Home > Interviews > interview with Fontaines D.C. (Conor Deegan III) - 来日したフォンテインズD.C.のベーシストに話を聞く
向かって左から、グリアン・チャッテン(ヴォーカル)、トム・コール(ドラムス)、コナー・カーリー(ギター)、カルロス・オコンネル(ギター)、取材に応じてくれたコナー・ディーガン(ベース)
2019年の『DOGREL』の衝撃から5年、4枚目のアルバム『Romance』へと至る道、フォンテインズD.C.はもはや単純にポスト・パンクという言葉でくくれるようなバンドではない。レーベルが変わり、バンドの立つステージは大きくなり、周囲の環境も変わった。アイルランドを離れてのツアー生活、3枚のアルバムのプロテュースを務めたダン・キャリーのレコーディングから、アークティック・モンキーズやゴリラズを手がけるジェイムズ・フォードとともにフランスの大きく古いスタジオで収録した4thアルバム。作曲方法も変わり、年齢を重ねた感性も変化しバンドはまた違うものになっていく。変わらないのは暗さを抱えた憧れるようなフォンテインズのロマンだけだ。00年代後半のニュー・メタルのサウンドを解釈した “Starburster” の衝動に、80年代のギター・ポップ・バンドのようなきらめきを持った “Favourite”。それらは心を躍らせ、そうして自問自答を繰り返すフォンテインズの渦の中に返っていく。アルバムのなかで繰り広げられる探求、「ロマンスとは場所なのかもしれない」。最初に配置されたタイトル・トラックのなかで響くグリアンのその声がアルバム全体を通してずっと頭に残り続ける。場所と記憶と概念、そして感情、それらが交じり合うポイントにこそロマンスはあるのかもしれない。それは決して甘いだけのものではなく闇を感じさせもするもので……。
23年2月の単独公演以来、フジロックのために来日したフォンテインズ。だが取材を予定していたカルロス・オコンネルは現れず、取材時刻から少し遅れてギターのコナー・カーリー、 ベースのコナー・ディーガン、 そしてドラムのトム・コールの3人が到着。カルロスが時間内に来ることは難しいという状況のなかで、カルロスに代わり急遽ベーシストのコナー・ディーガンがこのインタヴューに答えてくれた。彼は終始ご機嫌で、撮影の待ち時間に「パーパパッパパッパパー、パパパッパー」とフィッシュマンズの “LONG SEASON” を口ずさみながら歩き回っていた(取材後1時間ほどしてカルロスとグリアン・チャッテンが姿を見せ、撮影はメンバー全員でおこなわれた)。ディーガンが口ずさむ唄のように季節は変わり、ダブリンのこのバンドは新たな段階に入っていく。来夏の4万人規模の公演も決まり、大きくなっていくフォンテインズに4thアルバム『Romance』のその探求について話を聞いた。
過去のいろんな時代から見た未来というか、過去の時代に想像していたような未来の姿を表現したかった。残念だけどいまの時代に未来を想像しても、いい感じの未来が見えて来そうにないからさ。でも過去のある地点、たとえば90年代に思い描かれていた未来っていうのはもっと面白く、もっといいものだったような気がするんだよ。
■今日はよろしくお願いします。フォンテインズとしては去年2月の単独公演以来の来日で。そのときとは季節も変わってまた違うかと思いますが、日本の夏の印象はどうですか?
コナー・ディーガン(Conor Deegan、以下CD):そうだね冬に来たときとは全然違う体験をさせてもらっているよ。なんていうかな前に来たときはもうちょっと穏やかな感じだったから。いまはまぁちょっと暑いよね。暑すぎ。
■来てからどこかに行ったりしましたか?
CD:まだどこにも行ってないんだ。なにしろ着いてからまだ13時間くらいだから。
■変化といえばバンドとしてもレーベルが〈XL Recording〉に変わりましたよね。音楽的に、あるいはその他の面でも違いを感じるところはありますか?
CD:うん、変化はいろんな面で感じているよ。仕切り直しっていうか新たなスタートを切りたいって考えていたから。音楽自体もそうだけど、それ以前に創作に対する空気が変わったって感じかな。〈XL〉は伝統あるレーベルで、いろんなバンドと契約してきた歴史があるから独特な空気があると思う。その一部になれたっていうのは光栄だし、うまくいっているんじゃないかって感じてる。もちろん前のレーベルもよかったんだけどね。
■XLに所属しているアーティストで影響を受けた人はいますか?
CD:最初に名前を挙げるとしたら当然、キング・クルールかな。あと、影響を受けたっていうんならプロディジーも。
■XL以外の人だと、最近はどんな音楽を聴いているんですか?
CD:ちょっと待って見てみるから(スマホを取り出してSpotifyの画面を見せる)。うん、いまはこんな感じかな。J・ディラ、チャーリー・XCX。あとはジェシカ・プラットの新しいアルバム『Here in the Pitch』、これはめちゃくちゃよかったよね。それにテス・パークス。
当時、ビートルズがメロトロンを使って表現しようとしたのは未来の音だったはずなのに、いまそれを聴いて僕らが感じるのが懐かしさなんだって思うとなんだか変な感じだけど。
■今回からプレスショットの感じも変わりましたよね? いままでの落ち着いたものから一気にポップになったような感じで。あなたとグリアンがプレゼンのパワポの資料にスパイス・ガールズの写真が並んでいて~みたいなことを言っていたインタヴューの動画を見て……
CD:(笑)違う、違う。あれは冗談だよ、冗談。マジじゃないから。
■あっそうだったんですね(笑)。実際はどんな感じだったんですか? かなりモードを切り替えたみたいな印象がありますけど、どのような意図であのプレスショットを撮ったんですか?
CD:僕たちが考えたことというか話し合ったことは「違った未来についての視点」を表現したいってことだったんだ。過去のいろんな時代から見た未来というか、過去の時代に想像していたような未来の姿を表現したかった。残念だけどいまの時代に未来を想像しても、いい感じの未来が見えて来そうにないからさ。でも過去のある地点、たとえば90年代に思い描かれていた未来っていうのはもっと面白く、もっといいものだったような気がするんだよ。映画の『12モンキーズ』(1996年/テリー・ギリアム監督)でも素晴らしい想像力で未来を描いていたし、1920年代の『メトロポリス』(1927年/フリッツ・ラング監督)も凄かった。そういう20世紀の映画のなかで描かれたような未来っていうのが大きなインスピレーションのもとになっている。グリアンのクリップで止めた髪っていうのはまさに1920年代の映画を参考にしているし、僕のとかカルロスの髪形はそれよりも先の時代、90年代に考えられていた未来の姿になっていると思うんだ。
■過去から見た未来の表現っていうのは凄く面白いですね。未来のことでありながら同時にノスタルジックな感覚もあるという。話を聞いていて、アルバムに収録されている “Starburster” についてカルロスが「14歳のときに大好きでその後聴かなくなった曲をいま、再び愛するみたいなもの」と言っていたのにも近いものがあるのかなと思ったのですが、この過去と未来が交わるような感覚というのは曲を作る上でもありましたか?
CD:ノスタルジックっていうのはそうだね。“Starburster” にはそのアティチュードがあると思う。でもノスタルジックってだけじゃなくサウンド的にはもっと暗くて悲観的な部分もあってそれが混ざったような感じなんだけど。たとえば曲の真ん中くらいの部分にメロトロンを使ったところがあるんだけど、僕らにとってメロトロンの音は凄く懐かしさを感じさせる音なんだ。60年代のビートルズ気分になるみたいな。でもそれをもう少し、溶けたような感じにいじっていくと、喪失感のある、何かを失ったような感じにもなって……ダーク・ヴァージョンのノスタルジアって感じかな。当時、ビートルズがメロトロンを使って表現しようとしたのは未来の音だったはずなのに、いまそれを聴いて僕らが感じるのが懐かしさなんだって思うとなんだか変な感じだけど。
あとは90年代後半から00年代前半にかけてのニュー・メタル、たとえばコーンとかトゥールみたいな音楽の影響もある。そういう音楽を聴いていたときは子どもだったからその曲の持つテーマとかムーヴメントとかをよくわかっていなかったんだけど、いま聴くとミソジニーだって思えるところもあって。そういうよくない部分を取り除いてサウンドのクールなアイデアをいまの時代に合わせて再構築したって感じかな。
この言葉にはいろんな側面があって単にロマティックなものだけじゃないと思うから。毎日の生活のなかでロマンを感じるものだったり、人生における大切なものだと感じるようなものでもある。「ロマンス」には言葉にできない、きちんととらえられないような感情があって、痛みや悲劇的な側面だってあるんだ。
■先行シングルとして発表された “Favourite” はこれまでのフォンテインズの曲とは印象が全然違って、80年代のギター・バンドみたいな疾走感や青春感がある曲でした。最初に聴いたときにこの曲からアルバムがはじまるのかなと思っていたのですが、実際には最後の曲で。アルバムはダークな “Romance” からはじまりますが、この曲順にはどんな意図があるのですか?
CD:アルバム全体のテーマとして「ロマンス」を探求するっていうのがあったんだ。ロマンスという概念はなんなんだってアルバムのなかでもう一回考えているみたいな。この言葉にはいろんな側面があって単にロマティックなものだけじゃないと思うから。毎日の生活のなかでロマンを感じるものだったり、人生における大切なものだと感じるようなものでもある。「ロマンス」には言葉にできない、きちんととらえられないような感情があって、痛みや悲劇的な側面だってあるんだ。だから “Romance” という曲からアルバムをはじめることで全体を通してそうした感情を探し、理解していく形にしたいって思いがあった。 ロマンスのポジティヴな面とネガティヴな面、両方に触れたアルバムになるように。
“Favourite” が最後なのは「ロマンス」という言葉の持つポジティヴな感情をアルバムの終わりで提示したかったからなんだ。「ロマンス」というものを探求した上で、僕たちにはそれができるんだってメッセージを最後に伝えたいって思いがあった。
photographer: YUKI KAWASHIMA collage: Ria Arai
■レコーディングはどんな感じだったのでしょうか? 今回はジェイムズ・フォードとのフランスでのレコーディングだったということですが。
CD:うん。僕らにとってこれが初めてのイングランド外でのレコーディングだったんだ。大きな古いフレンチ・ハウスで、まぁ言ってしまうと幽霊が出そうな感じの場所だったんだけど。70年代の素晴らしい機材がいっぱいある大きな部屋で、音楽にインパクトを残せるようなスペースがたくさんあった。いままで僕らは小さな部屋の限られた空間のなか、ライヴ・セッティングで生々しさを閉じこめたみたいなレコーディングをしていたんだけど、今回は部屋の大きさに引っ張られてサウンドの大きさも変わっていったんだ。たとえばU2みたいにアリーナやスタジアムに響かせるような曲を録るにはレコーディングのやり方を変えなくちゃいけないよね。そんなふうに引っ張られていった結果としてアルバムの音も大きなサウンドになったと思う。
■最近出演したフェスの映像などを見てもバンドとしてどんどん大きくなっているように感じていますが、曲作りにおいて1stアルバムを発表した当時と変化したような部分はありますか?
CD:曲作りに関して言うと、最初の頃はひとつの部屋に集まって演奏しながらみんなで作っていくってスタイルだった。ラップトップで誰かがデモを作ったのを持ち込んでみたいなことはやってなかったから。ライヴのための曲作りで、誰かの演奏がインスピレーションになってそこから曲が生まれたりもした。でも活動を続けていく内にツアーに出ることも増えて、みんなで一緒に集まって曲を作るってことが難しくなっていったんだ。だからここ数年はホテルの部屋でひとりで曲を作ることがほとんどになった。ラップトップで音楽を作るといろんな楽器を使うことができるよね? 実際には演奏できなくてもシンセとかストリングスとかトランペットとかを簡単に追加できる。昔は自分たちで演奏できないものは作れなかったけどいまは違って、選択肢がかなり広がった。そこから今度はライヴで実際に演奏するために調整するって過程が入ったりするわけだけど。とにかく、昔と違った形で曲を作っているっていうのは確かだね。このアルバムの曲は特にそうで、大胆なサウンドがたくさん入っている。そういう仕上がりになっていると思うよ。
■今回のアルバムの曲で、ライヴで演奏するときに印象が異なったような曲はありましたか?
CD:うーん、今回のアルバムの曲はまだそこまでライヴでやっているわけじゃないからいまのところはなんとも言えない。ただやっぱり観客の反応が入ると印象が変わるよね。過去の曲で言えば2ndアルバムの “Lucid Dream” なんかはまさにそうで、作ったときにはこんなふうにライヴで大きく盛り上がる曲になるだなんて思わなかった。だから今度のアルバムの曲もそんなふうに変化していくと思うよ。“Starburster” はもう何度かライヴで演っているけど1stアルバムとか昔のアルバムの曲とは全然違う盛り上がり方をしていて。モッシュが起こるんじゃなくて合唱が発生するみたいな、そういう変化が起こっているかもしれない。
■最後にアルバムのジャケットの話を聞きたいです。アートワークもいままでのものとガラッと雰囲気が変わりましたよね? ハートマークに涙を流した人の顔が写った、ある種異様とも思えるようなアートワークで。これはどういうものなんですか?
CD:このデザインはルー・リンって人が手がけたものなんだけど、僕も最初に見たときはほんとストレンジだなって思った。それこそ従来のものとは全然違う感じのものだったし。でも僕たちがやりたかった音楽、今回のアルバムのテーマを表すものとして考えると、このアートワークは凄くフィットしているって思うんだ。「ロマンスの形っていうのはこういうものなのか?」「本当にこれで合っているのか?」と問いを投げ掛けるようなものになっていて。それってまさに僕たちがこのアルバムでやろうとしていたことだから。ロマンスというものについて問いかけてくる、凄く良いアートワークだと思うよ。
取材:Casanova.S(2024年8月23日)