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Just Off

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The House Of Wasps

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松村正人   Feb 24,2015 UP

 米国生まれの漂泊のチェリスト、トリスタン・ホンジンガーはデレク・ベイリーのカンパニー、ミシャ・メンゲルベルグ、ハン・ベニンクらのICP、アレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハやペーター・ブロッツマンとのグローブ・ユニティ、セシル・テイラーの欧州グループに名を連ねる歴戦の即興者であるばかりか日本にも浅からぬ縁がある。22年前の初来日のおりの近藤等則、ペーター・コヴァルト、豊住芳三郎との『What Are You Talking About?』はこの顔ぶれからすわ、ごりごりばりばりの即興かと身がまえたリスナーをあざやかにいなすフォービートあり、歌ものあり、全員が脳天から突き抜けて裏がえしになるかのような集団即興ありの、ジャズのポストモダンうんぬんのしちめんどくさい議論する以前の奇妙でひとなつこい顔つきでひとを喰った即興カーニヴァルの趣だった。そこでのトリスタンは弦を軋ませメロディを紡ぐだけでなく、調性と常道からの逸脱合戦を近藤とくりひろげながら、狂言回しとして即興の導線をきりもりした。それはたぶん、ことジャズにおいて、チェロの構造上の特性(音域とか)とそこから導かれた役割とが、彼の生来の資質とタマゴとニワトリさがらの関係なるところから来るものでありいまもそれは変わらない、というか変わりようがないけれども変わらないからといってなにか問題でも?

 ジャスト・オフはトリスタンと千野秀一、向島ゆり子、瀬尾高志との、上述のアルバムと同じくカルテット編成だがこちらは三艇の弦楽器に千野秀一の鍵盤を加えた変則弦楽アンサンブルが基調である。表題の『The House Of Wasps』の“Wasps”はトリスタン自身ライナーで断っているとおり、ホワイト・アングロ・サクソン・プロテスタントとは関係ない。もっといえばブラッキー・ローレス率いるメタル・バンドとも(たぶん)関係ない。これはまったくの余談だから読み飛ばしてけっこうだが、私はブラッキー・ローレスは血濡れたパブリックイメージを保つためみずからヤスリで歯を削り尖らせていたとむかしものの本で読んだ憶えがある。ものすごく痛いそうだ。トリスタン・ホンジンガーは歯を削ることはないであろう。しかしながらしっかりした歯並びの間から彼の発する音楽言語はもはやトリスタン・ホンジンガー固有の独立語といえるほどのものだ。トム・コラともハンク・ロバーツともちがう。無数の記号を散りばめるのに、ネコのようの軽やかに身をかわし、毛を逆立てたと思えば日だまりに丸まって前足を舐めるような弓づかいに指づかい。朗々としたバリトンに高音の金切り声。その声音は意味を伝えるためのみにあるものではない。私たちがラッキーなのは音はどんなものであれともかくも聴けてしまう、聴いてしまうことだ。

 ジャスト・オフもまた弦楽曲の既視感を借りながら形式を断裁し、飛躍をひそませることで異化しながら曲のかもす情感にゆさぶりをかけつづけ、沖縄民謡やらキャバレー・ミュージックやらフリージャズやらがひょっこり顔を出す数分の旅路のうちに手の内に掴まえていたはずのモチーフが気づけば雲散霧消している。これを現代音楽ないしインプロにくくって知ったふうになって遠ざけるのはもったいない。前半の組曲形式に、“Ace Of Wasps”“Queen Of Wasps”“Jack Of Wasps”などの「wasp」入りの曲の数々。そこでは12本の弦と白鍵と黒鍵が追いかけっこするうちに結び目にもつれたかと思えば解けていく。もちまえのユーモア感覚こそ今回はやや抑え気味だが、大道芸人は宮廷道化師にとりたてられたからといってやることに変わりはない。だからといって彼らはトリックスターなどではない。それもまたわかったつもりになるための道具にすぎない。『The House Of Wasps』にはただ蜂(wasp)の羽音に似た唸りがあり、複雑性の謂いともいえるそれに擬態/描写するトリスタン・ホンジンガーの変わらぬ資質があり、ジャスト・オフにしかできない協奏と狂騒がある。まったく自然だ。

松村正人