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Kelela & Asmara

Alternative R&BAmbientKankyō OngakuQuiet Wave

Kelela & Asmara

Aquaphoria

Self-released

SoundCloud

小林拓音   Sep 17,2019 UP

 近年巷ではやたらと穏やかで控えめなポップ・ミュージック、落ち着いてリラックスしたムードのソウルやジャズがウケていて、それは数字としてもたとえばトム・ミッシュの異例のヒットなどにあらわれているが、そしてそこにはますます悪化の一途をたどる世界や社会からの逃避願望が潜んでいるのだと思われるが、そういった音楽の傾向を指し示すときに、けっこうな頻度で「アンビエント」という語が用いられている。むろんそれはもともとの、多分に思想的な側面をはらんだアンビエントの概念からは離れた用法で、ようはなんとなく静かな雰囲気を捉えるために便宜的に使用されているにすぎない。ゆえに、より適切な名称として「クワイエット・ウェイヴ」なるタームが話題になったりもしたわけだけど、〈Night Slugs〉界隈から浮上してきたエチオピア系アメリカ人シンガーのケレラと、その盟友たるングズングズのアスマラことアスマ・マルーフのふたりは、この〈Warp〉30周年を祝うNTSのミックス音源で、比喩的にではなくじっさいに、アンビエントと現代R&B~ソウルとの接続に挑戦している。

 まず冒頭が小久保隆であるという点に、このミックスの独自性が宿っている。小久保はアリックスクンの『雲の向こう』や、それこそ『Kankyō Ongaku』にもとりあげられていた「環境音楽家」であるが、それをすぐさま横田進の『Sakura』(1999年)収録曲へとつなげてみせるところに、80年代以降の環境音楽と90年代、レイヴ以降のアンビエントとをおなじ角度から捉えようとする、彼女たちの批評精神があらわれている。
 レイヴ以降の感覚を担保しているのはオウテカとエイフェックス・トゥインの二大巨頭で、前者は2008年の『Quaristice』から1曲目が、後者はまさに1994年の『SAW2』から、CDでいうと2枚目の8曲目が選ばれている。そのエイフェックスの叙情を引き継いだとも言えるカリーム・ロトフィの逸品“Fr3sh”を拾うあたりも気が利いているが(〈PAN〉による名アンビエント・コンピ『Mono No Aware』収録曲で、昨年カニエが『Ye』で無断使用したことも話題に)、その仲立ちをまだ素朴にアナログ機材と戯れていたころのOPNにやらせるというのもうまい(2009年の『Russian Mind』の2曲目)。
 今日性を担わされているのは現代ニューエイジの旗手たるヴィジブル・クロークス(『Reassemblage』冒頭)やジョニー・ナッシュ&スザンヌ・クラフト(『Passive Aggressive』3曲目)だが、他方で00年前後のエレクトロニカにたいする配慮と思しきレイラや(1998年の『Like Weather』の3曲目)、いわゆるインプロヴィゼイションの分野にたいする目配せと考えられるジャコ・パストリアス(とジョニ・ミッチェル)の異色のライヴ音源なんかもピックアップされており、いやはやなんとも抜け目がない。
 そして忘れてはならないのはもちろん、それら素晴らしいトラックたちのうえに、つややかで美しいケレラのヴォーカルが搭載されている点だ。彼女の声はバックトラックの魅力をかき消さないよう慎重に空間を泳ぎつつ、他方で今日におけるソウル=魂のありかを照らし出そうと懸命に奮闘してもいる。その合体こそが本作をただのミックスであることから遠ざけ、一級のクオリティを具えたオリジナル作品の域にまで引き上げている。これはある意味、ソランジュにたいするアンダーグラウンドからの回答とも言えるのではないか。

 ケレラとアスマラのふたりが実践するこの歴史的パッチワークと夢幻的ヴォーカルとの融合は、80年代以降の環境音楽~アンビエント~ニューエイジの地図に新たな線を引きなおす系譜学的な試みであると同時に、そこに現行の穏やかなR&B~ソウルのトレンドを合流させようとする、すぐれて批評的かつ独創的な試みである。