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編集後記

編集後記

編集後記(2021年12月31日)

小林拓音 Dec 31,2021 UP

 ブラック・ミディブラック・カントリー、ニュー・ロードスクウィッドなど多くのインディ・バンドがエネルギッシュなアルバムを送り出す一方、ロレイン・ジェイムズアヤヤナ・ラッシュなど、エレクトロニック・ミュージックの側も負けじと数々の野心作を生み落とした2021年、個人的には「挑戦」の一年だった。
 ひとつは、夏の紙エレで日本のラップ/ヒップホップ特集号をつくったこと。ふだんその手の音楽ばかりを聴いているわけではないぼくにとって、これまで深くは考えてこなかった表現形態と向き合う良き機会となった。もうひとつは、臨増でメタヴァース特集号をつくったこと。これまたふだんテック系のイシューをメインに追いかけているわけではないぼくにとって、ヴァーチャル概念や身体性の再考など、新鮮な驚きの連続だった。
 と振り返ってみて気づいたのだが、ラップにせよメタヴァースにせよ、それら大部の背後には共通して「勝ち上がる/稼ぐ」というネオリベ的な価値観が横たわっている。その点にどう対峙するかにかんしてもまた試行錯誤の繰り返しだった。制作に協力してくださった方々、執筆陣、取材に応じてくださった皆さま、あらためてありがとうございました。
 とまれ、人間ってやつは得意なこと・好きなことばかりやっていても成長しない……いや、いかんな、これは「脱成長」と合わない考え方だ。2021年の大きなテーマのひとつは成長ではなく「持続可能性」だった。サステナビリティというやつである。わかる。続けられるか否かはとてもたいせつなことだ。

 後者の特集号をつくる過程で映画『竜とそばかすの姫』を観た。歌うことが好きだった主人公のすずは、じぶんを助けようとして母親が死んでしまったことがトラウマになり、うまく歌えなくなってしまっていた。過去と現在、田舎(リアル)とネットの対比、『美女と野獣』『時をかける少女』への(セルフ)オマージュなど、いろんな要素が盛りこまれた重層的な作品なのだけれど、メタヴァースという今日的な枷を外してみても、2021年のムードをみごとにとらえた映画だったように思う。
 劇中には「ジャスティス」なる集団が登場する。彼らは仮想世界の秩序を守るべく活動している組織で、同世界内で暴れまわる「竜」を追っている。リーダーの人物は相手のアヴァターを強制解除し「中の人」を白日のもとにさらすことのできるアイテムを持っている。いわゆる特定厨とSJWをかけあわせたような存在だ。マッチョな白人男性を想起させるいかにも「ヒーロー」なアヴァターを身にまとった彼には、「警察が必要だ」とのセリフが与えられている。
 ポイントは、彼が仮想世界=プラットフォームの運営者ではないところだろう。主人公や「竜」同様、いちユーザーにすぎない彼が(多数のスポンサーをバックにつけているとはいえ)独自に警察=国家の意志を内面化し、他人を追いこみ、狩ろうとするのだ。数年前話題になった、相模原殺傷事件の実行犯とおなじである。
 なぜひとは警察になりたがるのか? 『竜とそばかすの姫』が公開される四日前には、オリンピック開会式の音楽担当者が公表されている。ネットが普及する以前からあった問題とはいえ、2021年はあらためてその欲望の奇妙さについて考えさせられることになった。
 対照的なのが主人公のすずだ。彼女は告発もしなければ晒すこともせず、断罪もしない。物語の終盤、ある衝撃的な事実を突きとめたすずは、ふつうなら警察に通報しそうなものをそうはせず、わざわざみずからの足を使ってある人物に会いにいく。直接行動である。彼女を促したのは友情でもなければ恋でもない。ただたまたま出会うことになった気になる他人を助けたいという(無償の)行為が、結果的にじぶんを助けることにもなる──そんな相互扶助的な発想が『竜とそばかすの姫』の根幹を成しているのではないかと思う。
 もちろん、年末号で水越真紀さんが指摘しているように、そういうアクションは国家によって都合よく利用される可能性だってある。それでもぼくは、ミャンマーやらアフガニスタンやらオリンピックやら、とかく殺伐とした空気に覆われた2021年のなかにあって、すずの行動に素朴に勇気づけられたのだった。

 2021年、ele-king books は23冊の本を刊行した。2022年も多くの企画が控えている。引き続き時代を見すえた本をつくっていきたいと思っているので、楽しみに待っていてほしい。すずの気持ちを忘れず、がんばります。
 それでは、良いお年を。