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Nídia & Valentina

Afro MinimalismDowntempoKuduro

Nídia & Valentina

Estradas

Latency

野田努 Oct 07,2024 UP
E王

 ダンス・ミュージック界には複数の新鮮が風が吹いている。当然そのなかには、アフリカ系ポルトガル人のニディア、イタリア系イギリス人の前衛ドラマー、ヴァレンティーナ・マガレッティというふたりの女性によるアルバム『エストラダス』も含まれるのだった。
 ニディアからいこう。彼女は、エレキングでもお馴染みの、リスボンは〈Príncipe〉レーベルで活躍するビートメイカー。いっぽうマガレッティは、すでに多くの共演作を持つロンドン在住の打楽器奏者。古くはRaime、グレアム・ルイス(Wire)とのUUUULafawndah、〈Incus〉から〈On-U〉を横断するスティーヴ・ベレスフォードとのFrequency Disastersニコラス・ジャーとのライヴ向井進とのV/Zおよび最近はシャックルトンとの共作を出したばかりのHoly TonguemRaimeのメンバーとのMoin、近年ではBetter Cornersでのアンビエント作品も注目されているが、広く知られているソロ作品は、おそらくCafe Otoのレーベル〈Takuroku〉からリリースされた『A Queer Anthology of Drums』だろう。去る6月には来日し、彼女のドラミングのみでひとつの世界を作れてしまえることを証明したばかりだ。
 その打楽器による表現力は、本作『エストラダス』において、ニディアのエレクトロニクスと融合し、駆動力をもった多彩なグルーヴへと変換されている。ポルトガル語で「道」を意味するという『エストラダス』のアートワーク——岩石のあいだを走る道路にタイヤの跡が付いたこの写真、本作の冒険的かつドライヴする作風にじつによく合っている。太陽に晒され、暑く、乾いた道路のカーヴ、疾駆した車の痕跡……自分のなかにひきこもっている場合ではない。

 〈Príncipe〉が昨年、クドゥロ(アンゴラ起源のアフロとハウスの融合)のコンピレーションを出しているように、近年はバイレ・ファンキといい、ジャージー・クラブといい、チリのセックストランスといい、200BPM以上の超ハイテンポで踊るタンザニア産シンゲリといい、アマ・ピアノほど広範囲な流行はしていないかもしれないが、ディアスポリックなマイクロ・ジャンルがあちこちで息を吹き返している(そしてオンライン上ではクラッシュクラブにフォンクにジャンプと……このあたりはいつか松島君と話したい。ぼくはいま20代の背中を追いかけているのだ)。そんなわけで、ダンス・カルチャーは、昔ながらの世界もデジタル世界も活気に満ちているのだった。

 ここでいきなり予告です。年末号のエレキングでは「ミニマリズム」を特集しようと思っている。ミニマル・ミュージックとは、白人文化における50年代〜60年代の、クラシックの前衛のみで定義できるものではない。たとえば、その分水嶺的作品『In C』においてテリー・ライリーがサックスを、ジョン・ハッセルがトランペットを吹いていることにもヒントがあるだろう。「ミニマリズム」はアフリカ起源のじつに多くの音楽(戦前ブルースからファンクほか)にも通底している。アフロ・ミニマリズムと呼びうるそれは、ことエレクトロニック・ミュージックに関して言えば、アシッド・ハウス以降、さまざまなスタイルを生みながら発展し、クドゥロやファンキのような明らかにエクスペリメンタルなサウンドをIDMとは呼ばないシーンのなかで力強く継承されているし、拡散している。ローレル・ヘイローラファウンダサム・カイデルなど、これまで知性派の作品を出してきたフランスのレーベル〈Latency〉がかようにも溌剌とした、ポリリズミックなアフロ・ダンス・ミュージック・アルバムを出したことが嬉しい。

 生ドラムと打ち込みのビートとの組み合わせ自体が新しいわけではない。本作では、それぞれの曲でそれぞれ魅力的なリズムが生成されていく、まるで生き物のように、その有機的な感覚が格好いいのだ……というわけで、このレヴューを読みながらコニー・プランクとマニ・ノイマイヤーとメビウスの『ゼロ・セット』などと口走ってしまう古参方には、4曲目の “Mata” から聴くことをお薦めしたい。もちろん、フィールド・レコーディングによる妙な雑音から親指ピアノ、そして未来的なシンセサイザーに重たいベースが地を這う、冒頭の “Andiamo” (イタリア語で「さあ、行こう」)からでもいい。未来はたしかにトライバルだった。
 だが、表題曲になるとどうだろうか。おそらくこの曲は、ヒップホップ/R&Bからの影響が注がれたダウンテンポのフュージョン・サウンドを画策している。路上の砂埃を巻き込みながら、親指ピアノと打楽器、エレクトロニクスの鮮やかな調和。それから、ザ・スリッツがエレクトロックに発展していったらこんなサウンドになったに違いない、というのがミドルテンポの “Tutta la note” のような曲だ。
 そうは言っても “Rapido” を聴けば、このアルバムの使命を思い出す。そう、 ベースとドラムが醸し出す強力なうねり、すなわちダンスすること。ま、ぼくはひとり、心のなかでダンスです。

野田努