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Home >  Interviews > interview with Saho Terao - 楕円の夢をうたいましょう

interview with Saho Terao

interview with Saho Terao

楕円の夢をうたいましょう

──寺尾紗穂、インタヴュー

野田 努    写真:小原泰広   Mar 19,2015 UP

印象に残っていたのがケプラーの惑星の軌道の話だったんです。当時はキリスト教の考え方で、神様が作った宇宙というものは美しく作られているから、必ず円軌道だという話があったんですが、実際にデータを見てみると楕円の軌道で、キリスト教の価値観を打ち破る形でケプラーは結果を出した。


寺尾紗穂
楕円の夢

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■寺尾さんは歌詞を書くことが好きだと思うんですけど。

寺尾:いや、好きじゃないです。

■またまた(笑)。

寺尾:好きじゃないです。誰かに全部書いてもらいたいです(笑)。

■本当ですか? 僕は絶対に歌詞を書くのが好きだと思っていたんですけど。

寺尾:好きじゃないです。

柴崎A&R:高田渡みたいな感じですね。

寺尾:ああ、そうです! 渡さんみたいにひとの歌だけ歌っていたいです。

■でも、そういうふうにはならないでしょう?

寺尾:でも、初期はかなりの割合で都守美世さんの詩に曲をつけているし、前作も平田俊子さんの『富士山』という詩に曲を付けたので。自分がいいなと思う詩にはどんどん付けたいですね。私は自分の詩の限界もわかるので。私の詩だけで埋めちゃうと広がらないです。

■今回は『楕円の夢』っていうアブストラクトな、花田清輝からの引用らしいんですけど、この意味を説明してもらってもよろしいですか?

寺尾:知ってるくせに(笑)。

■いやいや(笑)。昨年のライヴで説明してましたね。

寺尾:そうですね。ライヴでけっこう長くお話をしました。きっかけは、隠岐島の音楽イベントに呼ばれたことがあって、帰りに尾崎翠の故郷の鳥取に寄りたいと思っていたんです。それで尾崎翠記念室へ行ってみたら、尾崎翠フォーラムというのが鳥取で毎年開かれていて、その小冊子が1年ずつならべてありました。子連れで行ったから時間がなかったんですけど、冊子の最後に主宰のひとの連絡先があったので、それを控えておいて記念室の感想を送ってみたんですね。そうしたら反応があって。地元のただの文学好きなひとなのかなと思っていたら、ずっと反原発運動とかをやっていて、小出裕章さんとも共著がある土井淑平さんだったんです。文学関係のものも1冊本を出しててそれが尾崎翠と花田清輝を比較した本だったんです(土井淑平著『尾崎翠と花田清輝──ユーモアの精神とパロディの論理』、北斗出版、2002年)。それを送ってくださって、そこで花田清輝を初めて知ったんですよ。それで『楕円幻想』という文章を残していることを知って読んでみました。
 それで、考えてみると高校時代、地学の先生が好きで一生懸命勉強していたときに、印象に残っていたのがケプラーの惑星の軌道の話だったんです。当時はキリスト教の考え方で、神様が作った宇宙というものは美しく作られているから、必ず円軌道だという話があったんですが、実際にデータを見てみると楕円の軌道で、キリスト教の価値観を打ち破る形でケプラーは結果を出した。その話を思い出したんですよ。花田が言っていたことも、まさにそういうものに繋がるなと思って。

■寺尾さんにとって、その「楕円形」とは何のメタファーなんでしょう?

寺尾:1や「真実」を否定するものですよね。あと、「正義」とか。

■いま我々が正しいと思っていることが、実は間違っているかもしれないっていうことですか?

寺尾:それは外の社会的な問題とか、大きなことに対してもそうですし、自分自身の意見とか自我とか、そういうものに対しても当てはまることだと思うんです。だから、“楕円の夢”の歌詞ではわりと個人的な部分を歌ってはいるんですけど。

■そうした世界に対する懐疑心は、寺尾さんのなかで蓄積されたものなのか、それとも3.11以降に意識するようになったんですか?

寺尾:楕円ではないんですけど、ずっと川島芳子を追っかけてきたのも、結局あのひとって狭間にいるからなんですね。日本と中国、男と女、日本人と満州族の狭間。その狭間にいてどっちとは言い切れない中途半端さを持っているんですよ。そこが追いかけてきた理由なのかなって最終的には思うんですけど。森達也とかもよく、「黒でも白でもなく、グレー・ゾーンが重要だ」ということを言うんです。森さんってオウムのことをずっと追いかけていたので、そういうところにも繋がっていくのかなと。けっこう共感を持って森さんの作品は見ていました。3.11以降というのはとくにないですね。

■そのことと、公園からおじさんをステージに引っぱり込んでくるというのは、それとどういう関係があるんですか? しつこいですけど(笑)。

寺尾:ハハハハ! うーん……ミュージシャンですって言い切れる人より、何者かわからない人のほうが好きなのかもしれないです。音楽って本来、そんな限られた人たちだけが奏でるものでもないと思うし、路上の風をまとっているような音楽が好きです。

■ちなみに、おばさんはステージに上げたことはないんですか?

寺尾:路上には、おばさん自体少ないですよね。ただ、りんりんふぇすで、石橋幸さんっていうロシアの歌を歌うひとに出てもらいました。彼女はゴールデン街でバーをやりながらずっと歌っているひとなんですけど、中上健次さんとかもお客さんとして来ていたみたいです。石橋さんもギリギリのところで自分の表現を追いかけているひとですね。

■寺尾さんは、上の世代の方が話が合うんですか? 団塊ぐらいの人のほうが。

寺尾:全然そんなことないですよ(笑)。でも年上のひとたちには、ずーっとそういう表現をやってきた厚みみたいなものが圧倒的にあるので、ステージに呼びたいというのはありますね。石橋さんを教えてくれたのは、平田俊子さんでした。

■学生時代、同世代で話が合うひとが寺尾さんにはいなかったんじゃないかな?

寺尾:あんまりいなかったですね。ただ、高2くらいで戦争関係の本をけっこう読んでいて、「日本軍は香港で何をしたか」みたいな本を借りたときに、もらった手紙をしおり代わりに使っていてそのまま返しちゃったんですよ。そうしたら、次のその本を借りた子が、「これって紗穂ちゃんのでしょう?」ってその手紙を返してくれて。その子ははるかちゃんっていうんですけど、「はるかちゃんもそんな本読むんだ!」という感じで気の合う子をひとり見つけたんですよ(笑)。その子の彼が浜ちゃん(※下高井戸にあるCD/本/服のお店「トラスムンド」のご主人)ですね。

■出た(笑)。

寺尾:そうそう。そういう関係です。

■あの人の彼女なんて知らない(笑)。

寺尾:もうずっと前だと思います。それで、彼女は大学へ行かないでそのままアフリカへ向かって、エイズ孤児のボランティアみたいなことをしていて、帰ってきてから法政大学の哲学科に入ったんです。たぶん、いまはまた海外へ行っていると思います。

■そういえば、寺尾さんは、戦中の研究をされていますよね。

寺尾:最初に気になったのは、小学校3年生くらいのときに母が何かのきっかけで、「関東大震災のときに朝鮮人のひとたちがたくさん殺されたんだよ」という話をしたんですね。それから「なんで、そんなおかしいことが起きているんだろう?」と疑問に思って、その時期とか戦中へ興味がいったんですよ。それで中1のときに『驚きももの木20世紀』で、「川島芳子と李香蘭とラスト・エンペラー」みたいな回をたまたま見て、「これは調べなきゃ」と思い立って翌日から図書館へ通いました。

■当時の資料とかも読みあさって?

寺尾:そうですね。

■本をそれで1冊書かれたんですよね?

寺尾:はい。文春新書で(『評伝 川島芳子―男装のエトランゼ』、文芸春秋、2008年 )。修論をほぼそのままに加筆したものです。教授にはすごくこき下ろされました(笑)。

■そうなんだ(笑)。

寺尾:「評伝」と名付けて出したんですけど、「評伝ですらない」って言われました。

■寺尾さんって研究者の道もあったんじゃないんですか?

寺尾:いやぁ、私は論文は全然向かないなと思って。結局は論理的じゃないからダメですね(笑)。

■文学部だったんですか?

寺尾:はい。比較文化ってところだったんですけど。

取材:野田努(2015年3月19日)

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