ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. R.I.P. Steve Albini 追悼:スティーヴ・アルビニ
  2. Sisso - Singeli Ya Maajabu | シッソ
  3. interview with I.JORDAN ポスト・パンデミック時代の恍惚 | 7歳でトランスを聴いていたアイ・ジョーダンが完成させたファースト・アルバム
  4. interview with Keiji Haino 灰野敬二 インタヴュー抜粋シリーズ 第3回
  5. seekersinternational & juwanstockton - KINTSUGI SOUL STEPPERS | シーカーズインターナショナル&ジュワンストックトン
  6. Natalie Beridze - Of Which One Knows | ナタリー・ベリツェ
  7. 忌野清志郎 - Memphis
  8. Adrian Sherwood presents Dub Sessions 2024 いつまでも見れると思うな、御大ホレス・アンディと偉大なるクリエイション・レベル、エイドリアン・シャーウッドが集結するダブの最強ナイト
  9. interview with Yui Togashi (downt) 心地よい孤独感に満ちたdowntのオルタナティヴ・ロック・サウンド | 富樫ユイを突き動かすものとは
  10. Claire Rousay - Sentiment | クレア・ラウジー
  11. interview with Keiji Haino 灰野敬二 インタヴュー抜粋シリーズ 第1回  | 「エレクトリック・ピュアランドと水谷孝」そして「ダムハウス」について
  12. interview with Anatole Muster アコーディオンが切り拓くフュージョンの未来 | アナトール・マスターがルイス・コールも参加したデビュー作について語る
  13. Overmono ──オーヴァーモノによる単独来日公演、東京と大阪で開催
  14. interview with Sofia Kourtesis ボノボが贈る、濃厚なるエレクトロニック・ダンスの一夜〈Outlier〉 | ソフィア・コルテシス来日直前インタヴュー
  15. 角銅真実 - Contact
  16. interview with Keiji Haino 灰野敬二 インタヴュー抜粋シリーズ 第2回
  17. Cornelius ──コーネリアスがアンビエント・アルバムをリリース、活動30周年記念ライヴも
  18. great area - light decline | グレート・エリア
  19. Columns Kamasi Washington 愛から広がる壮大なるジャズ絵巻 | ──カマシ・ワシントンの発言から紐解く、新作『Fearless Movement』の魅力
  20. Kavain Wayne Space & XT - YESYESPEAKERSYES | RPブー

Home >  Reviews >  Album Reviews > Nozinja- Nozinja Lodge

Nozinja

Shangaan Electro

Nozinja

Nozinja Lodge

Warp/ビート

Tower HMV iTunes

高橋勇人   Sep 14,2015 UP

 2年前、カリブーのレーベル〈ジャオロング〉からツォンガ・ダンスのシングル「ヘケ・ヘケ/ホザ」は出た。視聴したときにそのBPM170超えのあまりの速さと、妙なメロディ使いに面食らってしまったけれど、踊れそうとか、DJに使えそうとかそんな考えそっちのけで、何かヤバいものを感じてそのままレジに直行した。それが自分と南アフリカのプロデューサー、ノジンジャとシャンガーン・エレクトロの出会いだ。

 2004年頃からノジンジャことリチャード・ムセトワは、アフリカの伝統的な音楽&ダンス・カルチャーであるシャンガーンにミュージシャンとして関わるようになったという(もともとはダンサーだった)。もともとシャンガーンはアフリカ土着の楽器でのみで演奏されていたのだが、60年代にエレキ・ギターなどが導入され、スタジオ録音のもとエディットが施されるようになり、ゼロ年代、そこにノジンジャが先導切ってドラムマシーンやシンセサイザーを大体的に導入。そうやってシャンガーンはエレクトリックなダンス・ミュージックになった。

 ノジンジャの活動が目に止まり、2010年に〈オネスト・ジョンズ〉からジャンル最初のコンピが出て、その流れがアールピー・ブーからリカルド・ヴィラロヴォスまで参加したリミックス盤に繋がるほど、シャンガーン・エレクトロは大きなものになりつつあった。しかし意外にも今回の『ノジンジャ・ロッジ』が〈ワープ〉から発売されるまで、ひとりのアーティストによるまとまったアルバム作品が話題に上ることはなかったようだ。

 そういった背景もあり今作に対する期待は高まっていて、それに応えるように、ノジンジャはいままでのシャンガーン・エレクトロのイメージを引き継ぎつつも、歌物やギターなども取り入れ、ジャンルの世界観を更新した。
 しばし、そのリズムの速さや体を高速に動かすダンスのスタイルから、ジュークとも比較されるシャンガーンだが、この作品によって類似性よりも違いの方が顕著になったように思える。まず、キックの打ち方がぜんぜん違う。ジュークで聴けるような三連のもたつくリズムはほとんどなく、ストレートなリズム・セクションは動物の大群が坂を上から下に駆け抜けるかのような怒涛の疾走感を呈している。
 それから低音がびっくりするくらいスカスカだ。そのせいもあって、ダンサーが身にまとう衣装のようにカラフルな上モノに、リスナーの視線が完全に奪われてしまう。そこで漂うメロディはときにR&Bのようでもあり、さらにときには演歌のようでもある。
 「シャンガーン・ダンスの方がフットワークのステップより5倍は速いぜ」とノジンジャは語るが、おそらくはそういったトリックが視覚的にだけではなく、感覚的にもダンスの速度を上げているのだろう。

 この音楽がプレイされているのは、アパルトヘイト以降の南アフリカの大地だ。ノジンジャは今年45歳になる。つまり、あのとき南ア全体を覆い尽くしていた狂った装置の現状を彼は知っている。シャンガーンが政治的に社会とどのような距離にあるのかはわからないが、少なくともノジンジャは黒と白に色分けされた世界で大いに踊っていたはずである。
 ダンス・ミュージックはその歴史で多くの人びとを自由にしてきたし、シャンガーンが同じような役割を果たしてきただろうということも、容易に想像できる。そういった意味で、狂った法案が通ろうとしている日本において、ノジンジャを聴くことは実は相当にクールな体験なのかもしれない。現実に絶望するくらいならシャンガーンのスピードに身を委ねたい。というか、そうしようぜ。

高橋勇人