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interview with Ásgeir

interview with Ásgeir

買い物はやめてたまには宇宙を見上げてみよう

──アイスランドのシンガーソングライター、アウスゲイルの新作

質問・序文:木津毅    通訳:竹澤彩子   Nov 29,2022 UP

 冬の寒さが恋しくなる感覚。以下のインタヴューでアウスゲイル・トロスティ・エイナルソンはアイスランド人の気質について取るに足らないこととしてそう語っているが、実際、彼の音楽はアイスランド人に限らないあらゆるひとにそんな感覚を喚起させるところがある。冷たい空気を肌に感じながら壮大な自然の風景を眺めるような、あるいは暖かい部屋のなかから外に降る雪を見つめるような。ある意味、わたしたちが漠然と抱いているアイスランドのイメージを衒いなく引き受けているからこそ、アウスゲイルは世界中のリスナーに親しまれてきた。


Ásgeir
Time On My Hands

One Little Independent / ビッグ・ナッシング

Folk-PopIndie Pop

Amazon Tower HMV

 アウスゲイルは言うならば10年ほど前にボン・イヴェールがやっていたことをもっともキャッチーに試みたひとで……もっと言えばある種のMORとして展開した人物で、いまやビョークシガー・ロスと並んでアイスランドでもっとも有名なポピュラー・ミュージシャンのひとりである。穏やかなメロディを持ったフォーク・ソングを、アコースティックとエレクトロニックをスムースに融合させた幽玄なサウンドでじっくり聴かせる。彼が面白いのはそこにエゴがあまりないところで、北米のメインストリームで流行したプロダクションも積極的に取りこみつつ、透明感のある歌声と切なげなメロディをすんなり聴ける形で届けてきた。アイスランド語での表現も大切にしつつ、英語版を多くリリースしてきたのも、より多くのひとに自分の歌に触れてほしいという素朴な想いの反映のように感じられる。
 アコースティック・ソングで統一されたEP「The Sky Is Painted Gray Today」(2021)を挟んで通算4枚目となるアルバム『Time on My Hands』は、どちらかというとオルタナティヴな志向を持った音楽からの影響があるようだが、実験性が歌の整ったフォルムを崩すようなことはなく、相変わらず聴き手にすっと馴染む優しい歌を並べている。今回こだわったというシンセ・サウンドもあくまで柔らかく、凝ったブラスのアレンジも自然にフィットしている。その完成度は素直に過去最高と言っていいものだ。
 彼のエゴのなさは歌詞を他者に預けてきたことにも表れていたが、作品を重ねるごとに少しずつ内面を表現することも増えてきた。そのなかで示されるのは、自然を敬う気持ちであったり周囲の人間を慮ることだったりと慎ましいものだが、その飾らなさこそがこの殺伐とした時代には貴重なもののようにすら思えてくる。
 パンデミックによって穏やかな内省どころか、氾濫する不確かな情報やSNSで顕在化する対立(というか罵り合い)のせいでさらに心が痛めつけられたひとも多いだろう。自己隔離期の孤独のなかから生まれたという『Time on My Hands』は、こんなときだから自分自身を見つめようと、そんなきわめてシンプルな想いに貫かれている。最終曲となる清廉なフォーク・ソング “Limitless” で歌われるのは、必要のない買い物はやめてたまには宇宙を見上げてみようという……、たったそれだけの提案だが、わたしたちはそんなこともすっかり忘れてしまっていた。アウスゲイルがいま紡いでいるのは、寒い冬だからこそ感じられる温かさを取り戻すための音楽である。

シンセサイザーみたいな夢のある楽器だと想像力が無限に膨らんでいくような感覚にさせてくれるからね。

あなたはアルバムを重ねるごとにサウンド・プロダクションの幅を広げてきたミュージシャンで、新作『Time On My Hands』は何よりもプロダクションがさらに洗練されたアルバムだと感じました。前作『Bury The Moon』から2年でEP「The Sky Is Painted Gray Today」のリリースがあったので比較的コンスタントに楽曲を発表している印象ですが、前作からはどのように過ごされていたのでしょうか? ツアーやフェス出演以外は楽曲制作に集中していたのでしょうか?

アウスゲイル:うん、そう、ここ3年くらい精力的に作品を出してる形ではあって……とはいえ「The Sky Is Painted Gray Today」は、じつは『Bury The Moon』よりもずっと前に完成していた曲なんだ。ただ、最終的にはアルバムからは外すことになり、なんとなく流れ的にアルバムとは別の形で発表しようということになって。それで今回の『Time On My Hands』は、言うならば、自分にとってのパンデミック禍の作品って感じかな。制作期間もコロナのロックダウンと重なってるし、この2年間ひたすらこの作品に集中していたので……だから、制作開始時期としては2020年はじめになるのかな? 僕もほかの多くのひとたちと同様、ツアーもライヴも一切できない状態で、ほかにやることもないしスタジオに籠ってひたすら曲作りに明け暮れてたんだ。昔からスタジオでいろんな楽器だの音だのを試すのが好きで、今回時間的にも余裕があったものだから、ますます夢中になってしまってね。それは今回の音にも滲み出てると思うし……スタジオでワクワクしながら楽しんでる雰囲気が伝わってくるといいな、少なくとも僕の願いとしては。だって、本当に楽しかったから。それこそシンセだの何だのスタジオ中にある楽器をいじり倒してさんざん実験したという感じだったから、そのワクワクする感じが音から伝わってくるといいと思う。

EP「The Sky Is Painted Gray Today」は『Bury The Moon』以前に書かれた曲だったんですね。大きく言ってあなたはアルバムごとにエレクトロニック・サウンドを緻密にしていったと思うのですが、EP「The Sky Is Painted Gray Today」がアコースティックかつフォーキーなサウンドだったので不思議に思っていました。

アウスゲイル:ハハハ、それもあるし、僕の脳味噌の構造もおそらく関係してるんだろうね……あっちゃこっちゃ飛んで前進しては後戻りを繰り返し、結果、だいぶとっ散らかったことになってしまう(笑)。アコースティックな音に心酔している時期もあれば、スタジオでただひたすらPCに向き合ってエレクトロニックな音にのめりこんでる時期もあったりするからね。

ちなみにこの2年間はどのようにお過ごしでしたか? かなり特殊な時期にあったわけで、その経験が今回のアルバムに反映されてる部分もありますか?

アウスゲイル:言うまでもなく、誰もがみんなこの2年間いろんな楽しみを奪われてきたわけで……とは言いつつ、自分自身は、そこまで厳しい隔離生活は経験してなくて(笑)。ただ、ほかにやることもなく、自然と音楽に向き合う時間が増えていって、いくつかの場所を転々としながら曲作りに励んでいた。とはいえ、家族や友人と少なからず距離を置かなくちゃいけない状況ではあったし、基本的には孤立した状態であって……たしかにそれがつらくなるときもあるけど、ただ僕自身に関して言うなら孤独への耐性が強いというか、むしろ得意なくらいなんじゃないかと思うくらいで(笑)。自分自身と向き合う時間も必要なので。だから、孤独自体はそれほどつらくなかったんだけど……ただ、それよりも日常生活を送る機会を奪われていた状態のほうが大きかったかな。僕自身の実感としては……普通に何気ない日常生活を送っていくなかで自分がいま生きていることを実感するとか、普段の何気ないちょっとしたことからインスピレーションが開かれていくみたいな機会がだいぶ失われてしまったとは思う。とはいえ、この時期、自分の日常の一部としてスタジオで作業することが組みこまれていたから、そこでだいぶ救われてたのかもしれない。そこで長年いっしょにやっているプロデューサーと会ったり、ほかにも何人かと会える環境にはいたんで、ずっとひとりで家に閉じ籠っているわけではなかったし。そこでプロデューサーといっしょにさんざんいろんな話をしてね。それこそ曲のアイデアや歌詞やありとあらゆる話題について。それからふたりしてたくさん音楽を聴いたんだ。そのときふたりで話していたことを今回のアルバムに最大限に活かしていこうとしてたんだ。

僕の場合、つねに音楽が最初にあって後から歌詞をつけるスタイルなので、その曲が何を伝えてるのかはたいていの場合、音のなかに答えがある。その曲でフォーカスすべき感情だとか、少なくとも大まかな歌詞の指針はすべて音が教えてくれる。

それでは『Time On My Hands』について聞かせてください。今回のアルバムはシンセサイザーのサウンドがキーになったということですが、何かシンセの楽器としての魅力を再発見するようなことがあったのでしょうか?

アウスゲイル:というか、昔からシンセサイザーのサウンドに惹かれていたのもあったし、それこそ自分がミュージシャンとして活動するようになってから、ここ10年間ずっと同じスタジオと専属のふたりのプロデューサーといっしょに作業させてもらってるんだけど、そこに古いシンセサイザーが何台もあってね。最初に目にした瞬間から魅了されてしまって、以来、昔から僕の作品作りにはシンセが何らかの形で関わってきてはいるんだよ。でも、今回のアルバムに関してはそれがさらに顕著に出てて……というのも、スタジオ付きのシンセの修理工がいて、現場にありとあらゆる種類のシンセサイザーが大量に持ちこまれてたんだけど、実際に売りに出す前のメンテナンス中のシンセをいろいろ試させてもらったり、それで気に入ったものは売りに出す前に譲ってもらったりしてね。今回のアルバム制作期間中にいろんなシンセサイザーに触れることができて、実際、何台か購入するまでに至ったし、そうでなくても単純に新たな楽器に触れることのワクワク感や、そこから受けるインスピレーションもあるし……とくにシンセサイザーみたいな夢のある楽器だと想像力が無限に膨らんでいくような感覚にさせてくれるからね。

本作のサウンド・プロダクションにおいては、とくにアコースティックとエレクトロニックをいかにスムースに融合させるかがポイントになっていると思います。あなたはモーゼズ・サムニーの作品からの影響をすでに語っており、それはわたしにも非常に納得いくものでしたが、モーゼズ・サムニーの作品群からもっとも刺激を受けたのはどのような部分でしたか?

アウスゲイル:そう、どこかのインタヴューで引き合いに出して以来、今回モーゼズ・サムニーについてよく訊かれるんだけど……、アイデアの流用ではなくあくまでもインスピレーションだと、僕自身は解釈してる(笑)。具体的にはモーゼズ・サムニーの “Rank&Fire” (2018年のEP「Black In Deep Red, 2014」収録曲)なんだけど、あの曲のなかで彼がまるで自分の声をメインのベース代わりに使っててね。その手法を今回 “Golden Hour” って曲に応用してるんだよ。それで引き合いに出したという……うん、一番直接的に刺激を受けた曲でいったら明らかにあの曲になるのかな。

ほかに、サウンド・プロダクションにおいて参照点になったアーティストや作品は具体的にありますか?

アウスゲイル:今回のアルバムで自分がなんとなく目指してた方向に近い音楽をいろいろ聴いてて……カリブーの『Suddenly』とか、あのアルバムのなかでダン・スナイスがシンセサイザーとエレクトロニック・サウンド中心に風景を描いていくんだけど、そこにアコースティックな音も鳴っていて、それが見事なまでに調和してるんだよね。それからキャロライン・ポラチェックもよく聴いてたな……。あとはフィービー・ブリッジャーズのよりフォークでオーガニックな感じの音とか、自分ももともとはそっち系なんだけど、それを今回エレクトロニックな音と掛け合わせてみたくてね。あとはブレイク・ミルズとかビッグ・シーフあたりなんかもね。

また、本作はブラスのアレンジメントが過去もっとも完成度の高い仕上がりだと思います。ブラスにはゲスト・ミュージシャンが参加していますが、そのアレンジメントはどのようなアプローチで取り組んだのでしょうか?

アウスゲイル:ブラスに関しては、じつはアルバムがだいぶ完成に近づいたところで思いついたんだ。全部の曲を完成してからも今回のアルバムにブラスを使うかどうか正直迷っていて、でも迷うくらいなら一度確認してみようということで、ブラスを入れることで今回のアルバムにどういう味つけがなされるのか試してみようということで。今回長年いっしょにプレイしている3人のブラス奏者を呼んでいるんだけど、そのうちのひとりがアレンジャーでもあってね。基本的にはその彼に全部丸投げで、好きにしてくれていいよと。というか、毎回そうやってるんだ。ブラス奏者がスタジオにやってきて好きに演奏してもらったなかから自分がいいと思う音を選り分けて編集していくという。だからまるまる削除してしまうこともあればコピー&ペーストでそのまま引用することもあるし、毎回それでうまくいってるんだよ。ブラスに関しては信頼してるアレンジャーに完全に任せてるし、そうやって自由にのびのびやってもらうほうが、かえっていいような気がしてね。実際、それで毎回素晴らしい出来に仕上げてくれるんだから。

猛暑と極寒のどちらがマシか? って質問されたときアイスランド人ならほぼ間違いなく極寒って即答するはずだよ(笑)。熱さが苦手すぎて逆に冬の寒さが恋しくなるほどで(笑)。毛布に包まれてぬくぬくと暖を取ってる感覚が懐かしくてたまらなくなる(笑)。

“Snowblind” ではリズミックなパーカッションやシンセのリフもあってダンサブルな曲ですね。リード・シングルということもあり、本作のある側面を象徴する楽曲だと思うのですが、ダンス・ミュージックやクラブ・ミュージックからも刺激を受けたのでしょうか?

アウスゲイル:もちろん! 今回の曲のなかにもいくつかそのへんの影響を感じさせる曲があって……まあ、いわゆるポップ・ミュージック全般だよね。もともとはそっちのイメージで動いてたんだ。よりアップビートでポップな音にしようということで……だから、あの曲もかなり初期の頃に書いたもののひとつで、それで今回リード・シングルに選んだんだよね。このアルバムの元になるイメージを象徴しているということで……少なくとも最初に目指していた方向性に関しては(笑)。それがレコーディングを進めていくなかでどんどん変化していって、もはや最初の頃のアップビートでポップな作品っていうアイデアはどこへやら? っていう……でもまあ、人生って往々にしてそういうものだよね(笑)。

アップビートなポップからの影響でいうと例えばどんなものから?

アウスゲイル:アイスランドでは超ビッグなバンドなんだけど、昔からガスガス(GusGus)の大ファンで……ガスガスって日本で知ってるひとっているのかな?

通訳:もちろんです!

アウスゲイル:そう、ガスガスとか、あとはカインドネスとか好きで。……ただ、ある特定のひとのファンっていうよりは、曲ごとに「あ、これ好き」みたいな感じで脈絡もなく、それこそ普通にラジオなんかから流れてくる超メジャー級のポップ・ソングを聴いて「あ、いいな」って思ったり。それとアルバム作りを開始した当初はツアーから帰ってきたばかりのタイミングで、その流れで自然とアップビートな曲に気持ちが向いていたのかもね……そっちのほうがお客さんもワーッと盛り上がるしステージで演奏してても明らかに楽しいので。だから、最初はまだ頭のなかがまだライヴのモードに引っ張られてたんだろうね。

質問・序文:木津毅(2022年11月29日)

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Profile

木津 毅木津 毅/Tsuyoshi Kizu
ライター。1984年大阪生まれ。2011年web版ele-kingで執筆活動を始め、以降、各メディアに音楽、映画、ゲイ・カルチャーを中心に寄稿している。著書に『ニュー・ダッド あたらしい時代のあたらしいおっさん』(筑摩書房)、編書に田亀源五郎『ゲイ・カルチャーの未来へ』(ele-king books)がある。

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