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Gil Scott-Heron

JazzSoul

Gil Scott-Heron

We’re New Again (A Reimagining By Makaya McCraven)

XL Recordings / ビート

Amazon

小川充   Mar 11,2020 UP
E王

 「黒いボブ・ディラン」「闘う詩人」などの異名を持ち、1970年のデビュー・アルバム以来、一貫して社会や政治に対する痛烈なメッセージを乗せた歌を歌い続けてきたギル・スコット・ヘロン。2010年にリリースされた『アイム・ニュー・ヒア』は、彼が2011年5月27日に亡くなる前の遺作であり、晩年の残された力を振り絞り(2008年に彼はHIV陽性であることを告知している)、往年の輝きを最後に放ったアルバムである。リリース元の〈XLレコーディングス〉は、ギルに敬意を表す意味も含めてこの『アイム・ニュー・ヒア』をリサイクルしてきた。ジェイミー・エックスエックスが録音素材を使ってリコンストラクトした2011年の『ウィ・アー・ニュー・ヒア』(結果的にこのアルバムがリリースされた数か月後にギルは亡くなっている)、『アイム・ニュー・ヒア』と同時期に録音された未発表作品集の『ナッシング・ニュー』(2014年)と、ことあるごとにギル・スコット・ヘロンにまつわる作品をリリースしている。そして、『アイム・ニュー・ヒア』のリリース10周年となる企画が本作『ウィ・アー・ニュー・アゲイン』である。

 『ウィ・アー・ニュー・アゲイン』も『ウィ・アー・ニュー・ヒア』同様に『アイム・ニュー・ヒア』のリミックス/リコンストラクト・アルバムで、手掛けるのはジャズ・ドラマーのマカヤ・マクレイヴンである。マカヤはミュージシャンでありながらビート・プログラミングやサウンド・メイクも行うプロデューサーであり、『ハイリー・レア』(2017年)のように生演奏やライヴ録音にDJミックスを交えて編集するようなアルバムを作ってきた。〈XLレコーディングス〉の総帥のリチャード・ラッセルはこの『ハイリー・レア』を聴き、マカヤの才能に惚れ込んで『ウィ・アー・ニュー・アゲイン』の制作を依頼したそうだ。今回のレコーディングはシカゴにあるマカヤのホーム・スタジオでおこなわれ、ギル・スコット・ヘロンのヴォーカル・パートや元々の演奏などのテープ素材をもとに、サンプリングやエレクトロニック処理と自身によるインプロヴィゼイションを交えて再構築していった。

 『アイム・ニュー・ヒア』はリチャード・ラッセルのプロデュースによって、アブストラクトなダブやダブステップ的なトラックを持つものとなっており、ギル・スコット・ヘロンにとって異色作であると共に、新たなチャレンジをしたアルバムでもあった。一方、『ウィ・アー・ニュー・ヒア』ではジェイミー・エックスエックスが、あくまで素材としてそれらを用いることにより、ダンス・トラックとしての軽やかさを持つポスト・ダブステップ~エレクトロニック・サウンドへと導いていた。確かにジェイミーの試みはフレッシュで面白いものであったが、しかしながらギルの言葉が持つ毒気や生々しさ、怒りや重みといったものは薄れてしまっており、ギル・スコット・ヘロンとしてのアルバムとして見た場合に果たしてどうなのかな、という作品でもあった。リミックスやリコンストラクトの場合、サウンドを作り変えたり更新する面白みは出せても、元のアーティストの精神性や世界観にまでなかなか立ち入っていけないものだが、今回のマカヤ・マクレイヴンの場合は、むしろギル・スコット・ヘロンの精神性を軸にリコンストラクトした作品のように感じる。ビートにヴォーカル・サンプルを乗せるのではなく、言葉に合わせたビートを作り出していくというやり方をしているように感じるのだ。それはマカヤがギルと同じジャズを演奏するドラマーであり、ジェイミーとは違うブラック・アメリカンの言語を持つからだろう。

 都市生活での暗部を歌った “ニューヨーク・イズ・キリング・ミー” は、アフリカン・リズムを用いたブードゥー的な演奏で、まるで生前のギルがキップ・ハンラハンと共演したかのようなダークでアンダーグラウンドなジャズとなっている。ジャズ・ファンクの “ピープル・オブ・ザ・ライト” は、ある意味でギル本人よりもギル・スコット・ヘロンらしい曲ではないだろうか。ヘヴィーなベースのリフでヒプノティックに進行していく “ザ・クラッチ” は、ギルとマカヤの両者の共通項となるゲットー・サウンドを浮かび上がらせる。フルートとギルのポエトリー・リーディングを交互にシンクロさせた “ホエア・ディッド・ザ・ナイト・ゴー” のミステリアスさは、あくまでギルの言葉を主体に作っているからこそ生み出せるものである。“ミー・アンド・ザ・デヴィル” (もともとはブルース・ギタリストのロバート・ジョンソンの “ミー・アンド・ザ・デヴィル・ブルース” のカヴァー)のジミ・ヘンドリックスにようにささくれたギター・リフは、原曲が持つ悪魔伝説の逸話とアフロ・アメリカンの置かれた荒廃した状況に繋がる。そして “アイル・テイク・ケア・オブ・ユー” はマカヤからギルへのレクイエム的な1曲となっている。


小川充