Home > Columns > Opinions > 君もこの革命に参加しないか?- ――ウォール街のデモをめぐって、グレッグ・フォックスに訊く
グレッグ・フォックス......日本ではまだ名前が知られていないかもしれないが、ブルックリンの音楽シーンにおけるキーパーソンのひとりだ。元リタジー、ダン・ディーコン・アンサンブル、ティース・マウンテン、ボアドラム、最近ではガーディアン・エイリアン、GDFX、マン・フォーエヴァー、llllなどなど、その活動領域も幅広い。ブルックリンの音楽シーンにおいて、かなりの重要な位置にいることは間違いない。つねに複数のバンドに参加しているし、ショーもオーガナイズしている。今回のウォール街における経済格差抗議運動デモ(占拠運動)でも真っ先に動いたいのがグレッグ・フォックスだ。
私が彼を知ったのは2年ほど前のことだ。ダン・ディーコン・アンサンブルをブシュウィックのサイレント・バーンという会場に見に行ったときだった。彼はドラムを叩いていた。私はその超人的なドラム・テクニックに、ただ圧倒されるばかりだった。
彼はシェア・スタジアムBKというDIY会場のブッキングもしていて、私も参加させてもらったり、バンドを見に行ったりしていた。多くのミュージシャンから彼の評判は聞いていた。いつかじっくり話してみたいと思っていた。
彼は素晴らしいミュージシャンであると同時に、凄腕のビジネスマンでもある。関わるバンドはどんどん大きくなっていくし、そして次から次へといろんなバンドに参加している。
9月17日、「Occupy Wall Street(ウォール街を占拠しよう)」を合い言葉に、若者たちによるウォール街のデモがはじまったときだった。グレッグからまわりのミュージシャンに呼びかける手紙が回って来た。彼がどのように感じていて、いま自分たちが何をすべきで何ができるか。その話題は避けて通れなかった。それぞれがそのために何かしなければと考えはじめた。そして私は、この機会に彼に訊いてみることにした。「ウォール街デモと音楽に関し訊きたいことがあるんだけど」と尋ねるとツアー中にも関わらず快く、「何でも訊いていいよ」とすぐに返事がかえってきた。
ウォール街のデモは、いま起こっている、国際的な革命を表明していると思う。この世界にいる人はみんなひとつの地球を共有していて、みんな共有物のなかのひとつで、みんな本当の意味でひとつであるということにいままで以上に気づかされていると思う。
■ele-kingのインタヴューにお答えて頂いてありがとうございます。音楽が三度のご飯よりも大好きな人たちが集まる音楽ファンのためのサイトです。まずは自己紹介からお願いします。
グレッグ:こんにちは、この機会をどうもありがとう。僕の名前はグレッグ・フォックス。ニューヨーク・シティ生まれ、ニューヨーク育ちでいまはニューヨークのクイーンズに住んでる。僕のメインの音楽フォーカスはドラムだけど、他の楽器もたくさん演奏しるよ。エレクトロ・ミュージックも作っているんだ。いま関わっているプロジェクトは、ソロのGDFX、ガーディアン・エイリアン、マン・フォーエバー、IIII (w/ヒシャム・バルーチャ、ライアン・ソウヤー、ロブ・ロウ、ベン・ヴィダ)。最近DJドッグ・ディックの新しいアルバムのドラムをレコーディングした。これから一緒にツアーにもいくみたいだね。
別のプロジェクトも進んでいて、いまはまだあまり話せないんだけど、かなり楽しみだよ。過去には、ダン・ディーコン・アンサンブル、ティース・マウンティン、リタジー、ボアダムスのボアドラムなど、いろんなバンドでプレイしていたよ。いまはガーディアン・エイリアンというバンドで、同じブルックリン出身の友だちバンドのドリーブスとツアー中。たったいまはアラバマ州、バーミンガムのボトルツリーという会場のトレイラーの前に座っている。そろそろ最初のバンドがスタートする頃じゃないかな。
■ウォール街のデモについて訊きたくて、あなたにインタヴューを申し込みました。ウォール街デモの動きに関するプロジェクトを進行中だとか? それについてのあなたからの手紙が回ってきたのですが、この辺について詳しく説明してもらえますか?
グレッグ:ウォール街のデモがはじまったとき、僕はツアー中だった。とはいえ僕は『アドバスターズ』という雑誌の定期購読者だから、それが起こることは事前に知っていたんだ。彼らはその1ヶ月前からそのことについてよく話していたからね。ツアーから家に帰ってきて、ウォール街デモの中心地となった公園で過ごしていた友だちに会った。で、一緒に見に行ったら、たぶん、公園に着いて5分も経たないうちにキッチンで働いて、食事をサーブしている自分がいたんだよ。その週はその公園で食事をサーブしてほとんどを過ごした。
その後、ショート・ツアーがはじまり、そこを出てツアーで多くの時間を過ごさなければならなくなった。しかし、そこで働いているほかの友だちをチェックして、できるだけオーガナイズできるようにしたんだ。時間があるときはグループ・ミーティングにも参加した。ウォール街デモのキッチン部隊にはツイッター・アカウントがある。もし誰かフォローしたい人がいれば、@OWS_Kitchen だよ。
それから僕は、ニュー・パーティ・システムという、音楽に関連したワーキング・グループをディビット・ファーストとバーナルド・ガンと一緒にキュレートしている。ニュー・パーティ・システムはふたつのミッションがあって、1.ウォール街のデモの動きに対してベネフィット・ショーをオーガナイズしてまだこの動きを意識していない人びとに、何らかの形で加われるように気づかせる。2.ニューヨークのミュージシャンによる、オリジナル・レコーディングをシリーズでリリースして、ダブルで、この動きのためのお金をレイズし、同じ考えを持ったミュージシャンをあつめて、コラボレーションをすることでいわゆる「大きな波」を持ってくる。そうすれば、僕たちひとりひとりがやるよりも、もっとたくさんの人に伝えることができるし、アーティストが一緒に創造すると集団としてもさらに重みがでる。大きな波になって、もっとたくさんの人に伝わると思うんだ。最近、ハード・ニップスのエミとウォール街のデモについてよい話し合いをしたんだけど、彼女が使う「大きな波」という暗喩がとても好きだった。
■なぜこのプロジェクトをはじめようと思ったのですか? また、このデモに対してはどう思いますか? まだ日本ではこの動きに関してあまり知らない人もいるので、詳しく説明お願いします。
グレッグ:いまはこの動きについてはっきり「何」とは言えないけど、個人的にこのウォール街のデモは、いま起こっている、国際的な革命を表明していると思う。この世界にいる人はみんなひとつの地球を共有していて、みんな共有物のなかのひとつで、みんな本当の意味でひとつであるということにいままで以上に気づかされていると思う。
インターネットは僕らがひとつの大きな脳であるということを潜在的に気づかせてくれると思うし、僕たちは一緒になって、世界を自分たちのしたいようにすることができる。テクノロジーは地球がよりユートピアな状態にあることを気付かせるために存在する。僕らを阻止するただひとつのものは国際的な貨幣市場システムなんだ。ウォール街の動きは避けられない反応で、ドル社会の世界経済で利益を得て、支配力を増やす人たちの権力への巨大な伝達だと思う。彼らは人びとへの興味の代わりに、利益のために、政治的、経済的決定を指示する。もし、権力構造や経済オリエンテーションの改革がすぐにおこなわれなかったら、自分たちで惑星を完璧に破壊することになる。
BPの流出から福島の経済的危機、終わりのない戦争......たくさんの国際的な危機が発生している。それらは莫大で、汚れた権力機構を維持する利益のために動かされている。とくにアメリカでは、僕たちは長いあいだ自分が実際に見たものではなく、恐ろしいメディア支配下で見させられ、そして生きている。僕たちは戦争、暴力のイメージで充満させられている。メディアは僕たちを初心者向けに易しくさせ存続させるたの宣伝機関のように見える。そのメッセージは、基本的に「批判的に考えるな。口を閉じろ。役立たない物を買い続けなさい」と言っている。このメッセージは、ポップ・ミュージック、宣伝、ラジオなどの新しいメディアにも届いている。だから今回のウォール街の動きは、こうした権力や金、メディア機関に対する脅威だよ。警察が抗議者を殴りつけ、野営地を取り壊し、市民の市民権を破っている。そしてこれが明らかなのに、彼らの行動はニュース番組からは削除される。
だが、僕たちに対する暴力が酷くなれば酷くなるほど、この動きのための理解や同情は大きくなる。すべてのインターネットをシャットダウンしなければこれらの情報を取り入れることはできない。むしろ逆に、権力機構がどれだけ腐っているかを知ることになる。僕は、ウォール街の動きを赤ちゃんが床でハイハイしたり乗り物での年月を過ごしたあとに歩き方を習うような、その運命を目覚めさせる人間性の一部と見ている。僕たちはひとつで、僕たちの集合体は「変える」力があると気付いている。もう避けられないと思う。
アメリカの60年代を思い返したとき、音楽と政治的な能動主義は一心同体だった。僕たちはウォール街デモの動きを通して、政治と音楽との新しい関係性をいま見つけていると信じている。政治的ステートメントに参加することはアーティストの責任であると強く思う。直接的な行動か、発言という形なのか、もしくは現状のままいまのラインに沿って働くのかに関わらずね。
■10月23日に、あなたはブルックリンでウォール街のデモに関したベネフィット・ショーを開きましたが、どんなバンドが参加して、どのような反応があったのでしょうか?
グレッグ:10月23日の日曜日に最初のニュー・パーティ・システムのベネフィット・ショーを開催した。ラインナップは、マウンテンというバンドのコーエン・ホルトキャンプ、オネイダのキッドているミリオンのドラム・アンサンブルで、僕もときどきプレイする、マン・フォーエヴァー、ノート・キラーズ、そして僕のバンド、ガーディアン・エイリアン。たくさんの人、とくにウォール街のデモの参加者がたくさん来てくれてうまくいったと思う。毎日、ウォール街デモで働いている彼らがリラックスして音楽を楽しんでいるのを見れて、とても嬉しかった。少ないけど500ドルをレイズしたよ。次は12月上旬に予定しているけど、少なくてもこの2倍の成功があると期待している。
■また、他のミュージシャンたちとこの動きに関連するレコーディングもしているとか。それはすでに終わっているのでしょうか? また、リリースするとすれば、いつ頃になるのでしょうか。
グレッグ:ニュー・パーティ・システムは2日間コリン・マーストンのスタジオで過ごした。彼は素晴らしいプロデューサー、エンジニアという以外に、クラリス(krallice)、ダイスリズミア(dysrhythmia)、ゴーガッツ(gorguts)などのバンドでもプレイしている。コリンは、このプロジェクトのために2日間エンジニアの時間を寄付してくれた。
レコーディングに参加したミュージシャンはディヴィッド・ファースト、キッド・ミリオン、バーナルド・ガン、キップ・マローン、そして僕。僕たちは良い素材をたくさんレコーディングしたし、いますべてを通してみて、最初のニュー・パーティ・システムのレコードがどういうものになるか決めているところだ。僕がツアーに出ているので、ディヴィットと僕はすべてを離れながら、コーディネートしている。
たぶん、最初のレコードは2012年の初期にはリリースできると思う。これからもっとたくさんのゲスト・ミュージシャンとレコーディングしていくつもりだよ。このプロジェクトをどのように発展させるか、たしかではないけれど、僕はとても楽しみにしている。このウォール街デモの動きの、僕たちの感情的な投資に取り組むために、集合体として他のミュージシャンやアーティストと結合するのは素晴らしいよね。
■デモの場所で他のミュージシャンが演奏しているのを見たことはありますか? 音楽はこのデモを救うと思いますか?
グレッグ:たくさんのミュージシャンが公園でプレイしているのを見ている。ウォール街デモそれ自身が「救済」を必要しているとは思わないけれど、音楽はこの動きの役割りを果たしていると思うし、すでにある程度までいっている。アメリカの60年代を思い返したとき、音楽と政治的な能動主義は一心同体だった。僕たちはウォール街デモの動きを通して、政治と音楽との新しい関係性をいま見つけていると信じている。政治的ステートメントに参加することはアーティストの責任であると強く思う。直接的な行動か、あるいはメディアを通じての発言という形なのか、もしくは現状のままいまのラインに沿って働くのかに関わらずね。
アーティストやミュージシャンは、話さなくても伝えることができるし、そうする際に言葉ではできない多くの真実を話すことができる。この意味を通して、僕たちは人びとに気づかせ、彼ら自身を活性化させるのを助けるんだ。僕たちはウォール街デモの動きに対して自分からはなかなか関係を見出せない人びとに向けてドアを開くことができる。人びとはまどろみから揺れ起きて、直面している世界情勢を知る。すべての人びとは地球にいる人間のひとつであることを悟るべきだ。
■インディ・ミュージックをやっているあなたと同じぐらいの年の人たちは、この動きに対して「気が付いている」と思いますか? 他のミュージシャンであなたと同じような活動をしている人を知っていますか?
グレッグ:さざまなな形でウォール街デモの動きに関わっているたくさんのミュージシャンやアーティストを知っている。たくさんの音楽仲間にこれからのベネフィットショーの参加を賛同してもらえたし、基本的に僕がいままで話してきたミュージシャンはみんな情熱的にそのいち部にいる。
とはいえ、とくに国際政策やその関係に関して公に取り組むこと、正直で、純粋で、情緒的なこうした姿勢を示すことを嫌う人がいるようにも思える。人びとは「おかしなこと」をためらうべきじゃない。むしろ僕からすれば、このウォール街デモの動きに対して、何らかの方法で、少なくとも何らかのサポートを示すことのないアーティストやミュージシャンが多いことにも驚いている。
でも、まだ始まったばかりだからね。これからもっと増えると思う。いずれは、いま僕らが直面している問題をもっと多くの人が悟ってくれると思う。
■ありがとう。最後に、あなた自身のことについて訊きます。音楽をはじめたきっかけは何だったのでしょう? 音楽をはじめるにあたって音楽的ヒーローはいたのでしょうか?
グレッグ:僕はニューヨーク経由の地球出身。マンハッタンで生まれ、両親の家を出るときにブルックリンに引越し、いまはクイーンズに住んでる。僕は基本的に人生をずっとそこで暮らしている。
僕がなぜ音楽をプレイするか? 僕の祖父はドラムをプレイしていて、いつもプレイしたいと思っていた。いつも音楽をプレイしたいという衝動があったし、これって素晴らしいリリースだよね。音楽は長いあいだ僕のパスに沿ったガイドで、非常に価値があった。続けているあいだには、いちどに起こる出来事や覚えておくべきものなどがたくさんあったし、僕が想像もしなかった、さまざまな場所へ連れていってもくれた。いまも正しいことをしていると思い続けている。演奏して、レコーディングをして、ツアーを続けている。僕は好きだから音楽をプレイしている。ジョセフ・キャンベルの言葉に「好きなことを追い続けなさい」というのがある。
音楽的ヒーローでいますぐに頭に浮かんだのは、ジョージ・クリントン、フランク・ザッパ、キャプテン・ビーフハート、エルヴィン・ジョーンズ、ボアダムス、ニード・ニュー・ボディ、ドクター・ティース・アンド・ザ・エレクトリック・メイヘム、オーケストル・ポリー・リズモ、バットホール・サーファーズ、ロランド・カーク、ライトニング・ボルトかな。
■ブルックリンのオススメバンドを紹介してください。
グレッグ:ドリーブス、PCワーシップ、CSCファンク・バンド、ハブル、トーク・ノーマル、ボウ・リボン、アーメン・デューン、クラウド・ビカム・ユア・ハンド......最近ダスティン・ウォングがバルチモアからブルックリンに引越して来てプレイを見たんだけど、とてもかっこ良いよ。ソフト・サークル、サイティングス、マン・フォーエヴァーもいいね。
■日本には行ったことがありますか? 日本の文化に対して、どのような印象を持っているのでしょうか?
グレッグ:もし僕がお金のことを気にしないで世界中のどこでも行って音楽をプレイできるとしたら絶対日本に行きたい。行ったことはないけど、いつも行きたいと思っていた。古代の日本建築にとても魅了されたし、クロサワは僕のいちばん好きな映画監督だよ。日本のサイケデリック・ミュージックも大好きだし、そもそも僕は任天堂をプレイして育ったんだ。それと僕が思う日本食って、きっと現地では違うのかもしれないけど、なぜか日本では食事も合うと思うんだ。もう我慢できないくらい日本に行ってみたいね。日本で音楽をプレイするのは僕が人生のなかでやってみたいことのひとつ。いまのところプランはないけどきっと遠くはないと思うんだ。
■日本のバンドで好きなバンドはいますか?
グレッグ:ボアダムス、アシッド・マザー・テンプル(とくにマコト・カワバタのソロ)、DMBQ、ボリス、メルツバウ、それと『ゼルダの伝説』の作曲者のコウジ・コンドウ。あふりらんぽとにせんねんもんだいも好きだよ。
※9月17日にウォール街で数百人の若者からはじまった経済格差を訴えるデモは、翌週にはさらに全米から若者が集まり、100人近い逮捕者を出すほどの規模となった。グレッグ・フォックスが取材のなかで述べているように、もともとはカナダのアナーキスト雑誌『ADBUSTERS』の呼びかけではじまっているが、集まったデモの主体が20代の「沈黙の世代」と呼ばれる若者層だったことも話題となっている。その後、シカゴ、サンフランシスコ、フィラデルフィアなど全米の多くの都市でもデモが繰り広げられている。また、2ヶ月後の現在もこの運動は拡大している。