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Moses Sumney

FolkR&BSoul

Moses Sumney

Aromanticism

Jagjaguwar / ホステス

Tower HMV Amazon iTunes

近藤真弥   Oct 25,2017 UP

 ある日、ジャスティス“Pleasure”のMVを観た。ダフト・パンクのヘルメットをデザインしたことでも知られるアレキサンドラ・コルテスによって制作されたそれは、“愛”という言語化が困難な感情をロマンティックに描いてる。互いを求めあい、気づかい、触れあうことを繰りかえすなかで愛情が最高値まで達し、最終的にはビッグバンが起こり新たな命を生みだす。言葉にするとなんて大仰なと我ながら思ってしまうが、そういうストーリーなのだからしょうがない。

 次に観たのは、カリフォルニア生まれのシンガー・ソングライター、モーゼス・サムニーによる“Lonely World”のMV。このMVは、サムニー自ら演じる男がとある惑星で人魚に出逢うところから始まる。最初は愛しあう素振りを見せる男と人魚だが、それは徐々に揉みあいへと変化し、最終的に2人は海の中に消えていくというのがおおまかなストーリーだ。筆者からするとそれは、愛が憎しみに変わっていく様を表現しているように感じられ、“Pleasure”のMVとは違う視点から“愛”を描いた作品に見えた。
 同時に思ったのは、ここ1~2年で“愛”、あるいはそれを育むための相互理解がテーマの表現が増えてきたことだった。たとえばフェニックスは、アルバム・タイトルで『Ti Amo(イタリア語で“愛してる”を意味する)』という言葉を掲げ、黒沢清監督は映画『散歩する侵略者』で愛が未来を変える可能性を示した。どうしてこのような表現が増えたのか?と考えると、反移民などを筆頭とした排斥的価値観が世界中で台頭している影響というありきたりな結論に至ってしまうが、アメリカではドナルド・トランプが大統領に選ばれ、オーストリアでは反難民を打ち出した中道右派の自由党が第1党になってしまった。こうした現実は、愛することや相互理解の意味を掘りさげた表現が増える理由としては十分すぎるだろう。

 なんてことが頭に過ぎったあと、サムニーのデビュー・アルバム『Aromanticism』を聴いてみた。ネットにアップしたジェイムス・ブレイク“Lindisfarne”のカヴァーがキッカケで知名度を高め、そのジェイムス・ブレイクやスフィアン・スティーヴンスのアメリカ・ツアーでオープニングを務めた男のアルバムだから、とても楽しみにしていた。
 端的に言うと、瞬く間に惹かれた。従来のフォークにくわえ、ソウル、R&B、ジャズ、ヒップホップといった要素がより濃くなったサウンドをバックに、中性的かつ甘美な歌声をサムニーが響かせる。2014年に発表したフリーEP「Mid-City Island」でも、ブラック・ミュージックに根ざした折衷的サウンドは見られたが、それが見事に深化していた。このことに驚いてクレジットを見ると、サンダーキャットやラシャーン・カーターといったジャズ界隈の注目株、さらにはミゲル・アトウッド・ファーガソンやキングのパリス・ストローザーというR&B/ソウル界隈のアーティストが名を連ねていた。これだけの手練れを従えていれば、そりゃあ深化するはずだと合点がいった。
 その深化をもっとも明確に示すのが、4曲目の“Quarrel”だ。サムニーの艶やかな歌声で幕を開けるこの曲は、ハープやアコースティック・ギターの静謐な音色を前面に出しているが、4:20あたりでジャマイア・ウィリアムスによるドラミングが突如始まり、スリリングな展開になる。このような挑戦的アレンジができるのも、着実に経験を重ねてきたサムニーの技量と、その技量に応えられるゲスト陣あってこそ。

 そうしたサウンドに乗せて紡がれる歌詞も面白い。“Don't Bother Calling”など、他者への目線を描いた歌もあるが、他者と交わることは決してないのだ。全編にわたって、愛することや他者と交わることの大切さは身に沁みてるのに、それをすることの難しさが横たわっている。そこに見いだせるのは、愛を知ること以上に、知ったうえで誰かにあたえることはとても難しいという事実。このような複雑さをサムニーは真摯に見つめている。
 とはいえ、そこから重苦しい雰囲気は伝わってこない。フェニックスのように前向きな気持ちで“Ti Amo(愛してる)”と叫ぶ姿はないが、複雑さを見つめることから始めるという意味では確かな一歩だからだ。そしてこの一歩は、サムニーと同じように愛することの難しさを考える人たちに寄りそう暖かみで満ちている。

 そんな本作は、“愛”を扱ってるという意味では立派なラヴ・ソング集とも言える。愛しあう喜びを歌ったものだけがラヴ・ソングではないのだ。

近藤真弥