ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. AMBIENT KYOTO ──2027年春、レイ・ハラカミの展示が決定
  2. ジャパニーズ・ヒップホップ第二世代──あるDJの証言
  3. Moodymann ──ムーディーマンの来日公演が決定、今年は東京と京都をツアー
  4. Arab Strap - Half-Told Tales | アラブ・ストラップ
  5. Eden Aurelius - Entre Nous / emer ft. Ugnė Uma - You and Me | エデン・オーレリウス、エメル、ウグネ・ウマ
  6. Protomartyr - Hotel Usona | プロトマーター
  7. interview with Adrian Sherwood and Nightmares On Wax UKダブ・“トーク”・セッション | ――エイドリアン・シャーウッド×ナイトメアズ・オン・ワックス特別対談
  8. ゲーセン波乱万丈の100年史
  9. Helen - Linda's Head | ヘレン
  10. 別冊ele-king パンク50周年記念号──それは何だったのか、何でありえるのか
  11. 異次元の常識──パンク/ハードコアの思想とメッセージ
  12. Marcellus Pittman ──デトロイト・ハウス珠玉の逸材、マーセラス・ピットマンの来日ツアーが開催
  13. The Alchemist ──現代USヒップホップのキーパースン、ジ・アルケミストが来日
  14. ポピュラー文化がラディカルな思想と出会うとき──マーク・フィッシャーとイギリス現代思想入門
  15. METHOD MOTEL - @名古屋・栄CENTRAL
  16. Black Marble - Life in Small Spaces | ブラック・マーブル
  17. Boy Harsher - GET MEAN | ボーイ・ハーシャー
  18. Columns ♯17:もしもパンクがなかったら ——その基礎知識と『パンク50周年記念号』刊行のお知らせ
  19. interview with Actress UKテクノ界の奇才が語るみずからの哲学 | ──アクトレス、インタヴュー
  20. ele-king vol.37 ボーズ・オブ・カナダ大研究/サイケ&ドリーミー特集

Home >  Reviews >  Album Reviews > Ariel Pink- Pom Pom

Ariel Pink

Indie RockPsychedelicPunk

Ariel Pink

Pom Pom

4AD / ホステス

Tower HMV Amazon iTunes

吉田ヨウヘイ、松村正人   Dec 11,2014 UP
12

分解してもたどりつかない魅力 吉田ヨウヘイ

 編集部の方から、「ロックの歴史性やシーンの現在に照らしたジャーナリスティックなレヴューではなく、アーティストさんの目線で」というかたちで原稿をご依頼いただいたので、いろいろ考えて「自分だったらどんな音楽に影響を受けたらこんな作品を作れる可能性があるか」ということを書きたいと思いました。

 表面的な作品の質感はちがうのですが、製作の流れや製作に向き合う姿勢はアニマル・コレクティヴの諸作に近いように思います。いちばんは、簡単なコードとわかりやすいリズムの単位で構成される、短いセクションの組み合わせで曲ができていること。あとは、ドラム、ベース、と順番に下から組み上げたのではなく、楽曲を彩るポスト・プロダクションの一部のようにそれらが存在していること。バンドでの演奏を前提とした、一貫した演奏感が一曲の中に流れていないことも共通しています。

 こういう形で曲を作ると、短い構成単位の中にどのような素材を取り込むか、がもっとも大きなポイントになると思います。アニコレやヴァンパイア・ウィークエンドなどはアフリカ的なリズムを取り込んだり、ダーティ・プロジェクターズであればアリ・ファルカ・トゥーレのようなギターを入れる、といったことをしていると思います。

 本作のアリエル・ピンクの場合、80年代的なもの、たとえばドラムの音色、演奏感、シンセの音色、エコー/リヴァーブ感などを取り入れているのが顕著です。2曲めや4曲めがわかりやすいかなと思います。こういう音は一般的に「時代遅れでダサい」と言われがちで、作品の質感を安っぽくしやすいので、扱うのが難しいです。でもアリエル・ピンクの場合、その安っぽさを前面に出して、露悪的な感じのサウンドを作ることを自身の特徴にしているように思います。

 60年代〜70年代初頭のロック、サイケデリックロックのようなサウンドも(ほかの作品でも顕著ですが)多いです。ドアーズのようなキーボードの音色があったり、1曲めの1分くらいからはじまるセクションはラヴィン・スプーンフルの“ドゥ・ユー・ビリーヴ・イン・マジック(Do You Believe In Magic)”のサビ前のパートのようだったり。8曲めはタイトルからしてビーチボーイズ風のサーフィン/ホットロッド路線。
 60〜70年代前半のサウンドと、80年代サウンドは曲によってパッキリ別れているというわけではなく(別れている曲もありますが)、同じ楽曲の上でレイヤーされています。

 ここまではアリエル・ピンクが「素材として取り入れているもの」を考えてみたのですが、そもそものミュージシャンとして資質、たとえば短い時間でなんとなく弾き語りやジャム・セッションをすると作りがちなメロディやサウンド、という視点で考えると、(僕の知ってる範囲では)ピーター・アイヴァースに近いのかなと感じます。僕にかぎらず、ピーター・アイヴァースをお好きな方であればそう感じる方が多いんじゃないでしょうか(そもそもは坂本慎太郎さんと何か近いな~と感じていて、その後「ああピーター・アイヴァースか」、と思うようになりました)。

 マスタリングやポスト・プロダクションで生み出している質感は、才気あふれる近年のUSインディ・バンドと共通するものだと感じます。なので、取り入れている素材は古いものが多い一方で、きわめて現代的な感性を持ったミュージシャンだと思います。

 以上をまとめると、ピーター・アイヴァースのような才能が、アニコレのような折衷感覚で、60〜70年代前半、80年代などのサウンドを折り込むとこういう感じ、という作品になります。……と、頑張って書いてみたものの、これを踏まえればアリエル・ピンクみたいな作品ができる、とはぜんぜん思えないです。すいません。

 この作品(に限らず多くの優れた作品に共通するものかもしれません)の素晴らしさは、目のつけどころのよさや、素材選びの新鮮さ、組み合わせの妙、といったところにはありません。たとえば、「60年代と80年代のサウンドの質感をレイヤーする」といったこと(意識的に取り組んではいないと思いますが)は、逆にけっこう平凡なんじゃないかとも思います。

 なのでこの作品の素晴らしさは手法やコンセプトといったものではなくて、アリエル・ピンクの、素材や表現に対する深い愛着、音楽への妥協のない姿勢、製作中に注いだ集中力、完成までにかけた長い時間などが、結果的に人の心を打つ表現に昇華されている、ということだと思います。各要素を分解して成り立ちを掴んだとしても、アリエル・ピンクと同じような気持ちで作らないと、このような名盤にはならないはずです。音楽性はちがっても、自分のバンドのアルバム制作はそのような姿勢で取り組みたいと刺激を受けます。

 個人的には2曲めがいちばん好きで、1分8秒からはじまるパートのストレートなわかりやすさにぐっときました。それ以外のパートが禁欲的な美学で貫かれているからこその良さだと思います。

吉田ヨウヘイ

12