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The Murder Capital

Rock

The Murder Capital

Blindness

Human Seasons

Bandcamp

村田タケル Mar 10,2025 UP

 ザ・マーダー・キャピタルの音楽はとにかく不仕合せだ。
 資本主義の終わりより世界の終わりを想像する方がたやすいこの世界で、「殺人資本」もしくは「殺人の都」(注)と直訳できる不穏なアーティスト名のバンドが作る音楽は、何かもの悲しかったり、どこか敗北の雰囲気が漂っている。幸福にはなれないとわかっている。しかし、これはけっして絶望や虚無といった類の音楽ではない。喪失と再生の間で、血を流すように歌い、美しく闘うザ・マーダー・キャピタルの傷だらけで誠実な音楽が私は好きで堪らない。

 ザ・マーダー・キャピタルの概略を説明すると、彼らは2018年にアイルランド・ダブリンで結成された5人組のバンドで、1stアルバム『When I Have Fears』を2019年にリリースし、2ndアルバム『Gigi’s Recovery』を2023年にリリースした。やはり例のごとくポスト・パンク・バンドだとカテゴライズされることが多いが、2ndアルバム『Gigi’s Recovery』リリース時には「ポスト・パンクというレッテルには飽きてきた」と語り、同時代のバンド郡の一派として語られることを避け、メンバー5人が作るオリジナルで唯一無二なバンドであることを強調している。たしかに2ndアルバム『Gigi’s Recovery』で見せた新境地は、1stアルバム『When I Have Fears』で特徴的だった硬質な音の応酬は後退したものの、レディオヘッドを彷彿とさせるような複雑で洗練としたビート、甘美性と神秘性を引き立てるフィードバック・ノイズ、出口の見えない世界で一掴みの希望の砂を掬い取るようなメロディアスなラインetc……それは間違いなく彼らのオリジナリティとして孤高な異彩を放つ傑作となった。

 そして、3rdアルバム『Blindness』が2025年2月にリリースされた。『Gigi’s Recovery』の制作時は、徹底的にデモを録り長い時間をかけて制作を進めた一方で、今作では、意図的に事前のデモを一切作らずに臨んだという。その話を聞き、本作には関係ないが、2010年代後半以降のUKロックの復権に大きく影響を与えた〈Speedy Wunderground〉のダン・キャリーが『So Young』のインタヴュー(『So Young Magazine Issue 22』)で「誰かと一緒にレコードを作ると決めたら、最初の段階はとても自由で創造的に進むけれど、行ったり来たりのやりとりがそれを台なしにしてしまう」と述べていたことを思い出した。
 つまり、『Blindness』は湧き起こる本能をベースに制作したレコードだ。今作のオープニング・ナンバーであり、大胆な挑戦を意味する言葉でもある “Moonshoot” の痙攣するほど破壊衝動に満ちたサウンドによる幕開けはそのモードの一面を象徴しているが、もちろんこれは単なる原点回帰というわけではない。バンドのこれまでの進化の過程で、過度な装飾の代わりに、新たな初期衝動を掴んだようなフレッシュさと表現の豊かさがこの作品にはある。冒険心をくすぐるように軽妙に奏でられる “A Distant Life”、マス・ロック調で躍動感が魅力な “Death Of A Giant” はこれまでの彼らのトラックリストにはなかった曲調で、作品に新鮮な空気を送り込み、ジェイムズ・マクガヴァン(ヴォーカル)が「バンドの中で最も誇りに思う楽曲かもしれない」と語る6分を超える “Love of Country” では、安らかな音色のなかで、愛国心が右翼的なレトリックとして使用され、人間同士の憎しみを呼ぶものになっていることの警告を示唆しては作品全体の緊張感を引き上げている(なお、“Love of Country” はシングル曲としてもBandcampで7インチ・レコード/デジタル・ダウンロードでリリースされ、その収益の全てをMedical Aid for Palestineに寄付すると発表しているのもこのバンドの姿勢を示したものである)。
 そして、ザ・マーダー・キャピタルのストロング・ポイントが「強い音」であることを信じて疑わないが、それを最大限に引き立てている静寂さや厳粛さの使い方も一層と巧みさを増した。例えば、先行曲としてもエントリーされた “The Fall” を聴けば、静謐な歌い出しの後に、叫びにも聴こえるギター・サウンドに圧倒される。曲のピークをサビではなく、インスト部分のギター・サウンドに託したとも言えるスリリングな音は、斧のように重く、稲妻のように鋭い。キャリアを重ねてさらに凄みを増した「強い音」を充分に感じ取ることができるであろう。

 キャリア全般でのこのバンドのもうひとつの特徴はジェイムズ・マクガヴァンの詩的で生々しいヴォーカル・ワーク。緊張感に満ちた彼の告白は、デカダンスな世界観でアグレッシヴに状況打破を試みることもあれば、メランコリックに寄り添って安らぎを見出そうとすることもあるが、痛みをつねに伴うがゆえに聴き手の耳や心のかすり傷を強く惹きつける。

 とにかく、ザ・マーダー・キャピタルを聴こう。同じくダブリン出身のフォンテインズ・D.C.がみんなのヒーローであるならば、ザ・マーダー・キャピタルはあなたにとっての救世主になる。崖の淵から、這い上がるためのカタルシスへと導いてくれる。

注) 実際のアーティスト名は、ジェイムズ・マクガヴァンの友人であり詩人のポール・カラン(Paul Curran)の死に対して、世間的には自殺とされてしまう一方で、アイルランドでの精神疾患に対するサポート不足が彼を死に追いやったと感じたことが由来している。

村田タケル