ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Laurel Halo - Midnight Zone (Original Soundtrack to the Film by Julian Charrière) | ローレル・ヘイロー
  2. Columns Thundercat 来日を控えるサンダーキャット、その新作が醸し出すチルなフィーリングについて
  3. Miho Nakano and Tadekui ──シンガーソングライターの中野ミホと、いま注目の新進バンド、タデクイによるライヴが開催
  4. ボカロが世界に与えた衝撃 一億回再生の意外な背景
  5. Mamas Gun - Dig! | ママズ・ガン
  6. DADDY G(MASSIVE ATTACK) & DON LETTS ——パンキー・レゲエ・パーティのレジェンド、ドン・レッツとマッシヴ・アタックのダディ・Gが揃って来日ツアー
  7. interview with Ego Ella May ジャズとネオ・ソウルの邂逅 | エゴ・エラ・メイ、インタヴュー
  8. 菊地雅章 - 六大(地・水・火・風・空・識)
  9. 別冊ele-king J-PUNK/NEW WAVE-革命の記憶
  10. Masahiro Takahashi ──トロント拠点の音楽家、髙橋政宏による新作、共同プロデューサーはジョセフ・シャバソン
  11. Squarepusher ──スクエアプッシャーのニュー・アルバムがリリース
  12. KENNY DOPE JAPAN TOUR 2026 ——ケニー・ドープ、9年ぶりの来日決定です
  13. Moemiki - Amaharashi
  14. Masabumi Kikuchi ──ジャズ・ピアニスト、菊地雅章が残した幻のエレクトロニック・ミュージック『六大』がリイシュー
  15. Ego Ella May - Good Intentions | エゴ・エラ・メイ
  16. Interview with Tomoro Taguchi パンクって……何をやったらいいかわからない人、若い人たちにヒントと引き金を与えてくれた音楽であり、考えさせる音でしたね。
  17. Columns 3月のジャズ Jazz in March 2026
  18. Zoh Amba ──サックス奏者ゾー・アンバが〈マタドール〉と契約、ギターを手に歌う新作をリリース
  19. Ethel Cain - Perverts | エセル・ケイン
  20. WWWβ ──これは尖っている! 渋谷WWWの最深部に新たな「場」が誕生

Home >  Reviews >  Album Reviews > Just Off- The House Of Wasps

Just Off

Free JazzImprovisationJazz

Just Off

The House Of Wasps

MY BEST!

Tower HMV Amazon iTunes

松村正人   Feb 24,2015 UP

 米国生まれの漂泊のチェリスト、トリスタン・ホンジンガーはデレク・ベイリーのカンパニー、ミシャ・メンゲルベルグ、ハン・ベニンクらのICP、アレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハやペーター・ブロッツマンとのグローブ・ユニティ、セシル・テイラーの欧州グループに名を連ねる歴戦の即興者であるばかりか日本にも浅からぬ縁がある。22年前の初来日のおりの近藤等則、ペーター・コヴァルト、豊住芳三郎との『What Are You Talking About?』はこの顔ぶれからすわ、ごりごりばりばりの即興かと身がまえたリスナーをあざやかにいなすフォービートあり、歌ものあり、全員が脳天から突き抜けて裏がえしになるかのような集団即興ありの、ジャズのポストモダンうんぬんのしちめんどくさい議論する以前の奇妙でひとなつこい顔つきでひとを喰った即興カーニヴァルの趣だった。そこでのトリスタンは弦を軋ませメロディを紡ぐだけでなく、調性と常道からの逸脱合戦を近藤とくりひろげながら、狂言回しとして即興の導線をきりもりした。それはたぶん、ことジャズにおいて、チェロの構造上の特性(音域とか)とそこから導かれた役割とが、彼の生来の資質とタマゴとニワトリさがらの関係なるところから来るものでありいまもそれは変わらない、というか変わりようがないけれども変わらないからといってなにか問題でも?

 ジャスト・オフはトリスタンと千野秀一、向島ゆり子、瀬尾高志との、上述のアルバムと同じくカルテット編成だがこちらは三艇の弦楽器に千野秀一の鍵盤を加えた変則弦楽アンサンブルが基調である。表題の『The House Of Wasps』の“Wasps”はトリスタン自身ライナーで断っているとおり、ホワイト・アングロ・サクソン・プロテスタントとは関係ない。もっといえばブラッキー・ローレス率いるメタル・バンドとも(たぶん)関係ない。これはまったくの余談だから読み飛ばしてけっこうだが、私はブラッキー・ローレスは血濡れたパブリックイメージを保つためみずからヤスリで歯を削り尖らせていたとむかしものの本で読んだ憶えがある。ものすごく痛いそうだ。トリスタン・ホンジンガーは歯を削ることはないであろう。しかしながらしっかりした歯並びの間から彼の発する音楽言語はもはやトリスタン・ホンジンガー固有の独立語といえるほどのものだ。トム・コラともハンク・ロバーツともちがう。無数の記号を散りばめるのに、ネコのようの軽やかに身をかわし、毛を逆立てたと思えば日だまりに丸まって前足を舐めるような弓づかいに指づかい。朗々としたバリトンに高音の金切り声。その声音は意味を伝えるためのみにあるものではない。私たちがラッキーなのは音はどんなものであれともかくも聴けてしまう、聴いてしまうことだ。

 ジャスト・オフもまた弦楽曲の既視感を借りながら形式を断裁し、飛躍をひそませることで異化しながら曲のかもす情感にゆさぶりをかけつづけ、沖縄民謡やらキャバレー・ミュージックやらフリージャズやらがひょっこり顔を出す数分の旅路のうちに手の内に掴まえていたはずのモチーフが気づけば雲散霧消している。これを現代音楽ないしインプロにくくって知ったふうになって遠ざけるのはもったいない。前半の組曲形式に、“Ace Of Wasps”“Queen Of Wasps”“Jack Of Wasps”などの「wasp」入りの曲の数々。そこでは12本の弦と白鍵と黒鍵が追いかけっこするうちに結び目にもつれたかと思えば解けていく。もちまえのユーモア感覚こそ今回はやや抑え気味だが、大道芸人は宮廷道化師にとりたてられたからといってやることに変わりはない。だからといって彼らはトリックスターなどではない。それもまたわかったつもりになるための道具にすぎない。『The House Of Wasps』にはただ蜂(wasp)の羽音に似た唸りがあり、複雑性の謂いともいえるそれに擬態/描写するトリスタン・ホンジンガーの変わらぬ資質があり、ジャスト・オフにしかできない協奏と狂騒がある。まったく自然だ。

松村正人