ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Dusty - Dusty & Friends / Commodo - Deep Harbour ft. Alfa Mist / Untold - False Vacuum
  2. This Is Lorelei - The Singer in My Band | ディス・イズ・ローレライ
  3. Rough Trade ──50周年イベント開催を祝し、恵比寿KATAにポップアップが出現
  4. interview with Wendell Harrison 音楽の楽園=デトロイトから、ウェンデル・ハリソンがファラオ・サンダースとサン・ラーの思い出を語る
  5. RYUICHI SAKAMOTO + SHIRO TAKATANI AMBIENT KYOTO - TOKYO -
  6. Columns P-VINE 50th Anniversary Interview Pヴァイン50周年対談
  7. Columns Dennis Bovell デニス・ボーヴェルひさびさの新録は無類のカヴァー集
  8. 別冊ele-king パンク50周年記念号──それは何だったのか、何でありえるのか
  9. interview with Toshimaru Nakamura 世界を魅了する、類い稀なる電子音響 | ──中村としまる、待望の初期ベスト盤リリースと超ロング・インタヴュー
  10. Lambchop - Punching the Clown | ラムチョップ
  11. Cornelius - Refractions | コーネリアス
  12. ele-king vol.37 ボーズ・オブ・カナダ大研究/サイケ&ドリーミー特集
  13. Fishmans ——京都でフィッシュマンズ写真展とトークイベントのお知らせ
  14. Crack Cloud ──カナダのインディ・バンド、クラック・クラウドの来日公演が決定
  15. Various Artists - Heavenly Remixes 3 & 4 (Andrew Weatherall Volume 1 & 2)  | アンドリュー・ウェザオール
  16. Open Mike Eagle & Kenny Segal - DOOMED! | オープン・マイク・イーグル、ケニー・シーガル
  17. AMBIENT KYOTO ──2027年春、レイ・ハラカミの展示が決定
  18. Water From Your Eyes - It's A Beautiful Place | ウォーター・フロム・ユア・アイズ
  19. Betty Hammerschlag ——マニア受けしていたZ世代のe-girlシンガーが、実は中年のおじさんだったニュース
  20. The Durutti Column - Renascent | ザ・ドゥルッティ・コラム

Home >  Reviews >  Album Reviews > Black Midi- Cavalcade

Black Midi

Post Punk Jazz

Black Midi

Cavalcade

Rough Trade/ビート

Amazon

野田努   Jun 04,2021 UP
E王

 SNS時代では、好きなことを好きなようにやることがますます難しくなっているのだろう。もはや自分が何を好きなのかさえもわからなくなっているのかもしれない。とにかく、不特定多数の誰かに自分がどう見られるのか、市場やメディアでの自分の見せ方ばかりを気にしているミュージシャンやライターを見るにつけ、本当につまらない連中だなと思う反面、大衆自らが監視装置になっている現在のディストピアにぞっとする。
 しかし、絶望的なこのがんじがらめから脱出するには、ひとつ方法がある。誰になんと思われようと知ったことではない、好きなことを好きなように情熱をもって徹底的にやり抜く。ブラック・ミディというロンドンの若き4人組のロック・バンドはまさにそれをやった。

 彼らの音楽にはトレンドらしきものなどない。ラップもダンスもドラッグも恋愛もない。パンク版キング・クリムゾン? XTC風のキャプテン・ビーフハート? ときにボアダムスっぽくもあり、そしてヴァンダーグラフ・ジェネレイターっぽくもあり……、いやまあなんにせよ、象徴的に言えば、少なくとも誰もが待ち望んでいるであろうことなど眼中にないサウンドをもって、だからこそ逆説的に誰もが待ちのぞんでいたことをやってのけたと。そう、この突然変異体は彼らのサウンドのパワーでもって、人びとを惹きつけたのである。最近出たばかりの『カヴァルケイド』はブラック・ミディにとってのセカンド・アルバムで、プログレ御仁をも泣かせたという前作『シュラゲンハイム』にはそれほどピンとこなかったぼくにも今回はガツンときた。
 先ほどぼくは、ぼくのいつもの怠惰さゆえに既存のバンド名などあげつらってブラック・ミディを説明しようとしているが、彼らの言うなれば“パンク・ジャズ・ロック”はもっと多様で(ボサノヴァまでやっている)、そして完璧に新鮮だ。10代という若さでダモ鈴木と共演している彼らだが、後ろ向きの郷愁など感じない。今年で22歳になる彼ら自身が若いように、この音楽にもはち切れんばかりの若さがある。それが『カヴァルケイド』における緻密さと勢いの両翼にわたって、ときに激しくリンクしている。ケオティックであるが凛としたサウンドで、この暗いご時世のなか物事に立ち向かっているような勇敢さを携えている。
 また、このアルバムには「別世界からの人物たち──苦境に陥ったカルト教団のリーダーからダイヤモンド鉱山で発見された古代の死体、伝説のキャバレー歌手マレーネ・ディートリッヒ──が、列を成して、彼らの前を誘惑的に通り過ぎていくようなイメージが描かれている」と資料には書いてある。それぞれの楽曲はそれぞれの人物のそれぞれのストーリーであり、そしてそれぞれのパレードだというが、ま、ぼくにひとつ言えるのは、ここで語られるそれぞれのストーリーやパレードはひどくエキサイティングだということである。
 アルバムはバランスも取れている。激しいリズムの“John L”や“Chondromalacia Patella”そして“Slow”の「動」に対してボッサ調の“Marlene Dietrich”、ゆったりしたアメリカーナ風の“Diamond Stuff”のような「静」もあり、スコット・ウォーカーめいた歌とアコースティックな圧倒的な美しさの“Ascending Forth”で締めている。サブスクの恩恵はあるにせよ、まあ、よくここまで折衷的なサウンドをうまくまとめ上げて、しっかりブラッシュアップさせたなと。
 
 過去がアーカイヴされた現代では、古いものも新しいものも等価であり、ときには古いものが新しいとも言われる。いや違う、新しいものが新しく、いまここに新しさがはじまろうとしている。ブラック・ミディを聴こう。お小遣いをためて高価な中古盤を買うのも悪くはないけれど、こんな苦難な時代においても前を向けるという意味で、少なくとも精神的には良いことがあると思います。

野田努