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Dry & Heavy

Dry & Heavy

Dry & Heavy / One Shot One Kill

Black Smoker Records

野田 努   May 18,2011 UP

 90年代の日本では、ミュート・ビートのレゲエ叙情主義とはまた別の水脈において、ベース・ミュージックの実験が繰り広げられていた。東京では代々木にあった〈チョコレート・シティ〉というヴェニューがその最初の震源地のひとつとなったが(そこはヒップホップ/レゲエのクラブとして知られ、あるいは日本で最初のジャングルのイヴェントが開かれていた場所でもある)、その周辺にいたドライ&ヘビーはオーディオ・アクティヴらとともに渋谷系がフランス映画のサントラ・レコードを掘っていた時代に70年代のジャマイカのサウンドシステムの痕跡をひとつひとつ吟味していた。
 こと秋本武士と七尾茂大によるドライ&ヘビーは、ベース奏者とドラマーがそのバンドの中心となるレゲエのスタイルをそっくりそのまま踏襲し、アストン・バレット、グレン・ブラウン、ボリス・ガーディナー、ロビー・シェイクスピア、リロイ・シブルス等々(以上、ベーシスト)、カールトン・バレット、スライ・ダンバー、スタイル・スコット、あるいは映画『ロッカーズ』の主役となったホースマウス・ワレス等々(以上、ドラマー)の領域を目標とした。レゲエは、親しみやすいメロディ・パート(歌、あるいはホースセクション)とアフリカから来ているリズムのパートのふたつの構造からなっている。そして、レゲエほどリズムのパートが脚光を浴びた音楽はない。レゲエ・ファンはシンガーの名前と同等に、ときにはそれ以上の重要性をもってベーシストやドラマーの名前を覚えるのだ。
 ドライ&ヘビーが重要な働きを見せたのは1990年代後半からゼロ年代にかけてで、彼らは当時、ザ・ブルー・ハーブやシンゴ02といったラップの新しい勢力と共振しながら、それまでの日本のラスタカラーのレゲエとは別の、異種格闘を好む新しいベース・ミュージック・シーンのエースとして君臨した。ダブとヒップホップが交錯する都会のアンダーグラウンドをホームとしながら、あるいはリクル・マイという魅力的なシンガーがいたとはいえ、ドライ&ヘビーはそれが自分たちの誠実さの表れであるかのように、二拍/四拍のアクセントに特徴を持つワンドロップと呼ばれるリズムとひたすらシンコペーションするベースラインというジャマイカの基本文法に忠実なだけだった......が、しかしそれが当時、急速に増えていった葉族やらダンサーやらの心身にダイレクトに訴える音となったのだ。要するに、UKのレイヴ・カルチャーがアシッド・ハウスでやったことを彼らはレゲエでやったとも言える。

 さて、これは喉元をぎゅっと絞められた『ブラックボード・ジャングル・ダブ』が地底の奥深くから噴射しているような、そう、9年ぶりの、秋本武士と七尾茂のふたりによるドライ&ヘビーの新曲だ。片面10分以上、両面で20分ちょっと。それも〈ブラック・スモーカー〉からのリリースで、キラー・ボングは例によってミステリアスな彼の言葉の断片を食いちぎっては地面に吐き付けているようだ。一時期オーディオ・アクティヴでギターを弾いていたカサイも参加して、ダーティーなソウルのこの怪しげな饗宴にやんわりと色気を与えている。
 B面の"One Shot One Kill"はそのダブ・ヴァージョンとなっているが、それは装飾性を剥いだ、より骨組みだけを際だたせたミックスになっている。ローファイでこもり気味の低音はスピーカーのコーンを限界まで震わせ、デジタル時代に顕著となったチージーな高域はすべてカットされている。中域に重点をおいた音のバランスは、この10年カセットテープでリリースされるドローンのサウンド・オペレーションと重なるものがあるが、実際の話、ふたりのセッションは瞑想的で、スピリチュアルにも感じる。お決まりのディレイやリヴァーブもない。まあ、彼ららしいストイシズムの境地が展開されている。
 こういうレコードを買うのは、いまでも苦労する。すぐに売り切れしまうからだ。本当に音を必要としている人たちが、あっという間に群がってそれをひきちぎってはそれぞれの地下室へと消えていくのだ。

野田 努