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坂本龍一

AmbientElectronicExperimental

坂本龍一

ASYNC - REMODELS

commmons / Milan

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デンシノオト小林拓音   Dec 28,2017 UP
E王
12


 エレクトロニック・ミュージックはいま飽和状態を迎えている。00年代末から10年代初めにかけて登場してきた種々の手法やスタイルが臨界点に達し、次の一手をどう打つべきか、多くのアーティストがそれぞれのやり方で模索を続けている。今年出たアルカのアルバムはまさにそのようなエレクトロニック・ミュージックの「限界」をなんとか更新しようと努める、ぎりぎりの試みだったと言えるだろう。

 そのアルカの新作とほぼ同じタイミングでリリースされた坂本龍一8年ぶりのソロ作『async』は、ここ10数年のアルヴァ・ノトやテイラー・デュプリーらとの共同作業の経緯を踏まえた、実験的かつ静謐なノイズ~アンビエント・アルバムだった。2017年は海の向こうで盛んに80年代日本のアンビエントが再評価されたけれど、『async』もある意味ではその波に乗る作品だったと言うことができる。だからこそ『FACT』が年間ベストの1位に『async』を選出したことが象徴的な出来事たりえたわけだが、しかし『async』が鳴らすあまりにも繊細な音の数々は、そのようなジャポネズリや回顧的な動きに対してささやかな異議を唱えているようにも聴こえる。そんな『async』が孕む小さなズレ、すなわち「非同期」的な部分をこそ拡張したのが、この『ASYNC - REMODELS』なのではないか。

 去る9月、坂本はロンドンのラジオNTSで放送をおこなっているが、そこで彼はデムダイク・ステアの“Animal Style”とアンディ・ストットの“Tell Me Anything”をかけている。前者は昨年末に発表されたデムダイクの最新作『Wonderland』に収録されていたトラックで、後者はストットがいまよりもストレートにダブ・テクノをやっていた頃の音源だ。さらに坂本は、J-WAVEでアクトレスの『AZD』から“There's An Angel In The Shower”を取り上げてもおり、それらの選曲からは、坂本が現在のエレクトロニック・ミュージックに大きな関心を寄せていることがうかがえる(デムダイク、ストット、アクトレスの3者は「インダストリアル」というタームで繋ぎ合わせることもできる)。もちろん、25年前の『HI-TECH / NO CRIME』や11年前の『Bricolages』が証言しているように、これまでも坂本は同時代のエレクトロニック・ミュージックに関心を向けてきた。しかし今回の『ASYNC - REMODELS』はどうも、それらかつてのリミックス盤とは異なる類のアクチュアリティを具えているように思われてならない。けだし、坂本が時代に敏感である以上に、いま、時代の方が坂本に敏感になっているのではないか。

 この『ASYNC - REMODELS』では、どのプロデューサーも原曲の繊細なサウンドと真摯に向き合いながら、いかにそこに自らのオリジナリティを落とし込むかという格闘を繰り広げている。坂本がラジオで取り上げたアンディ・ストットや、ここ1年その存在感を増しているモーション・グラフィックスにヨハン・ヨハンソン、あるいはお馴染みのアルヴァ・ノトやフェネスなど、いずれも坂本の音源と対峙することで自らの次なる可能性を引き出そうとしているかのような興味深いリミックスを聴かせている。坂本の原曲に独特のR&Bタッチのアンビエントを重ね合わせたイヴ・テューマーも刺戟的だが、突出しているのはやはりOPNとアルカだろう。

 オリジナル盤『async』の冒頭を飾る“andata”は、坂本らしい旋律がピアノからオルガンへと引き継がれる構成をとっていたが、その展開を尊重しつつ音色を『Rifts』の頃のそれへと巧みに変換してみせるOPNは、まさに00年代末~10年代初めの音楽が生み落とした成果を総括しようとしているかのようだし、新作でその表現の様式を大きく変えたアルカは、原曲“async”におけるピッツィカートの乱舞を排除、代わりに自身の日本語のヴォーカルを加えることで現在の彼の官能性をさらけ出し、ほとんどオリジナルと呼ぶべき大胆なリミックスをおこなっている。

 坂本が『async』でいまのトレンドに寄り添いながらも微かなズレを響かせていたように、本作における各々のアーティストたちもまた違和を発生させることをためらわない。すなわち、飽和状態を迎えたエレクトロニック・ミュージックの精鋭たちがいま、坂本にこそ突破口を見出そうとしている。『async』が世界に対する坂本からの応答だとしたら、『ASYNC - REMODELS』は坂本に対する世界からの応答である。これは、かつて「世界的な成功を収めた」とされるYMOにはついぞ為し遂げることのできなかった転換だ。そういう意味で坂本龍一は、いまこそ黄金期を迎えているといっても過言ではない。このように『ASYNC - REMODELS』は、坂本の音楽的な成熟をあぶり出すと同時に、エレクトロニック・ミュージックの次なる展望を垣間見させてくれる、優れたアンソロジーにもなっているのである。
 飽和したのならもう、あとはあふれ出すだけだ。

小林拓音

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