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K15

Broken BeatDeep HouseJazz

K15

Speed of Life

Wild Oats

野田努 Jul 06,2017 UP

 欧米でのヴァイナル・ブームって、気まぐれな流行かと思っていたらそうでもないらしい。往年の名盤の重量級再発盤、人気アーティストの記念物的なヴァイナル化……もそうだが、ここ数年クラブの現場でヴァイナルをプレイするDJが、アメリカでもヨーロッパでも増えたとURのマーク・フラッシュは紙エレキングの取材のために答えてくれた。そーか、そうなのか。そのためプレス工場への注文がいっきに増えて、URのようなインディペンデント・レーベルのプレスは半年待たされるような事態になってしまったと。こんな状況に対してジャック・ホワイトが地元デトロイトに(デトロイトのインディ・レーベル限定の)新しいプレス工場を建てたといういい話もある。
 ぼくは今年に入ってからAppleからSpotifyに乗り換えたのだが、どうもこの手のストリーミング・サーヴィスは、作品それ自体に金を払っている感覚がないせいか、気に入った曲があっても半年後に繰り返し聴いているということがない。月額制なるシステムに違和感のある人間としては、精神的にも清々としない。便利であることは間違いないし、BGMとして聴く分にはいいのだろうけれど、音楽鑑賞を趣味の第一とする人間にはいまだ物足りないのが正直なところだ。
 もちろん自分が古い人間であることは重々わかっている。が、しかしこの古さはいま現在、新しさ/若さでもある。……なんつって、なんどか書いてきたように、ぼくは今日のインディ・レーベルは、19世紀のアーツ&クラフト運動的なるものだと考えているのだけれど、サウスイースト・ロンドンのペッカムを拠点に盛り上がっているジャズ/ブロークンビーツ/ハウスのシーンからは、魅力的な盤を作ればいまでも人は買ってくれるという信念のようなものを感じる。〈Rhythm Section International〉や〈22s〉(ないしは〈Eglo〉)がシーンの中心となるレーベルで、実際にここらから出ている作品のほとんどがクオリティが高く、まあなんというか、“良きUKらしさ”を継承しているのである。たとえは古いがローリング・ストーンズがそのデビュー曲にチャック・ベリーの当時あまり知られていない曲を選んだような、USブラック・ミュージックに対する研究心、そして模倣ではなく折衷することの面白さ──こうした伝統が確実にある。このシーンはまた90年代初頭のアシッド・ジャズとも似ている。要するに、まずは最初にUSのヒップホップありきなのだ。
 シーンの最重要人物のひとり、ヘンリー・ウー(今年に入って〈Eglo〉から出したEPも最高だった)がカニエ・ウェストを聴いて育ったように、K15も最初はヒップホップ(主にスラム・ヴィレッジやマッドリブ、ピート・ロック)から入り、UKガラージ/ドラムンベースからも入っている。それがやがてグレン・アンダーグラウンドやMAW、そして4ヒーローを知ることになり、あるいはスティーヴ・ライヒにまでその聴覚範囲を拡張している。部屋のレコード棚がひっくり返ったかのような、この雑然としたままの感覚が彼らの音源にはミックスされているわけだが、それはジャズ/フュージョンの響きを持って、(ヒップホップではなく)ディープ・ハウスと呼ばれるスタイルに落とし込まれている。ちなみにこのシーンは、ハウスのファンキーさを引き継ぎながら、直接的ではないがUSのロバート・グラスパーやサンダーキャットとも呼応している。そしてまた、少し前にnewsでも書いたように、東京の〈Soudofspeed〉や札幌のKuniyukiともリンクしている。素晴らしいことに、アンダーグラウンド・クラブ・ミュージックはいまでも風通しが良く、見晴らしがいい。

 長々と書いてそれなりの労力を使ってしまったので、以下、手短にまとめよう
 K15、名前はキーロン・イフィル。別名義はCulross Close(※バンド形態)。ヘンリー・ウーのWU15でも知られる彼の、K15名義の最新12インチ(2枚組)が本作で、リリース元はデトロイトのカイル・ホールのレーベル。K15は2014年にも同レーベルから2枚組を出している。クリスタル・ウォーターズの“ジプシー・ウーマン”をがっつりサンプリングした曲として日本でも話題になったが、この3年のあいだ、シーンはますます音楽的な艶めかしさを増している。
 ディーゴやカイディ・テイタムらが絡んでいることからもわかるように、90年代末の〈2000 Black〉周辺のブロークンビーツを彷彿させるのはたしかだが、この新世代たちには当然ダブステップ以降のビートのセンスが入っている。「Speed of Life」にもリズムの実験があるわけだが、少しでも低域を上げたら音が歪むくらいの低音、じつに硬めのキック音、アフロ・パーカッション、ジャズの香気とハウスのファンクネスは、決して後ろを振り返っていないようにぼくには感じられる。
 そして最後にもういっかい記しておくが、ネットで育った世代が、(全体からみればまだまだ少数だろうけれど)「家で聴くときはレコードだ」となっていることは面白い。だいたい音楽鑑賞の時間までスマホやPCと切り離されないなんて……そもそも健康に良くないし、ま、あと2~3年もすれば現在欧米で起きているヴァイナル・ブームが、遅れて日本にも押し寄せてくると思いますよ。

野田努