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Brandee Younger

HarpJazz

Brandee Younger

Soul Awakening

Self-released

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小川充   Jun 24,2019 UP

 ジャズの世界ではピアニストやサックス奏者などに比べてマイナーな存在で、そもそも絶対数が少ないハーピスト。クラシックが土台となる楽器で、そうした点でジャズ方面に進むプレーヤーが少ないのだろうが、これまでのジャズ・ハープの歴史を見るとアリス・コルトレーン、ドロシー・アシュビーなど女性プレーヤーの活躍が目立っている。ブランディー・ヤンガーは彼女たちの系譜を受け継ぐ、現在のジャズ界で貴重な女流ハーピストのひとりだ。ニューヨーク出身の彼女は2000年代半ばより演奏活動を始め、ジャック・ディジョネット、チャーリー・ヘイデン、ビル・リー、ファラオ・サンダース、レジー・ワークマンなどベテランや大物たちと共演を積み重ねてきた。近年ではクリスチャン・マクブライドのビッグ・バンドにも参加し、ロバート・グラスパーのマイルス・デイヴィス・トリビュート・アルバムの『エヴリシングズ・ビューティフル』(2016年)にもフィーチャーされ、マカヤ・マクレイヴンの『ユニヴァーサル・ビーイングス』(2018年)のニューヨーク・セッションにも加わっていた。一方でローリン・ヒル、ジョン・レジェンド、コモン、ライアン・レスリー、ドレイク、マックスウェル、モーゼス・サムニー、マック・ワイルズ、サラーム・レミなどR&Bやヒップホップ方面のアーティストとも仕事をしており、いまのジャズ・ミュージシャンらしい多様性を持っている。

 ソロ活動では2011年より自主制作で作品発表をおこなっていて、2015年に発表された〈リーヴァイヴ・ミュージック〉と〈ブルー・ノート〉の共同企画によるコンピ『スプリーム・ソナーシー』に参加して注目を集めた。このコンピはこれからのイースト・コーストのジャズ界を担う若手アーティストたちを紹介するもので、ブランディーはマーカス・ストリックランド、キーヨン・ハロルド、レイモンド・アングリー、マーク・キャリー、ケイシー・ベンジャミン、マーク・コレンバーグ、ビッグ・ユキといった錚々たる面々と肩を並べていた。ここでやっていた“ドロシー・ジーン”という曲はドロシー・アシュビーを指していて、2016年には全面的なアシュビーのカヴァー及びトリビュート・アルバムとなる『ワックス&ウェイン』も発表している。これらは単なる思いつきで録音したものではなく、日頃よりアシュビーはじめアリス・コルトレーン、スタンリー・カウエルといったアーティストの作品をレパートリーとしていて、ジョン&アリス・コルトレーンの息子であるラヴィ・コルトレーンともたびたび共演するなど、モード・ジャズやスピリチュアル・ジャズの歴史をいまも大切にしている姿が伺える。

 そんなブランディー・ヤンガーの新作『ソウル・アウェイクニング』は、一応リリースは本年ではあるものの、録音自体は2012年におこなわれてこれまで寝かせてきたものだ。従って彼女の原点が詰まっているようなアルバムと言えるだろう。彼女のレギュラー・バンド・メンバーでもあるデズロン・ダグラス(ベース)、E.J.ストリックランド(ドラムス)、ステイシー・ディラード(ソプラノ・サックス)、チェルシー・バラッツ(テナー・サックス)などに加え、ゲストとしてラヴィ・コルトレーン(テナー・サックス)、アントニー・ローネイ(テナー・サックス)、シーン・ジョーンズ(トランペット)、ニーア(ヴォーカル)らがフィーチャーされている。8曲の収録曲のうち5曲は自身による作曲で、そのほかはドロシー・アシュビーの“ゲームズ”、アリス・コルトレーンの“ブルー・ナイル”、マーヴィン・ゲイのナンバーでマリーナ・ショウなどもカヴァーした“セイヴ・ザ・チルドレン”を演奏している。

 アルバムはラヴィ・コルトレーンをフィーチャーしたモーダル・ジャズ“ソウルリス”で幕を開け、ブランディーの演奏するハープが神秘的な音色で空間を包み込んでいく。琴に似せてハープを演奏した先人はドロシー・アシュビーだが、“リスペクティッド・デストロイヤー”におけるブランディーの演奏もそれに近いものと言える。この曲や“リンダ・リー”でのE.J.ストリックランドのドラムは、新世代ジャズ特有のヨレたヒップホップ・ビート感覚を持つプレイと言えそうだが、それとブランディーのハープのコンビネーションも本作の聴きどころのひとつとなっている。近年のアリス・コルトレーンのカヴァーやトリビュート作品で思い出すのはマシュー・ハルソールの作品で、そこでハープを演奏するのはレイチェル・グラッドウィンという奏者だったのだが、本作での“ブルー・ナイル”のブランディーの演奏も比較的同じようなアプローチでおこなわれる。アメリカとイギリスと国は違えど、彼らの中に通底するジャズは同じものなのだろう。“ゲームズ”からはアルバム・タイトルにもなっているソウルフルなムードが流れ出す。ドロシー・アシュビーの原曲はリチャード・エヴァンスのアレンジによるものだったが、そうしたアレンジやムードまでを咀嚼した好カヴァーと言える。そして、ニーアのヴォーカルをフィーチャーした“セイヴ・ザ・チルドレン”は、ソウルとジャズが見事に溶け合ったアルバムのハイライト曲で、ブランディーの音楽性を象徴するものとなっている。

小川充