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Home >  Interviews > interview with Saho Terao - 楕円の夢をうたいましょう

interview with Saho Terao

interview with Saho Terao

楕円の夢をうたいましょう

──寺尾紗穂、インタヴュー

野田 努    写真:小原泰広   Mar 19,2015 UP

寺尾紗穂
楕円の夢

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 楕円の夜に会いましょう
 月の光で踊りましょう
 世界が枯れるその日まで
 楕円の夢をまもりましょう
“楕円の夢”

 僕と寺尾紗穂が出会う確率は1億3000万分のα。αは平均化されても一般化されない。人生で人と人が出会う数は、人それぞれだ。すべての出会いが等質というわけではないし、その数にSNSを入れるかどうかも議論しなければならないだろう。
 寺尾紗穂のライヴは、一風変わっている。一見したところでは、いわゆるSSWスタイルで、グランドピアノを弾いて彼女は歌っている。それは70年代風の、お決まりの光景に見えるかもしれない。が、彼女は予定調和を許さない。気がつけば、路上でうろついているオジサンが踊っていたりする。クリーンになった東京の景色から消されつつある人たちが出てくる。

 『青い夜のさよなら』以来の4年ぶりのアルバムは、『楕円の夢』と名付けられた。
これをアウトサイダーたちの夢と意訳するのは乱暴かもしれないが、寺尾紗穂が共感を寄せているのは、大きな声にかき消されるであろう、小さな声だ。その小さな声は、夢見る人のものである。

 私の好きな人は片手のない人です
 片手に夢を抱きしめて
 はなさぬ強い人です
“私の好きな人”

 アートワークに広がる眩しい青空のように、『楕円の夢』には愛と夢が溢れている。雨風に晒されて埃をかぶっている愛と夢だが、強さがある。寺尾紗穂とあなたが出会う確率は1億3000万分のαだが、しかしそのαを越えて、いま、彼女の歌は届くに違いない。

生きることと表現することを両立させていくのって、大変じゃないですか? だけど、生活が苦しくてもなんでも、一方で自分を表現していくってことを地道にずっと続けているひとに、すごく魅かれるんです。

■寺尾さんは2006年にファースト・アルバムを発表していますけど、いつからご自分で歌っているんですか? 最初からこういうピアノの弾き語りのスタイルだったんですか?

寺尾紗穂(以下、寺尾):大学に入って3年生くらいから。最初は星を見に行くサークルに入っていたんですけど、そこのOBのひとがけっこう遊びにきていて、そのひとりがコンピュータで音楽を作っていたひとで。私は中高時代にミュージカルのサークルをやっていて、それで作詞作曲とかをやっていたので、そこで発表した歌をまとめた音源を聴かせたんです。そうしたら「一緒にやろうか」という話になってデモを作りました。あと、ジャズ研究会にも顔を出していたので、バンドではジャズとポップスの中間みたいな音楽をやっていましたね。それがサウザンド・バーディズ・レッグスでバンドが先でした。大学4年くらいからひとりではじめて。

■それはいまのスタイルですか?

寺尾:はい。

■寺尾さんは音楽をいつか自分でやりたいと思っていたんですか?

寺尾:高1の頃は、オペラ歌手になりたいと思っていました。

■すごい、じゃあ何オクターブも出せるんですか(笑)?

寺尾:出せないです。メゾです。中学2年から声楽をやっていたんですよ。京王線の仙川駅の近くにある桐朋女子という学校に通っていたんですけど、そこに木村俊光さんという声楽家がきて“カーロ・ミオ・ベン”を歌ってくれたんです。それがすごくて私も声楽をやりたいと思いました。それで、父方のおばあちゃんのいとこが声楽家だったので、教えてもらいに通うようになって。

■いわゆる大衆音楽に接する機会はあったんですか?

寺尾:ありましたよ(笑)。

■少なくともテクノではないと思うんですけど(笑)。

寺尾:そうですね(笑)。私はドリカムで育った世代なんです。

■CDとかも買ったり?

寺尾:CDも買ったし、ワンダー・ランドも行っていたし。

■ワンダー・ランドって何ですか?

寺尾:ドリカムは4年に1回大きなライヴをやるんですよ。

■そうなんですか(笑)。じゃあ、声楽が好きでドリカムが好きで、本は何が?

寺尾:川島芳子を知ったのが中1ですね。

■文学というものの方が、寺尾紗穂にとっては大きなきっかけだったんですか?

寺尾:そうですね。小学生高学年の頃は、けっこうエッセイとかを読んでいたのかな。灰谷健次郎とか。中学に入ってからは向田邦子とか、昭和とか大正の太宰とか川端とかを読みはじめて。でも途中からアジアとか戦争の時代が気になって、歴史ものが多くなったかもしれないですね。大学に入ってからまた文学も読みはじめて、尾崎翠とかを知るんですけど。寺田寅彦とか。

■いまの話を聴く限り、将来寺尾紗穂になるとは思えない(笑)。こんなことを言うのは失礼かもしれないですけど、すごく優等生だったわけじゃないですか?

寺尾:そうですね。地学の先生に恋をしていたんです。

■早熟だったんですか?

寺尾:早熟だったのかな? でも女子校だったから、周りにも先生が好きな子はいましたけど。だから地学はすごく頑張っていました。

■でも今日の寺尾紗穂みたいな……。

寺尾:今日の寺尾紗穂って何ですか(笑)?

■寺尾さんの音楽って、70年代のシンガーソングライター的なものですけれども、ステージにホームレスのおじさんをのせてしまうような……

(寺尾の携帯電話が鳴る)

寺尾:あっ……、ちょっとダメだ。

■どうしたんですか?

寺尾:いや、原発労働者のおじさんから電話が……。

一同:(笑)

■しかし、70年代のシンガーソングライター的なものでありながら、ホームレスのおじさんがどうしても気になって気になって仕様がないという。少なくとも大学のサークルに入ってみんなでスキーにいって、恋をエンジョイするような感じじゃないわけでしょう?

寺尾:ハハハハ。サークルで山には登っていました。

■だから、そこの寺尾さんが寺尾紗穂たる由縁を僕は単に知りたいんですけど、うまく聞けないですね。寺尾さんに、何か将来を決定づけるような、特殊な経験があったとかね……。

寺尾:過去に?

■うん。何でもいいんですけど……。

寺尾:父と離れて育ったっていうのは特殊なのかもしれないです。

■それはいま顧みても自分のなかでは大きい?

寺尾:大きいんじゃないんですかね? おじさんとかが好きになっちゃうのも、ファザー・コンプレックスだと思うので。

■でもそのおじさんが……。

寺尾:そのおじさんかはわからない(笑)。普通に大学教授で自分の父親よりも年上のひととか、その地学の先生も父より上のひとだったんですよ。

■なるほど。

寺尾:そういう恋愛のことを考えるとそうだと思いますね。

■でもそれは、そんなに珍しいことでもないじゃないですか? ある種の寺尾さんには、過剰な部分があるでしょ?

寺尾:過剰な部分(笑)。

■だから、ライヴでは、最後にすべてをひっくり返すように、おじさんが出てくるでしょ。どちらかと言えば、ほこりを被ったおじさんを引っ張りだすじゃないですか?

寺尾:生きることと表現することを両立させていくのって、大変じゃないですか? だけど、生活が苦しくてもなんでも、一方で自分を表現していくってことを地道にずっと続けているひとに、すごく魅かれるんです。“アジアの汗”のモデルになった、坂本さんっていう山谷で出会ったおじさんも絵描きだったんですね。普通の絵の具より高いらしいんですけど、アクリル絵の具を使って描いていて、絵の具一本を買うのが大変な状況でも、ずーっと描き続けている。当時出会ったとき、私は大学院に進もうか、音楽へいこうか全然決めていなくて、宙ぶらりんな感じだったので、そういう姿がすごく響いたんですよね。自分にはそういう覚悟がどこまであるのかなっていうことも含めて。

取材:野田努(2015年3月19日)

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