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Home >  Reviews >  Album Reviews > Yoshimi O, Susie Ibarra, Robert Akiki Aubrey Lowe- Flower of Sulphur

Yoshimi O, Susie Ibarra, Robert Akiki Aubrey Lowe

ExperimentalFree JazzImprovisation

Yoshimi O, Susie Ibarra, Robert Akiki Aubrey Lowe

Flower of Sulphur

Thrill Jockey

disk union HMV Amazon

野田努   Mar 16,2018 UP

 今年に入ってからインプロヴィゼーションをよく聴いている。家や電車のなかで、あるいは世田谷のはずれをとぼとぼと歩きながら。すごい時代に生きているなと思う。70年代のドン・チェリーの作品、たとえば『オーガニック・ミュージック・ソサエティ』のようなカルト的な2枚組、はたまたアリス・コルトレーンが1982年から1995年のあいだに自主で(カセットテープで)リリースした作品が朝9時の京王線のなかでも気軽に聴けるなんてことは、少し前までは考えられないことだった。
 紙エレキングvol.21にも書いたように、あるときぼくは、昨年から生演奏が入った作品(新譜)をよく聴くようになっていることに気が付いた。この場合の“生”への接近には、氾濫するデジタル・サウンドへの反動的な要素も含まれているだろう。電子音は日常生活において、もはや支配的だ。家の家電から小学校のダンスや校内放送、そしてスーパーや商店街にいたるまでと、すっかり生活音化している。ゆえにアンダーグラウンド・テクノ・シーンではIDM的な不規則さのほうが支持されているのだろうし、70年代のインプロヴィゼーション的なる自由でヒューマンな精神がアクチュアルなインディ・シーンのなかに、少しずつではあるが、注目の度合いを高めているのだろう。あたかもロボット社会に戦いを挑む戦士たちのように。

 むしろそうした勇ましさから逃れるような本作は、2016年12月、NYのブルックリンにおけるライヴ録音盤で、YoshimiO、ロバート・アイキ・オーブリー・ロウ、スージー・イバラの3人によるインプロヴィゼーションの記録である。
 YoshimiOは、Saicobab、ボアダムス、OOIOOなどの活動で知られるところだが、スージー・イバラはヨ・ラ・テンゴの諸作で演奏し、巨匠デレイク・ベイリーやマーク・リボーとのコラボ作、レオ・スミスとジョン・ゾーンとのコラボ作も出しているほどの、キャリアあるフリー・ジャズ・ドラマーだ。昨年、突如デムダイク・ステアの〈DDS〉からアルバムを発表したロバート・アイキ・オーブリー・ロウは、もともとはドゥーム・メタル・バンドのOM、あるいはLichens名義で活動しながらドローンの作品を発表していることでその筋では知られている。

 で、およそ1年前の録音になる本作『フラワー・オブ・サルファ(硫黄華)』だが、いま聴けて良かったというのが正直なところで、それはたんに1年前の自分にはこの音を受け入れるほどの柔軟性がなかったのではないかと思うからだが……や、そんなことはないか、この演奏がぼくを自由気ままな旅に誘う契機となったかもしれない。全4曲、“Aaa”“Bbb”“Ccc”“Ddd”から成るこのアルバムには、他で味わえない平静さ/静寂があり、休息があり、動きがある。ばらけているようで、有機的で、ことスージー・イバラのドラミングは特筆すべきだ。彼女の間合いの取り方ひとつでも、ぼくはデジタルな生活音の外側の生活音に瞬間移動できる。
 ぼくはこの演奏を聴いて、思わず70年代初頭のヨーロッパに渡ってからのドン・チェリー作品を聴き返してしまった。スピリチュアルと呼ばれる音楽の目的とは、早い話、硬直化した心を柔らかくすることだろう。感じ方がひとつのクリシェになってしまわないように。『フラワー・オブ・サルファ』の展開には、無駄な荒々しさも、強制的な重々しさもない。アンビエントがウェイトレスなる言葉に置き換えられて広まっている今日のアンダーグラウンド・シーンの動向と共鳴しているし、IDM的な非反復的なアプローチとも重なっているわけだが、なにはともあれ、自分の心のなかに平和な場所を確保できるのが嬉しい。

野田努