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interview with Ásgeir

interview with Ásgeir

買い物はやめてたまには宇宙を見上げてみよう

──アイスランドのシンガーソングライター、アウスゲイルの新作

質問・序文:木津毅    通訳:竹澤彩子   Nov 29,2022 UP

今回は英語版のみで、アイスランド語ヴァージョンはなしなんだよ。(でも)なぜアイスランド語で歌うことが重要なのか? アイスランド語で歌うほうが自分にとっては自然なので……って、そんなのわざわざ言うまでもないけども(笑)。

あなたはキャリア初期には歌詞を書くことに遠慮があると話していたと思います。新作でもお父さまやバンド・メンバーなど何人かと共作になっていると思うのですが、あなた自身は以前より歌詞によりコミットするようになったのでしょうか?

アウスゲイル:そうだね、以前よりもずっと自信がついたというか……今回さらに一歩踏みこんでもっと自分自身の言葉を深く掘り下げてみたいと気持ちが芽生えてきて、実際そういうことに挑戦してみたという。ここまで時間をかけてじっくりと歌詞に向き合うことは自分にとってははじめての経験で、ものすごく苦労したんだけど、そのぶん学びも多かったし、これからもっと深く追求していきたい。過去に何年も何人かの書き手と歌詞を共作してきた経験からの学びもあって、自分なりのペースというか歌詞へのアプローチみたいなものが身についたこともあるし、いままさに自分自身の言葉で語り出す時期に来ているんじゃないかと。いま自分は30歳になって、以前よりももっと言いたいことがあるような気がして……20歳そこそこの頃はまだそのへんがボンヤリしてたけど、いまはそこをもっと突きつめてみようと、せめて言葉にする努力はしてみようと思ってるんだ。

たとえば今回のアルバムでは歌詞を通して何を伝えようと思いましたか?


Ásgeir
Time On My Hands

One Little Independent / ビッグ・ナッシング

Folk-PopIndie Pop

Amazon Tower HMV

アウスゲイル:そのへんは曲ごとに違ってて。というのも、僕の場合、つねに音楽が最初にあって後から歌詞をつけるスタイルなので、その曲が何を伝えてるのかはたいていの場合、音のなかに答えがある。その曲でフォーカスすべき感情だとか、少なくとも大まかな歌詞の指針はすべて音が教えてくれる。だから、あらかじめ言いたいことがあって曲を書くんじゃなくて、書きながら自然に湧いて出てくるもので……それと今回曲作りにあたってピートル・ベンというアーティストとかなり密に作業してるんだけど、彼自身もシンガーソングライターで、地元で歌詞や詩の創作について講座を持ってたりするんだよね。自分もそれに興味があって、ぜひ一度歌詞や創作についてのアドバイスをもらえないかな程度の気持ちで会ってみたら意気投合してね。そのままいっしょに曲作りに関わってもらうことになったんだ。だから、今回の曲の歌詞はほぼほぼ彼との共作であり、ふたりでいっしょに曲を聴いたときに思い浮かんだことや話し合ったことについて、お互いの頭のなかにあるイメージを出し合ってそこからふたりしていっしょに思い描いていったものなんだ。

ご家族と表現活動をともにするには、家族としての繋がりだけでなく個人の表現者としての相互のリスペクトがないと難しいと想像します。お父さまで詩人のエイナル・ゲオルク・エイナルソン(Einar Georg Einarsson)さんの表現のどのようなところを尊敬していますか?

アウスゲイル:本当に素晴らしいアーティストとして尊敬してるよ。僕が最初に曲を書きはじめたのが多分、12、13歳ぐらいなんだけど、子どもの頃から家のなかのあちこちに真っ白なノートが散乱してて、そこに書きつけられたいくつかの言葉を歌詞に転用したりしてね。それもあって自分は将来的にこれをやっていくんだろうなあ、つまり、父親の詩に曲をつけるということをやっていくんだろうなって、少なくとも僕自身の意向としては父親の作品を元にいっしょに何したいという気持ちがあったし。もともと兄がHjálmarっていうレゲエ・バンドをやってて、そのなかで父の詩を曲に引用したのを見てきたのもあって。

通訳:「ヒャルマー」ですか?

アウスゲイル:そう、ちなみにアイスランド語で「ヘルメット」っていう意味なんだ。レゲエ・バンドなんだけど。

通訳:知りませんでした、しかもレゲエとは意外な。

アウスゲイル:ハハハ、アイスランドではすごく有名なバンドなんだよ。とはいえ20年ぐらい前の話だけど、アイスランドの代表的なアーティストとしていまでも人気があるんだよ。その兄のやってるバンドの曲に父が作詞してたこともあって、その縁でほかのいろんなアイスランド人アーティストの曲の作詞を手掛けてきたりという流れがあるので。父は82歳になるんだけど、いまだに現役の詩人として創作活動に打ちこんでいるんだから、本当にものすごいことだと思うよ。

ちなみに、わたしの手元にある資料ではクレジットにジョン・グラントの名前が見当たらないのですが、今回、英語詞に彼は参加していないのでしょうか?

アウスゲイル:そう、今回ジョン・グラントは参加してないんだよ。

つねにありとあらゆる情報にさらされて脳味噌がバグ状態にある気がして、そっちのほうが恐ろしくなることもある。これだけ悲惨なニュースが起きているのに何とも思わないこと自体が、これがあまりにも常態化しまっているということで。

あなたはワールドワイドに知られる存在ですが、そんななかでアイスランドのミュージシャンという意識は強くなっていますか? それともあまり変わらないものですか?

アウスゲイル:たしかに外国に行くと自分の国との違いを感じるけど……一応、外国に行くときにはいったんアイスランドの常識を外して、その国の作法や文化に従おうとはしてて、ちょうど少し前にライヴでイタリアにいたばかりなんだけど、イタリアではコーヒーを飲むにも作法があるらしくて、それ関連の本を読んで事前に勉強したりとか……そういうことじゃなくて?

通訳:たとえば一歩海外に出ると基本まわり全員自分にとっては外国人なわけで、そのなかで自分がアイスランド人だと自覚する場面はありますか?

アウスゲイル:あー、なるほど、面白い指摘だな……自分もそうだけど、アイスランド人って、控え目というかシャイだってことを実感することはよくあるよ。直近でイタリアに行ってたからそのギャップで余計にそう感じるのかもしれないけど、イタリアではそこが本当にダイレクトなんだよね。相手の反応なんておかまいなしで思ったことをズバズバ言う、みたいな。それってアイスランド人の感覚からしたら慣れないことで、むしろ、いったん自分のなかに収めるんだよね。そのまま内に秘めておく感じというか……酒が入るとそこが完全に崩壊してしまうんだけど(笑)、そんなところもいかにもアイスランド人らしいなあと(笑)。あと、すごくどうでもいい基本的なところで、気温差に関してとか……猛暑と極寒のどちらがマシか? って質問されたときアイスランド人ならほぼ間違いなく極寒って即答するはずだよ(笑)。僕自身、アイスランド国外に出るようになってから、つくづく熱や湿気に弱い人種なんだと感じさせられることが多々あって(笑)、熱さが苦手すぎて逆に冬の寒さが恋しくなるほどで(笑)。毛布に包まれてぬくぬくと暖を取ってる感覚が懐かしくてたまらなくなる(笑)。

日本のミュージシャンには、世界で知られるために英語で歌うべきか、それとも日本語で歌うべきか迷うひとたちが少なくありません。あなたはこれまでアイスランド語のヴァージョンをリリースしていますが、あなたにとってアイスランド語でも歌うことはなぜ重要だったのでしょうか?

アウスゲイル:とはいえ、今回は英語版のみで、アイスランド語ヴァージョンはなしなんだよ。それまで英語とアイスランド語の2パターン出してきたけど、それが大変になってきて……みんな絶対にどちらか一方のほうが好きで、「そっちじゃないほうが聴きたかったのに」ってガッカリするリスナーがいたり、演奏する側からしても単純に歌詞だけでも覚える量が倍になるわけで、自分の手に負えなくなってしまって(笑)。今回からは最初からひとつに絞って、そちらを完成形ヴァージョンということにしようと。だから、アルバムを英語からアイスランド語にまるまる翻訳し直す代わりに、今回のアルバムとはまた別にアイスランド語オンリーの作品を出すかもしれないし……なぜアイスランド語で歌うことが重要なのか? アイスランド語で歌うほうが自分にとっては自然なので……って、そんなのわざわざ言うまでもないけども(笑)。地元のアイスランドのひとたちも基本アイスランド語ヴァージョンしか聴いてないし、そっちのほうに耳が馴れてるせいで、僕が英語で歌ってるものにはほぼ無関心だし。それとアイスランド語で歌うときは父親の詩をそのままの形で使うことができるから。英訳してしまうと細かなニュアンスを捉えるには限界があるからね。

デビュー作から10年経ちますが、その間であなたがミュージシャンとしてもっとも成長したと感じる部分はどんなものでしょうか?

アウスゲイル:それを言い出したら、すべてにおいてってことになるんだけど。ただ二兎を追う者は一兎をも得ずで、何しろ尋常ではない数のライヴをこなして年中ツアーに出てる状態なので、ツアー中はとにかく目まぐるしくて曲を書こうっていう気分にはならないんだ。少なくとも僕の場合はね。最初何年間はツアー中に一切曲作りはしてなかったし、一日中音楽漬けの生活でせめてプライヴェートでは音楽からは解放させてくれという気持ちで(笑)。あとは細かなところで、ここをもうちょっとああすればよかったなあ、とかはちょいちょいあるし……ただ、そこも自分なりに改善してきたつもりだしね。あとは人生全般っていうところでも何だろう……昔に比べてだいぶ自分に余裕ができてきたのかな。こんな自分にも世界に対して何かしらできることがあるんだと思えるようになった。ライヴを観に来てくれるお客さんの姿を見ると、本当にしみじみそう思うしね。わざわざお金を払って遠くから観に来てくれたんだから、だったら自分からも何かお返ししなくちゃと、僕にできることがあるのなら、と。それと昔に比べて物怖じしなくなったし、それは自分に自信がついた証拠であり……うん、そこがいちばん成長を感じるところだね。

いまちょうどツアー中だと思うのですが、新作からの楽曲の演奏に手ごたえを感じていますか?

アウスゲイル:すごくいい感じだよ、ほんとに。ちょうどヨーロッパを3週間ツアーしてて、新曲でもシングルの何曲かはすでに出てるけど、まだ表に出てない曲の反応も良くて、みんな聴き入ってくれてね。それにバンドである僕たちのほうもすごく楽しい、新曲を演奏できる喜びと興奮で浮足立ってるよ。今回のアルバムの曲はライヴに還元しやすいのもあって、いままででいちばんライヴをやってて楽しいかもしれないよ、本当にそんな感じの曲なので。うん、だいぶいい感じだよ。

あなたの音楽は怒りや苛立ちなどアグレッシヴな感情やフィーリングではなく、つねに穏やかさやピースフルな感覚を追い求めているように感じられます。音楽において、あなたはなぜ激しさよりも穏やかさに惹かれるのでしょうか?

アウスゲイル:何でだろう……。たぶん、自分の元々の性格がそうだからもあるのかな……それが音にも出てしまってるというか。それと自分の音楽の好みもあるのかもしれない。昔から優しい気持ちになる音楽に惹かれてきたし、それに心を動かされてきた。心が静かになるような、メランコリックな感情が自分のなかではいちばん響くんだよね。それが自分の隅々にまで染みこんで、もはや一体化してるというか、これからもつねに自分の音楽の一部としてずっとあり続けるものだと思う。ただ、今回のアルバムでも “Snowblind” みたいなポップでアップビートな曲を作るのも好きなんだよ。ただ、どんなにポップな曲をやったところで、ベースになってるトーンは変わらず穏やかな状態で、どこか悲しげで憂鬱ですらあって……たとえばあの曲からドラムビートを抜いたら、如実にそれが明らかになると思うし、それがつまり僕の音ということなんじゃないかな。

たとえば現在のインターネット社会では情報が溢れていますし、心を動揺させるニュースも過剰にありますが、そんななかで、精神を穏やかに保つためにもっとも重要なことは何だとあなたは考えていますか?

アウスゲイル:もちろん、僕だって怒りや苛立ちを感じることもあるし、それこそパンデミックだの戦争だのいま世界で蔓延っている悪や不正に対して普通のひとと同じようにフラストレーションを抱えてる。しかも、きみがいままさに言った通りに絶えずニュースや情報が入ってくるわけで……それ自体がまた新たな問題の種で、あまりにもそれが日常化しすぎてもはや何の感情も動かなくなってるような……それこそつねにありとあらゆる情報にさらされて脳味噌がバグ状態にある気がして、そっちのほうが恐ろしくなることもある。これだけ悲惨なニュースが起きているのに何とも思わないこと自体が、これがあまりにも常態化しまっているということで。ただ、そういったこととは別にして、自分の元からの性格として激高したり怒りを露わにするタイプではないというか……もしかしてそれが問題で、いつか何十年か後にこれまで抑えこんでた怒りが突如として爆発するかもしれない(笑)……これはよろしくないね(笑)。ただ、日常的に走ったりジムに行ったり身体を動かしてるので、それである程度解消してるのかもしれない。運動が身体だけじゃなくてメンタルの健康にも役立ってるような……少なくとも自分にとっては効果があるんだよ。自分が心穏やかに保つために何かしてるかで思いつくとしたら、本当にそのくらいだよね……日々のエクササイズによってバランスを保ってる。

通訳:今日はどうもありがとうございました。来日を楽しみにしています! ご予定などありますか?

アウスゲイル:じつはあるんだよ(笑)、いま調整中だから楽しみにしておいて。

質問・序文:木津毅(2022年11月29日)

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Profile

木津 毅木津 毅/Tsuyoshi Kizu
ライター。1984年大阪生まれ。2011年web版ele-kingで執筆活動を始め、以降、各メディアに音楽、映画、ゲイ・カルチャーを中心に寄稿している。著書に『ニュー・ダッド あたらしい時代のあたらしいおっさん』(筑摩書房)、編書に田亀源五郎『ゲイ・カルチャーの未来へ』(ele-king books)がある。

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