Home > Interviews > interview with Dolphin Hyperspace - ジャズの時代、イルカの実験
どちらも凄腕のプレイヤー、サックス奏者のニコール・マッケイブと、ベース奏者のローガン・ケインからなるLAのデュオがドルフィン・ハイパースペースだ。サンダーキャットやルイス・コールの系譜に連なる才能、その最新作をご堪能あれ。
私たち、いろんなドラマーと一緒にやってるでしょ。ルイス・コールとか、ジャスティン・ブラウンとか、ロニー・カスピとか。でも、じつは一度もリハーサルしたことないんだよね。(ニコール)
■サウンドのなかには、機械が誤作動するような滑稽さと人間の手触りが奇妙に混ざり合っています。デジタル機材と「笑い」との関係性についてはどう思いますか?
L:これもすごくいい質問だね。僕たちがかなり意識的にやっている手法のひとつが、「本物とフェイクの混ぜ方」なんだよね。ここではあえて電子楽器のことを「フェイク」と言わせてもらうけど。たとえば、電子ドラムと生ドラムを重ねたりとか。あとはニコールのサックスも、実際に吹いている音に、いわゆる「偽物のサックス」を重ねてることがよくある。そういう意味で、音楽のなかにすでに組み込まれてるんだと思う。このちょっと滑稽な二重性というか。たとえば今回のアルバムには、世界最高峰のドラマーのひとりであるルイス・コールが参加してるんだけど、その演奏と、僕がゴミ箱で見つけたカシオのキーボードに入ってたドラムマシンが一緒に鳴ってたりする(笑)。そういうことがアルバムのあちこちで起きていて、すごくハイファイなものとローファイなものが同時に存在している感じが好きなんだよね。すごく美しいし、確かにちょっとおかしみもあると思う。
通訳:なるほど。いつも聴きながら、どこまでがデジタルでどこからが生なのかを考えちゃうんですよね。それも楽しさのひとつだと思います。
L:まさにそうだね。
N:私も、いままさにそれを言おうとしてた。何が起きてるのかを探ること自体が、ユーモアの一部になってる気がする。これって本物なの? それともフェイク? っていうところで、結構いろんな人をいい意味でだませると思う(笑)。
通訳:そういう意味でも、実際のライヴがどんなふうになるのかすごく楽しみです。
■ドルフィン・ハイパースペースの音楽には即興による奔放さと秩序が同居しています。その背景にあるコンポジションのルールや、音楽で遊ぶための手法について教えてください。
N:私たちの曲って、基本的な骨組みはけっこうシンプルで、メロディがあって、ブリッジとかBセクションがあって、あとはソロのパートがある、みたいな感じ。で、実際に「起きること」としてわかっているのは、だいたいそこまで。そういうパーツを組み合わせて曲にして、そのフォルムをベースにライヴでも演奏するんだけど、その間に起きることはかなり自由で、解釈も変えられるし、毎回違ってくる。
L:そうだね。ステージに上がる前に、コンパクトな構成はちゃんと作ってあるんだけど、その限られた時間のなかで即興として「物語をどう作るか」っていうのが課題になる。だから構成自体には無駄な余白がほとんどなくて、その分、その瞬間ごとの判断がすごく重要になってくる。限られた時間のなかで、どうにかしていいところにたどり着く、みたいな感覚かな。
N:あと、トリビアなんだけど、私たち、いろんなドラマーと一緒にやってるでしょ。ルイス・コールとか、ジャスティン・ブラウンとか、ロニー・カスピとか。でも、じつは一度もリハーサルしたことないんだよね。
通訳:しないんですか?
N:うん。自分で準備してきてもらって、そのまま自由にやってもらうの。その人の個性をそのまま出してほしいから、こっちから細かく指示する必要はないと思ってる。
L:何も指示は出さないね。
N:何も出さない。
N:そのほうが毎回違って面白いし。ちょっと変わったやり方だよね(笑)。でも、うまくいってる。
■笑いとユーモアのセンスの源はなんでしょう? 音楽以外にも本や映画、オモチャ、コミックやアニメ、動物や魚、食べ物など。
L:いいね、この質問。ニコールと僕はけっこう趣味は違うんだけど、ひとつ面白いポイントとして言えるのは、同じ時代のテレビを観て育ったっていうのがあって、すごく好きだったのが『アドベンチャー・タイム』なんだよね。で、じつは最近、その監督のために音楽を書く機会があったんだ。監督はペンドルトン・ウォードっていう人で、その人の新作が最近Adult Swim で放送されていて、僕たちの音楽が番組で使われてるんだよ。もともとは、L.A.で僕たちのライヴを観に来てくれて、そのあと Bandcamp で僕たちを見つけてメールをくれて、それがきっかけで実現したんだ。だから、自分たちに影響を与えてくれたものに関われたっていう意味でも、ちょっと特別な出来事だった。あとは僕は『ポケモン』とか任天堂のゲームが大好きで、そういうものからの影響も大きいかな。ニコールとも『マリオカート』はよくやるよね。
N:『マリオカート』、楽しいよね。ユーモアについては……どうだろう。小さい頃にお母さんと一緒にすごくコメディ映画を観てたのが大きいかも。ウィル・フェレルが大好きで(笑)。ほんとに大好きなの。
通訳:いいですよね、彼。
N:動物に関しては、宮崎駿の映画がすごく好き。ああいう、かわいい動物の感覚は、そこから来てる気がする。あとはインターネットのユーモアもけっこう影響してると思う。
動物に関しては、宮崎駿の映画がすごく好き。ああいう、かわいい動物の感覚は、そこから来てる気がする。(ニコール)
■あなたたちの音楽にはチップチューンの要素を感じますが、日本のゲームからの影響はありますか? ローガンは『マリオカート』が好きだとおっしゃっていましたが、他にもあれば教えてください。
L:間違いなく影響はあると思う。ああいう音にはかなり影響を受けてるね。ただ、どっちかというといまというより、子どもの頃の体験のほうが大きいかな。最初に遊んだゲームボーイの音楽が、いまでも頭のどこかに残ってる感じがあるんだよね。ちょっと面白いんだけど、このバンドに限らず、他のプロジェクトでも「ゲーム音楽っぽい」ってよく言われるんだ。でもそれって意図してやってるわけじゃなくて。自分にとっては、ああいう形で表現するのがすごく自然なんだと思う。
■LAのシーンについて。どんなアーティストと交流がありますか? 刺激や影響を受けているLAのアーティストについても教えてください。
N:ほんとにありがたいことに、自分たちにとってのヒーローみたいな人たちと一緒に演奏する機会があって。ルイス・コールとか。ノウワーはすごく大きなインスピレーションだし、サンダーキャットもそう。あとドミ&JD・ベックもそうだし、そのあたりのシーンの人たちからはかなり影響を受けてると思う。ジェイコブ・マンも大好きだし。
L:そうだね。あと、サンダーキャットが僕たちのライヴに何度か来てくれたこともあって、それは本当に光栄だった。自分はベーシストだから、なおさら特別な経験だったね。それって、彼のツアー・ドラマーでもあるジャスティン・ブラウンと一緒にやってることとも関係してると思う。ジャスティンも僕たちにとってすごく大きな存在で、本当に素晴らしいドラマーだし、いろんな重要なプロジェクトに関わってきてる人なんだ。L.A.に住んでるしね。個人的には、デイヴィッド・ビニーっていう、自分にとってメンターみたいな存在のミュージシャンにもすごく影響を受けてる。彼もロサンゼルスにいて、本当に素晴らしいプレイヤーなんだ。シーン全体で言えば、若い世代でもすごいことをやってる人が本当にたくさんいて……たとえばダコタ とか。ダコタの音楽はすごく好きだね。あと……
N:バッド・スナックスとか?
L:そうそう、バッド・スナックス。プロデューサーでもあるアーティストで、今回のアルバムにも参加してくれてる。それと、フレシア・ベルマーっていうアーティストもすごく好きだね。演奏も音楽も素晴らしいし、プロダクションの面でも面白いことをやってるベーシストなんだ。
■新作アルバム『ECHOLOCATION』にまつわるエピソードがあれば教えてください。ツアーやライヴ、スタジオで起こった印象的な出来事は?
L:インストゥルメンタルの音楽って、すごく抽象的な物語を語れると思うんだよね。このアルバムもかなり抽象的なストーリーなんだけど、最初の “Vacation” からはじまって、まるで完璧な天気のビーチで目を覚ますようなイメージなんだ。今日はきっと最高の一日になる、みたいな。そこからだんだん、その日に起こるいろんな出来事に巻き込まれていく感じで、波がざわつき始めたり、天気が崩れたり戻ったり、ちょっとした混乱が起きたりしていく。でもアルバムの最後、“Memories of the Deep Blue Sea” にたどり着く頃には、また静けさを取り戻している。だから全体としては、何か問題に直面して、それを乗り越えていく「英雄の旅路」みたいな古典的な物語構造になっているんだけど、それをドルフィン的な世界観でやっている、という感じかな。
N:それに “Kyoto” っていうシングルもあって、これは去年の日本旅行からインスパイアされた曲。日本に行くのがすごく好きで、去年も今年もプライベートで行ってるくらい。私たちにとっては本当に大好きな場所で、日本のカルチャーとか音楽、アート、アニメーションからもすごく影響を受けてる。それもこのアルバムの大きな要素になってると思う。それに今回、〈P-Vine〉と一緒に日本盤をリリースできたのもすごく嬉しい。私たちにとって特別なことなの。
通訳:美意識的にもすごくキッチュでポップですよね。日本人にすごく響くと思います。かわいい文化というか。
N:そうだね、もしかしたらアメリカよりも日本のほうが、この感じを理解してくれるかもしれない(笑)。
■バンドの名称にある「DOLPHIN」や「HYPERSPACE」という言葉には、どんなイメージを託していますか?
N:私たちがやってることをすごくよく表してる言葉だと思う。まず「ドルフィン」は、かわいい動物っていう要素があって、「ハイパースペース」はもっとクレイジーで、別次元みたいなイメージ。で、そのふたつが合わさってる。かわいさと、ちょっとぶっ飛んだ感じ。その両方をくっつけたものが、私たちっていう感じかな(笑)。
L:イルカって本当にすごい生き物で、ものすごく知能が高いし、あまりちゃんと考えたことはなかったけど、もし楽器を持てたとしたら、ジャズを演奏できるんじゃないかって思うんだよね。それくらい知的で、スキルもあって、動きも速いから。だから、なんていうか……自分たちが目指してるものの、いい例えになってる気がする。
イルカって本当にすごい生き物で、ものすごく知能が高いし、あまりちゃんと考えたことはなかったけど、もし楽器を持てたとしたら、ジャズを演奏できるんじゃないかって思うんだよね。(ローガン)
■アルバム・タイトルの『ECHOLOCATION』は、イルカが超音波で周囲の状況を知る能力ですよね。そもそもなぜイルカ?
L:「エコーロケーション」っていう言葉自体が、僕たちにとってすごく面白いテーマだったんだよね。まず「エコー」っていうのは、それだけで昔から使われてきたオーディオ・エフェクトでもあるし、自然のなかでも普通に存在している音(こだま・やまびこなど)でもある。それで調べてみたら、エコーロケーションって「生体ソナー(=biological sonar)」の一種だって説明されていて、それがすごくしっくりきたんだ。自分にとって音楽も似たようなものに感じていて、身体を使って楽器を演奏して、何かを外に向けて発信すると、それに対する反応がオーディエンスから返ってくる。そのやり取りが、どこかエコーロケーションみたいだなって思えて。だからすごく意味のある言葉に感じたんだ。
N:完璧に答えたね。あと、アルバム・タイトルとしては、ここ最近ずっと水っぽいテーマを続けていこうとしていて。“What Is My Porpoise?(わたしの目的ってなに?)” っていう作品もあったし、そこからそういう流れができてきた感じ。それに「エコー」っていう言葉自体もぴったりで、去年ロサンゼルスの The Echo っていう会場でライヴをやっていて、今年の5月にもそこでリリース公演をやる予定だから、そういう意味でもすごくしっくりきたタイトルなんだ。
■楽曲のタイトルからはいろんな物語を想像します。インストゥルメンタルなので歌詞はないけど、あなたたちのなかではどんなストーリーがあるのでしょうか? また、ストーリーはどんなふうに思いつくのですか?
L:さっき話したみたいに、その場の思いつきから生まれてくることが多いかな。それをあまり疑わずに、そのままやりきるようにしてる。でもひとつ具体的に思い浮かぶのは、“Big Fishy” っていう曲。このタイトルには自分のなかでいくつか意味があるんだ。ひとつは、みんな知ってると思うけど、イルカってじつは魚じゃなくて哺乳類なんだよね。でも、もしそれを知らなかったら、ただの「大きな魚 (big fishy)」だと思うはず(笑)。ちょっとバカっぽいけど、それがひとつの意味。もうひとつは、僕たちにとってイルカってすごく大きな生き物に感じるけど、広い海のなかではきっとすごく小さな存在なんじゃないかっていう感覚。そういう意味も含まれてる。
N:え、そんなふうに思ってたんだ(笑)。初めて聞いた。どれもすごくいいね!
■あなたたちの音楽を聴いていたら、ある人のことを思い出しました。日本には「さかなクン」というユニークなタレントがいるんです。魚類学者で大学の客員教授でイラストレーター。 テレビ番組で子供たちに大人気です。さかなクンは “コイシテイルカ” というイルカの歌を発表しています(https://www.youtube.com/watch?v=_clLCiPhy5k)。彼はサックス奏者でもあって、アルトサックスとバスサックス、バスクラリネットを吹きます。
L:ちょっと待って、その人のことメモってる(笑)。
通訳:このYouTubeリンクを、チャットで送りますね。
N:ぜひ! その人のこと知りたい。
通訳:いまZoomのチャットに送りました。これがイルカの曲です。ぜひチェックしてみてください。こちらからは以上です。今日は本当にありがとうございました。お話できてすごく楽しかったです。
L:ひとつお願いしてもいいかな。質問者さんが最後にメッセージを残してくれていたから、こちらからも何か伝えることってできるかな?
通訳:もちろんです。きっと喜ぶと思います。
L:じゃあ……まずは、細部までしっかり読み込んでくれて、本当に素晴らしい質問をしてくれたことに感謝したいです。こういうテーマについて本を書いてきた方に答えるというのは、自分たちにとっても特別な意味があります。今回のインタヴューは本当に印象に残るものでした。ありがとうございます。
N:うん、本当に。どの質問もすごく丁寧で、ちゃんと私たちのやっていることやメッセージを受け取ってくれている感じがして、とても嬉しかった。
通訳:きっと喜ぶと思います。ありがとうございます。日本でのライヴも本当に楽しみにしていますね!
L&N:私たちもすごく楽しみ。ありがとう! またねー!
質問・序文:春日正信 Masanobu Kasuga(2026年5月01日)
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春日正信/Masanobu Kasuga