ジャズの素養に裏打ちされた確かな演奏力をベースに、L.A.ビート・シーンのエレクトロニックな感触と、イルカのキャラクターをモチーフにした遊び心がカラフルに交差する。
かつてテクノやドラム&ベースが「フューチャー」を標榜し、また「フューチャー・ジャズ」に 音楽の未来をかいま見た時代があった。
それから20年以上。当時思い描いていた「未来」は、いまやすっかり日常のなかに沈み込んでいる。テクノロジーは「夢」から「インフラ」へと姿を変え、音楽の進化もアルゴリズムによる最適化になかば飲み込まれてしまっている。
「未来」は憧れではなく、ディストピアと戦争への恐怖や不安を思わせるものになってしまった。
そんなことを考えながらこのアルバムを聴いていたら、思わずニヤリとしてしまった。このデュオの音楽には、もう信じられなくなりつつある、でも諦めきれない未来への期待感と、いたずらっ子のようなユーモアが同居している。
「ガジェット・ジャズ」と呼びたくなるような、夢とガラクタが詰まったオモチャ箱みたいなサウンドは、まぶしいぐらいキラキラしていてちょっとヘンテコで、まっすぐな希望に満ちている。
ジャズと、かわいい動物にインスパイアされた音の風景みたいなものを、ちょっと混ぜてる感じかな。(ローガン)
■あなたたちの音楽は、ハンパなく高度なテクニックで裏打ちされています。シリアスなジャズをやろうと思えばいくらでもできるだろうけど、そうはしません。スタンダードを崩したりしながら、ジャズの芯の部分はしっかり保っている。あなたたちは、伝統的なジャズの高度なヴォイシングと作曲方法、演奏テクニックを習得すると同時に、ポップで軽いオモチャみたいなサブカルチャーを同時に吸収してきたのだと思いますが、当たっていますか?
Logan Kane(以下、L):すごくいいね、ニコール、君から答える?
Nicole McCabe(以下、N):ううん。
L:その通りだよ。言ってくれてることはすごく的確だと思う。影響について話すと、ニコールと僕は、このプロジェクト以外でもプロのジャズ・ミュージシャンとして活動していて、いろんなアーティストと一緒にアコースティック編成でツアーもしてるし、大学でもジャズの歴史を学んできた。だから突き詰めると、これはジャズのプロジェクトだと思ってるし、そこをちゃんと汲み取ってもらえたのはすごく嬉しい。気づいてくれてありがとう。普段かなりアコースティック・ジャズをやってるからこそ、まだあまりやられていないことや、もっと新しく感じられるものをやりたいっていう気持ちがあって、それでこのプロジェクトではかなり違うサウンドの方向に振ってみたんだ。それと、ジャズって、本当に最高なんだけど、どうしてもすごくシリアスになりがちでさ。僕たち自身も真剣にやってはいるけど、質問者さんが言ってくれた「悪ふざけ」みたいな部分もすごく大事にしてる。あと、このインタヴューは(動画ではなく)テキストだから見えないけど、僕たちのロゴはイルカなんだ。かわいい動物がすごく好きだから。だから、ジャズと、かわいい動物にインスパイアされた音の風景みたいなものを、ちょっと混ぜてる感じかな。それもひとつのインスピレーションだね。
N:私とローガンって、それぞれかなり違う影響を持ってて、それを一緒にすると「Dolphin Hyperspaceの音」になるという感じ。それぞれいろんなものを持ち寄ってるんだけど、私はダンス・ミュージックからの影響が強くて、ドラムンベースとかジャングル、UKガラージとかがすごく好き。で、ローガンはゲームっぽい要素を加えてくれるし、プロダクションもめちゃくちゃ上手いの。聴こえてくるかっこいいエフェクトは、だいたいローガンだよ(笑)。制作は、私が曲のアイデアを作って送って、彼が仕上げることもあるし、その逆もあったりするかな。お互い影響の幅が広いのは大きいよね。ローガンはパンクとかブラストビートが好きで、私はファンクとかいろいろ好きだし、本当にいろんなものが混ざってる感じ。あと、結果をあまりジャッジしすぎないようにしてるのも大きいと思う。
■2020年にデビューしていますが、ドルフィン・ハイパースペースの音楽スタイルが確立したのはいつ? どんなきっかけ?
L:これは正直、かなり偶然に近い形で最初から形になっていった感じがあるんだ。というのも、プロジェクトをはじめた当時、ニコールと僕は別々の街に住んでいた。だからお互いに音源データを送り合いながら、とにかく実験していくしかなかったんだ。その実験的なやり方自体が、それまで自分たちでもやったことのない新しいものを自然と生み出していった感じで、そこから少しずつそのサウンドを掘り下げていった、という流れかな。最初のEP『Dolphin Hyperspace』を聴くと、そのはじまりと、いまのサウンドにつながっていく過程がわかると思う。
N:そうね、私たちとしては、サウンド自体というより、「どういうふうに聴いてほしいか」みたいな部分をずっと磨いてきてる感じ。「親しみやすい・とっつきやすい(=accessible)」っていうのは、私たちにとってすごく大事なキーワード。演奏中には実際にすごくいろんなことが起きていて、かなりクレイジーではあるんだけど、ちゃんと聴き手が入り込める余地は残しておきたいと思ってる。私としては、しっかりしたメロディがあることもすごく大事で、聴く人がついて来れるポイントがあるといいなって思ってる。そのうえで、展開がある程度わかっている部分もあれば、逆に自分たちでもどうなるかわからない瞬間もたくさんあって、特にライヴではかなりオープンな状態になっていると思う。でも最終的には、聴いている人が楽しめて、ちょっとの間でも悩みを忘れられるようなものを作りたいっていうのがいちばん大きいかな。
L:やっぱり「楽しい(=fun)」っていうのがいちばんだよね。
■あなたたちの音楽には、ズレや脱力が美しさに変わる瞬間があります。カッコよくキメるのではなく、ハズしの美学を感じます。まぬけで愛嬌があってかわいい感じ。制作やライヴで生じる音楽的な偶然や失敗をどう扱っていますか?
L:僕たちは、ジャズの現場で培ってきた感覚があるから、これはまさにぴったりの質問だね。ジャズって即興だから、その場でどんどん作っていくものなんだ。だからミスが起きたときも、それを別の新しいものに変えていくように訓練されてる。だからこそ、そういうものも全部そのまま音楽に残してる。実際、ただ録音しているだけという感覚に近くて、ニコールが言ったみたいに、ある程度どうなるかわかっている部分もあるけど、かなり広い範囲で何が起きるかわからない部分もある。そういう不確定な部分も含めて受け入れて、できるだけ編集はしすぎないようにしてる。
N:私たちってあんまり……特にソロに関しては、レコーディングでもライヴでも、ほとんど編集しないタイプだと思う。テイクも何回も重ねるっていうよりは、せいぜい数回くらいで。私たちにとっては完璧さよりも、その瞬間に生まれる感じのほうが大事なんだよね。それがあることで、ちょっとした愛嬌とか、自然な感じが出ると思うし。これまでにも、最初はミスだと思ってたものが、たとえばキーがずれてたりしても、あとから曲の大事な要素になったことが何度もあって。たとえば “Baby Parakeet” のローガンのソロとかもそうだったよね。最初に狙ってたものとは違うことが起きて、それがむしろそっちのほうがいいって気づくこともある。やっぱり「その場で生まれる感じ(=spontaneity)」っていうのは、私たちにとってすごく大きいと思う。
「伝統的なサンバを電子的に再現したらどうなるか?」っていう発想からはじまって。それでAセクションはそういうサンバになってて、Bセクションがダブステップになるっていう(笑)。(ローガン)
■曲を聴いていると「ふざけているようで緻密」「軽やかで攻撃的」という相反する要素が同居しています。このバランス感覚はどのように養われたのでしょうか?
L:いい質問だね。正直に言うと……ニコールはまた違う答えかもしれないけど、このプロジェクトに限らず、僕は曲を書いてるときは、あんまり考えないようにしてるんだよね(笑)。実際、起きてることの多くはちょっと無意識に近いし、そういうふうに言葉にしてもらえるのはすごく面白い。自分としては、とにかくエネルギーに任せて進めてる感覚が強いかな。僕たちはその場で何が楽しいかとか、演奏してて楽しいものは何かっていうのを探りながらやってることが多くて、あと、どんな楽しいテーマを広げていけるかも大事にしてる。だから曲名も「Minuscule Minnow(ちび魚)」とか「Baby Parakeet(ひなインコ)」みたいに、かわいい動物系のタイトルが多いんだと思う。結果的にああいうサウンドになるのも、わりと偶然の積み重ねっていう感じかな。ニコールはどう思う?
N:私たちは、速いテンポが好きなのよ。
L:そう、やっぱり「楽しい」っていう感覚は大事だし、速いテンポもすごく好き。で、速いテンポをちゃんと演奏するには、むしろ軽やかさが必要になることが多いんだよね。だから攻撃的に聴こえる部分も、テクニックの一部がそのまま作曲に反映されてる、みたいなところがあると思う。
N:うん、それか単純にふたりのアイデアが混ざってるだけのときもあるよね。“Minuscule Minnow” だと、私はボサノヴァをやりたくて、ローガンはドラムンベースをやりたかったんだよね?
L:そうそう、ドラムンベース。
N:だからその両方のセクションを入れてみたら、すごくかわいい部分と、すごくコントラストの強い部分が並ぶ形になって。そうやってお互いのアイデアを持ち寄って、どうなるか試してみる、っていう感じかな。
■ユーモアを表現する際、どの程度まで意識的におこなっていますか? 結果的に面白くなってしまう感じなのでしょうか?
N:自然に出てきてるものだと思う。私たち、普段からずっとふざけ合ってるし、よく冗談言ったり、変なシナリオで妄想したりしてるから。このプロジェクト自体も、「とにかくいちばんクレイジーなこと考えてみよう」とか、「いちばん面白い言葉って何だろう」みたいなところからはじまることが多くて。それを「いや、これはちょっとバカっぽいかな」ってボツにするんじゃなくて、そのまま追求するんだよね。すごく……なんて言えばいいんだろう、ほんとにそのまま突き進む感じっていうか。
L:ひとつのアイデアにちゃんと乗っかって、そこから広げていく感じだよね。新しいアルバムの中に “Dolphin Samba” って曲があるんだけど、それは「伝統的なサンバを電子的に再現したらどうなるか?」っていう発想からはじまって。それでAセクションはそういうサンバになってて、Bセクションがダブステップになるっていう(笑)。
通訳:いいですね(笑)
L:そんな感じで、そのアイデアをそのまま押し広げていったらできた曲で、アルバムのなかでもかなり気に入ってる一曲なんだ。
N:プロモーションとかヴィジュアルも同じで、イルカのイメージも含めて、「やってて楽しそうなアイデア」をそのまま形にしてる感じ。自分たちの想像の断片をそのまま現実にしていってる、みたいな感覚だと思う。
質問・序文:春日正信 Masanobu Kasuga(2026年5月01日)
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春日正信/Masanobu Kasuga