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Laurel Halo

Dark AmbientSoundtrack

Laurel Halo

Midnight Zone (Original Soundtrack to the Film by Julian Charrière)

Awe

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デンシノオト Apr 15,2026 UP

 ロサンゼルスを拠点に活動する音楽家ローレル・ヘイローの最新作『Midnight Zone (Original Soundtrack to the Film by Julian Charrière)』は、やわらかく広がる音の質感と、重なり合いながら持続する音の層によって、聴き手の意識をより深い部分へと導いてくれるアルバムだ。リリースは自身が主宰するレーベル〈Awe〉から。
 本作はスイス出身のアーティスト、ジュリアン・シャリエールによる映像作品『Midnight Zone』に付随するサウンドトラックである。シャリエールは、地質学的時間や環境変動、さらには人間の知覚の限界を主題とする作家だ。その映像作品『Midnight Zone』においても「深海」という極端な条件下の空間が参照される。イメージと音響は相互補完的に配置されるが、ヘイローの音は説明的な役割を担うことない。音響/音楽が自律しているのだ。
 本作に至る過程として、ヘイローのアンビエントおよびドローンへの志向の変化を整理する必要がある。2018年に〈Latency〉から発表された『Raw Silk Uncut Wood』、2020年に〈The Vinyl Factory〉からリリースされた『Possessed (Soundtrack To The Film By Metahaven & Rob Schröder)』は、いずれも映像やインスタレーションと連動して制作された作品だが、これらの作品では、持続音の重層化や時間の引き延ばしを通じて、音を出来事ではなく空間として提示する姿勢が明確に示されていた。
 その延長線上に位置する『Atlas』は、ヘイローの重要作である。『Atlas』は2023年に自身のレーベル〈Awe〉から発表された。パリのINA-GRMスタジオを含む複数都市での制作を経て完成された『Atlas』は、ピアノを軸にサックスや弦、声といったアコースティック要素と電子音響を精緻に接続したドローン作品だ。リズムや旋律は後退し、やわらかな音色の持続音が緩やかに配置されることで、流動的で多層的な音響空間が形成されていた。さらに、ベンディク・ギスケルーシー・レイルトンコービー・セイらの参加により、有機的な揺らぎと即興性が全体に浸透している。その結果、『Atlas』はジャンルを横断する「音の地図」として機能する作品となった。その後、ヘイローは〈Portraits GRM〉からEP『Octavia』(2024)を発表している。本作はジェシカ・エコマネとのスプリットとして制作された。ここでも『Atlas』で確立された持続音内部で生じる微細な「揺らぎ」と「空間性」は継承されていた。

 こうした流れのなかで完成したのがこの『Midnight Zone (Original Soundtrack to the Film by Julian Charrière)』である。『Atlas』が開放的な空間の広がりを志向していたのに対し、本作では音はより圧縮され、密度と圧力を伴って迫る。霧状の音が空間を満たし、重層的な持続音が深海の水圧のように作用する。ここでは微細な変化以上に、音が環境へと浸透していくプロセスそのものが重視されているように思えた。
 音楽的には、本作『Midnight Zone (Original Soundtrack to the Film by Julian Charrière)』は、現代音楽的要素とダーク・アンビエントの融合として位置づけられよう。すなわち、クラシック音楽を基盤にしながら新たな音の表現を追求する態度と、暗く没入的な空間性を持つ環境音楽が結びついたものだ。エリアーヌ・ラディーグやポーリン・オリヴェロスに連なる持続音楽の系譜を踏まえつつ、より閉鎖的で陰影に富む音響が展開される。同時に、ダーク・アンビエントの没入的空間性を取り込みながらも、それをジャンルの枠内に収めることなく、音響そのものの存在様式へと昇華している。
 リズムの面でも変化は顕著である。これまでの作品で探求されてきた拍の希薄な時間構造はさらに推し進められ、本作では拍はほぼ消失している。時間は均質に流れるのではなく、揺らぎや断続として知覚される。この点ではカリ・マローンに近い時間感覚も想起されるが、ヘイローの音響はより環境的であり、聴き手の意識へと静かに浸透していく。また、本作を通底する要素として「青」の感覚が挙げられる。この傾向は『Atlas』にも見られ、夕暮れの青、すなわち昼と夜のあいだの移行的時間が音として表現されていた。一方、『Midnight Zone (Original Soundtrack to the Film by Julian Charrière)』では、その青はさらに深く沈み込み、深海の青、すなわち光の届かない領域の色として提示される。夕暮れから深海へと至る青の連続性は、近年の作品を貫く重要な軸である。

 本アルバムには全9曲が収録されている。冒頭の11分に及ぶ “Sunlight Zone” から、サウンドの深海へと沈み込むようなリスニング体験が始まる。音の細やかな粒子、硬質な持続音、微かなノイズが相互に浸透するように鳴り続ける。この曲によってアルバムの構造はほぼ決定づけられており、2曲目 “Clarion - Clipperton Zone” 以降は、音の色彩(トーン)を変化させながらも、見事な音響空間を成立させていく。いわば、音響のトーン変化による電子音響/アンビエントの交響曲とでも言うべき、ダイナミックな展開を遂げていくのだ。
 さらに重要なのは、深く沈み込むような8曲目 “Hadal” が終局を迎えたあと、最終曲 “Sunlight Zone (Strings Version)” において、曲名どおり冒頭の “Sunlight Zone” の弦楽ヴァージョンが展開される点である。まるでエリアーヌ・ラディーグの近作を想起させる弦楽ドローンは、聴き手の聴覚の遠近感を変化させるような響きに満ちている。さらに弦楽ドローンに加え、硬質で煌めくような電子音の断続的な響きや、環境音にも聴こえるサウンドもじつに美しい。その音は壮大にして厳粛、厳粛にして開放的である。まるで深海から海面へと遡行し、現実世界へ帰還するかのような音像が立ち上がるのだ。本作はこの曲によって幕を閉じるが、全曲を聴き終えたとき、「耳」は未知の領域へと開かれているような感覚を覚えるだろう。それほどまでに見事なサウンドスケープが展開されている。

 『Midnight Zone (Original Soundtrack to the Film by Julian Charrière)』は、ヘイローのアンビエント系譜の音楽の流れを汲みつつ、聴き手を新たな知覚の領域へと導く作品なのだ。サウンドトラックでありながら独立した音響作品でもある。ヘイローのキャリアの中核を成す重要作であると同時に、現代音響芸術におけるひとつの指標としても位置づけられるだろう。

デンシノオト