ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. interview with Black Country, New Road 脱退劇から一年、新生BCNRのドキュメント | ブラック・カントリー・ニュー・ロード (interviews)
  2. interview with Lankum トラッド・イン・プログレス | ──アイリッシュ・フォークの最前線に立つランクムの驚異の新作 (interviews)
  3. Optimo Music ──〈オプティモ〉からアナーコ・パンクのコンピが登場 (news)
  4. interview with Shuhei Kato (SADFRANK) これで伝わらなかったら嘘 | NOT WONKの加藤修平、日本語で歌うソロ・プロジェクトSADFRANKを始動 (interviews)
  5. Kassel Jaeger - Shifted In Dreams (review)
  6. Alva Noto ──アルヴァ・ノトの新作『太陽の子』は演劇作品のための音楽集 (news)
  7. 燻裕理 ──日本のアンダーグラウンド・ロックのリジェンドがソロ・アルバムを発表 (news)
  8. JULY TREE ──渋谷に音楽をテーマとした小さなギャラリーがオープン、第一回目は石田昌隆の写真展 (news)
  9. interview with Genevieve Artadi 〈ブレインフィーダー〉イチ押しのシンガー・ソングライター | ジェネヴィーヴ・アルターディ (interviews)
  10. Thomas Köner ──ポーターリックスの片割れによる名ダーク・アンビエント作がリイシュー (news)
  11. Pardans - Peak Happiness | パーダンス (review)
  12. Columns talking about Yves Tumor イヴ・トゥモアの魅力とは何か | Z世代のyukinoiseとarowが語り尽くす (columns)
  13. WE LOVE Hair Stylistics ──入院中の中原昌也を支援するコンピレーションがリリース、そうそうたる面子が集結 (news)
  14. Columns JPEGMAFIA『Veteran』の衝撃とは何だったのか (columns)
  15. interview with Sleaford Mods アップデートする、21世紀のモッズ | スリーフォード・モッズ(ジェイソン・ウィリアムソン)、インタヴュー (interviews)
  16. Todd Terje ──ノルウェーからニューディスコの立役者、トッド・テリエがやってくる (news)
  17. interview with Sleaford Mods 賢くて笑える、つまり最悪だけど最高 | スリーフォード・モッズ、インタヴュー (interviews)
  18. R.I.P. Wayne Shorter 追悼:ウェイン・ショーター (news)
  19. interview with Black Country, New Road すべては新曲、新生ブラック・カントリー・ニュー・ロード (interviews)
  20. The Caretaker - Everywhere At The End Of Time - Stage 6 (review)

Home >  Reviews >  Album Reviews > tofubeats- REFLECTION

tofubeats

HouseJ-Pop

tofubeats

REFLECTION

ワーナーミュージック・ジャパン

小林拓音   Jun 03,2022 UP

 新型コロナウイルスの急襲から2年以上が過ぎている。状況は国によって異なるけれども、以前わたしたちがぼんやりと思い描いていた将来像が一度キャンセルされたことは疑いない。心情面のみならず、実際に経済的な打撃をこうむり先のことが見通せなくなった者も少なくなかったはずだ。以前からあった「資本主義リアリズム」の概念を、パンデミックが加速させたともいえる。資本主義以外の社会を想像することが難しくなったというマーク・フィッシャーの考えが、より強度をもって人びとに実感されるようになった、と。
 今月末発売の紙版エレキング夏号ではフォーク特集を組んでいる。そこでインタヴューを掲載しているマリサ・アンダーソンの昨年のアルバム・タイトルは『Lost Futures』だった。共作者のウィリアム・タイラーが読んでいたフィッシャーの著作『わが人生の幽霊たち──うつ病、憑在論、失われた未来』からとられたものだ。タイラーがその語を用いたのは、たんに「クールなフレーズ」だと思ったからにすぎない。けれども作品の完成後、そのことばの文脈を再検討したくなったと、彼は『Foxy Digitalis』のインタヴューで語っている。特権のある連中が抱くペシミズムもあるから、と。たとえば「白人男性」が考える、失われた未来──でも「わたしたちは日常生活を送っていますよね?」とアンダーソンのほうもおなじ記事で発言している。「子どもに、未来はないんだよと伝えてみてください。わたしたちが暮らしている現在は、ノスタルジアのうえに築かれた幻想なんだよって。そうじゃないですよね。今日は今日です」。
 tofubeats による4年ぶり通算5枚目のアルバムもまた、果敢にペシミズムを乗りこえようともがく作品である。

 前作『RUN』のあと、tofubeats は拠点を神戸から東京に移している。積極的にDJをやったり仕事を増やしたりいろんなひとに会ったりするためだ。が、まさにそのタイミングどんぴしゃでリボ核酸が人類を襲撃。想定していた活動ができなくなった彼は、パンデミック前から考えていたという「鏡/反射」のテーマをより深めていくことになる。検温器で自身の顔を目にする機会が増えたことも影響したらしい。つまり本作は tofubeats の内省の反映と言えるわけだが、しかし湿った感じはまるでない。せつなさはあるけれど、ナルキッソスはおらず、全体的にからっとした前向きなムードに包まれている。
 ゲスト不在だった前作とは打ってかわり、多彩な顔ぶれが招かれているところも大きい。サグさを売りにしない点でいまもっとも注目すべき神戸のラップ・デュオ Neibiss をフィーチャーしたヒップホップ・チューン “don’t like u”。おなじく神戸のシンガーソングライター UG Noodle が気だるげな歌を聴かせるモンド~ボサノヴァ調の “恋とミサイル”。tofubeats はこれまでのように、将来を担うだろう若手をフックアップするというみずからの役割をしっかりこなしている。
 クラブ・ミュージックのリスナーにとっては、後半のほうがより魅力的に映るかもしれない。9曲め “Solitaire” 以降の基調はハウスだ。『わが人生の幽霊たち』でフィッシャーは音楽が大きくは進化しなくなってしまったことを指摘していたけれど、「音楽ってもうダメなのかなー?/そんなことないって言ってくれよ」という “VIBRATION” の Kotetsu Shoichiro のラップは、4つ打ちという既存のフォーマットと組みあわせられることにより、フィッシャーへのアンビヴァレントな感情を表現しているようにも聞こえる。“SOMEBODY TORE MY P” や “Okay!” ではDJピエール・ファンとしての本領を発揮、ノイズのないJポップの世界(=資本主義リアリズム)で盛大にアシッド音をぶちかますことも忘れていない。
 そうしてアルバムは表題曲へとたどりつく。『竜とそばかすの姫』で飛躍的に知名度を高めたシンガー、中村佳穂がメイン・ヴォーカルを務めるこのジャングル・チューンこそ本作のハイライトだ。「溺れそうになるほど 押し寄せる未来」。これはペシミズムに覆われた時代のムードにたいするストレートな反骨である。同様の価値転覆は、複数のビートが入れ替わる最終曲 “Mirai” にも引き継がれている(「未来が押し寄せる」「未来まだ止まらない」)。「Mirai」は冒頭 “Mirror” にかかっている。「鏡」を覗きこむことからはじまった内省が「未来」の洪水へといたるこのストーリーは、今日の閉塞感を突破する起爆剤となるにちがいない。
 未来が失われているっていう発想、もうやめません? tofubeats の新作はそう主張している。そろそろ次のステップに行きませんかと。ここに、未来はリセットされた。