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Casanova.S Oct 17,2024 UP 今年、2024年はオランダのインディ・ロック・バンドの盛り上がりに確信を持たせるような年になった。素晴らしい2ndアルバムを出したアムステルダムのパーソナル・トレーナー(2枚目のアルバムはなんとも優しいギター・ロックだった)、ポスト・パンクの領域を広げたデビュー・アルバムを出したロッテルダムのトラムハウス、リアル・ファーマーのアルバムにザ・クリッテンスのEP、軽く考えただけでも次々に名前が出てくる。そのほとんどのバンドがイングランドにツアーに出かけ、音楽的影響を持ち帰り自身の音楽をさらに広げていく。
比較的、地理的に近いということも大きいのかUKのバンドとの交流も多い。ノッティンガムのオタラ(これからサウス・ロンドン・インディ・シーン以降の重要バンドになるのではと期待しているバンドのひとつだ)にインタヴューしたときに、いままででいちばん印象に残ったライヴは何かと尋ねたのだが、オランダ、ロッテルダムのサーキット・フェス、レフト・オブ・ザ・ダイアルの名前を挙げていたのも印象的だった。曰く、こんなにたくさん好きなバンドが見られるフェスはなかった、と。レフト・オブ・ザ・ダイアルのラインナップは本当に凄く、UKを中心にヨーロッパやアメリカ、アジア、世界各国のアンダーグラウンド・シーンの気配を持った100を超える若手バンドが集まっている。そのラインナップはどのメディアの期待のバンド・リストと比べても遜色がないだろう。こうしたフェスが毎年おこなわれているというのもまたオランダのインディ・シーンの地盤の固さを物語っている。
そんなオランダ・シーンの中で自分が今年いちばん期待していたのがロッテルダムを拠点に活動するネイバーズ・バーニング・ネイバーズのアルバムだった。ザ・スイート・リリース・オブ・デスやソロとして素晴らしいアルバムを作り上げたアリシア・ブレトン・フェラーのバンドであり、パーソナル・トレーナーやトラムハウスなどがインタヴューでおすすめのオランダのバンドを聞かれたときに毎回名前をあげるようなバンドで、このシーンの重要バンドと言ってもいいかもしれない。ノイズとポスト・パンクの間でうごめく冷たい炎が宿ったカオス、バンド結成初期の時期がコロナ禍と重なるという難しさもあったのかデビュー・アルバムのリリースまで長い時間がかかったが、しかしついにアルバムがリリースされた。金属のメロディを刻むギターに、高い位置で膨らむベース、陶酔した意識を引き戻すかのようなドラム、そぎ落とされたネイバーズのストイックな音楽は冷たく強烈な衝動でもって心を後ろ暗く躍らせる。それは庭で遊ぶ子どもが壁の隙間から何かを除き見るときのような、背徳と期待が入り交じった感情で、否が応でも胸を高鳴らせるのだ。
たとえば “Familiar Place” と名付けられたその曲は、何かを伝える信号と引っかいたようなノイズを生み出す二本のギターが相まって心を落ち着かなくさせる。不安にゆれる “Always Winning” のアルペジオにしても同様で、アリシア・ブレトン・フェレールとダニ・ファン・デン・アイセルのふたりのギターとヴォーカルは交互に行き来しながら虚空に意味を刻んでいく。暴力的でありながら優しく静かに。あるいはそれはカミソリで指先を傷つけたその瞬間に似ているのかもしれない。糸を引くように線が生まれ、血が噴き出し、わずかに溜まり、そうして重力に引かれ落ちていく。痛みを感じるのはその後だ。
おそらくこのアルバムのなかで最も古い曲であろう2019年から演奏されてる “Hesitate” はやはり素晴らしい曲で、ソリッドなアレンジを施されてこのアルバムのなかで一際輝きを放っている。はやる心にシンクロするようなアラム・シーヴのドラムに、爆発するキャット・カルクマンのベース、そして落ち着くことを許さない二本のギターのフレーズ、鋭く薄い金属の刃で幾重にも切りつけるかのようなこの曲は、ノイズのカオスのなかでいかにこのバンドが特別であるのかを証明する。
そう、このバンドは特別なのだ。この1stアルバムがリリースされる直前にギターとヴォーカルを務めるアリシア・ブレトン・フェラーの脱退が発表されて、ここに収められたネイバーズの姿はすでにない。だが記録された楽曲がバンドの輝きを示し続ける。抑制が効いたノイズのカオス、コントロールされた衝動が封じ込められた青白くゆらめく炎、このバンドのライヴをもう見ることができないのは残念だが、いまはしかしこの素晴らしい1stアルバムを残してくれたということに感謝すべきだろう。地下でうごめく静かな熱を僕は感じる。
Casanova.S