Home > Interviews > interview with Sleaford Mods - アップデートする、21世紀のモッズ
モッズというのはいつだって真実を伝える連中だった。だから俺は自分のバンドに「モッズ」の単語を含めた。自分たちもその同じ流れに沿っている、俺はそう思ったから。
■スリーフォード・モッズのサウンドスケープを拡張するというのは──『Key Markets』以降、確実にその幅は広がってきていましたが──意識的でしたか? スリーフォード・モッズの音楽はそぎ落とされたミニマルなものになりがちですが、今回はもう少し聴き手に緩衝材を与えている気がします。
JW:ああ、そこは確実にそうだ。思うに、俺は……どう言ったらいいのかな、これまでよりもう少し層の重なった、もうちょっとカラフルなものにしたかったんだ。
■ちなみに、アンドリューがひたすらチープな機材を使って音楽を作っていますが、それは高価な機材でしかモノを作らないことへの反論なのでしょうか?
JW:そうは言っても、ここ数年で奴の機材の幅は間違いなく以前より広がったと思うけどね。でも、あいつは以前「ACID」っていうソフトを使ってビートを作っていたはずで、っていうかいまも使ってる(笑)。だから、そうね、あいつはこう……効果音だとか、奇妙なサウンドだのに入れ込んでるんだよ。で、それらを入手するのには、そんなに大枚はたかずに済むわけじゃない?
あいつのいま使ってるセットアップも、かつてに較べりゃずいぶんでかくなった。ただ、それでもあいつはいまだに、歌にビート/音楽を組み込む際は最小限の要素みたいなものにしか頼らない。あいつも近頃じゃ、いくつか良質な機材の一式をいつでも使えるよう、手元に揃えたがるようになってるけども。
■スリーフォード・モッズはある意味、音楽を作ることに、音楽界にインパクトを与えるのに大金を費やす必要はないという、その好例じゃないかと思うんですが。
JW:そうそう、その必要はまったくない。俺たちはそういうのに興味なし。とにかく俺たちは大抵ミニマルにまとめているし、アンドリューはそれにうってつけなんだ。というのもあいつの音楽は、たとえばソロでやってるExtnddntwrk(=extended network)にしても、どれも一種の音のランドスケープ、サウンドスケープ郡みたいなことをやっているし、やっぱりミニマルなわけで。だからほんと、あいつのやることはそこと完璧にマッチするんだ。
■Extnddntwrk名義の作品は、じゃあよくご存知なんですね。彼のアンビエントな側面もお好きですか?
JW:ああ、もちろん! 好きだしいいと思う。もっとも、あれは自分が普段聴くような類いの音楽じゃないけども。だから、そんなに聴かないけど、ちゃんと評価はしてる(笑)。
■ ちなみにアンビエントの巨匠イーノに関してはどんな印象をお持ちですか?
JW:ファンではないな。(苦手そうな表情を浮かべて)全然好きじゃない。でも彼は、俺のハマってる連中の多くにすごく影響してきた人なわけだよね? テクノだとか、エレクトロニカ全般なんかに多大な影響を与えてきた人だとされているけれども、俺自身は一切影響を受けてない。彼にはまったく興味を惹かれたことがないな、うん、それはない。だってさぁ、あのみてくれだぜ(と、頭を丸めた坊主頭のジェスチャーをする)? でかい頭で、すげえ妙なルックスでさ。フハッハッハッハッ……!
■(苦笑)。いや、イーノはあなたと同じようにコービン支持者ですし、政治的には共感できるんじゃないかなと。
JW:(真顔に戻って)ああ、うんうん、それはもちろんだよ。だから要は、俺はあの手のミュージシャンにエキサイトさせられることはまずない、ってこと。いつだってもっとこう、ストリート系な、「ウギャアアアァァッ!」みたく騒々しいバンドなんかの方に感心させられるっていうか、そういうのなら「おう、よっしゃ!」とそそられるっていうさ。
■2020年にはこれまでのキャリア総括盤『All That Glue』も出しましたし、自分たちを振り返る時間もあったかと思います。
JW:(うなずいている)
■あらためてスリーフォード・モッズの原点を、あなたが友人のサイモン・パーフと2006年か07年あたりにこのプロジェクトをはじめた、その当初のコンセプトを教えていただけないでしょうか?
JW:あれは本当に……いま君たちが耳にしているもの、そのごくごくベーシックなヴァージョンだったんだ。当時の俺たちは他の人間の作った音楽をループして使っていた、という意味でね。
■(笑)無断サンプリングしていた。
JW:(苦笑)そう! で、俺はとにかく……そのループにシャウトを被せていただけで。個人的な実体験の数々、酔っぱらった経験や失敗談、アルコールとドラッグへの依存、セックスとか、まあ何でもいんだけど、そういった事柄すべてについて語っていた。いまやそこは変化したけどね、それとは別のことを俺は歌ってる。ただ、それらは人生のなかのごくちっぽけな立ち位置/存在の観察だ、というのは常にあって。で、それが念頭にありつつも──うん、昔の自分の怒号ぶりを思うと、いまよりもうちょっと早口でまくしたてていたしラウドだったし、たまに自分で制しきれなくなることもあり、実はそんなによくはなかった、みたいな? だからとにかく、いまやっていることと基本的には同類の、でもその初期ヴァージョンだった、という。
■スリーフォード・モッズは、モッズと言いながらいわゆるモッズ・サウンドではありません。ポール・ウェラー的なネオ・モッズ、あるいはスモール・フェイセズといったタイプの音楽ではないわけですけど、そもそもなぜ「モッズ」を名乗ることにしたんでしょう?
JW:それは、俺たちは基本的に──いやまあ、俺自身はモッズ的なものには入れ込んでるんだけどね。あれは常に俺の興味をそそってきた。で、俺のモッズ観は、あれは他の何よりも際立つことができるものだ、ということで。もしもバンドがモッズなるものをばっちりモノにできれば、そいつらは他の何よりも抜きん出ることができる、みたいな。というのも、モッズ(モダーンズ)というのはいつだって真実を伝える連中だったし、クリエイティヴィティに対してもっとずっと正直なアプローチをとってきた連中なわけで。だからなんだ、自分たちのバンド名に俺が「モッズ」の単語を含めたのは。自分たちもその同じ流れに沿っている、俺はそう思ったから。
■で、今回のアルバムの“Nugde It”の歌詞は興味深いなと。
JW:へえ、オーケイ。
■あれはスリーフォード・モッズの現在の立ち位置を歌っていると思いますよね。で、スリーフォード・モッズに対する評価に対しても苛立っているように読めるのですが、もしそうだとしたら、これはどういうことなのでしょうか? ちょっと説明をお願いできますか?
JW:あの曲で言わんとしているのは、異なる生い立ちを持つ連中がいかにして、実際にその経験がないくせに自分たちとはバックグラウンドが違う者たちの物真似をしているか、ということだね。そうやって物真似することで、彼らは自分たちをもっとエッジーに、あるいは実際より興味深いものに見せようとしている、という。で、多くの場合、人びとはその点に気づいてすらいないわけ。そういった連中は、自分たちがやっているのは本当はなんなのかすら考えずに、他の人びとのユニフォームを借り着してるっていう。俺は、それってマジに無礼な侮辱だと思う。かつ、その物真似を鵜吞みにして支持する人間が山ほどいるって事実、それに対しても本当に怒りを感じる。そういうことをやってるバンドのいくつかは、とんでもなく人気が高いわけだろ? というわけで、あの曲で取り上げているのはそういうことだね、「階級見学ツアー(class tourism)」みたいなものについてだ。
(※ここでジェイソンの話しているのは、上流・中流・下層と階級が分かれる英国で、上位に位置する人間が不思議がりときにバカにする意味合いで一時的に=物見遊山で立ち寄るごとく下層階級のファッションやスラングやカルチャーを真似する行為を指す。「貧民見学ツアー」を意味するpoverty safariというタームもある)
だから、お前さん自身は繫がっていない、お前さんには実体験の一切ない、そういう人びとだったり彼らの生き様をお前は物真似しているんだろうが、と。お前がそれを利用するのは、そうやって真似ることで自分をパワフルに見せたいだけだろ、と。
■──それは、アイドルズみたいなバンドのことですか?
JW:ああ、まったくねぇ! うん、そう。
■ソーシャル・メディア他であなたと彼らとのビーフが広まりましたよね。先ほどもおっしゃっていたように、アイドルズはいますごい人気ですけれども──
JW:(苦虫をかみつぶしたような表情で)ああ。
■あなた自身は彼らの言うことは信じていない、と。
JW:信じないね。なんて言えばいいのかな、「学が足りない/ちゃんと勉強してない」っていうの? 一元的で浅薄だし、中身がまったくない。とにかくやたらポーズばっか、と。で、いまって本当にひどい時期なわけだし、「自分は生きているんだ」と実感できるような何かを求めるわけだろ。これは俺個人の思いだけど、ああしたかっこつけやポーズから、俺はそういう感覚を受けないんだ。
■ちなみに、主にCD-R作品を出していた初期のことをわたしは「スリーフォード・モッズMK.1」あるいは「Ver.01」と捉えているんですが──
JW:ああ、うん。
■で、アンドリューが加入し、いわば「スリーフォード・モッズ Ver.02」がはじまった、と。そのブレイク作である『オースタリティ・ドッグズ』以降とでは、音楽への向かい方はどう違っていますか?
JW:うん、変化したね。絶対にそう。だから……質問は、俺の音楽に対する姿勢がどう変化したか、ということ?
■ええ。基本は変わっていないと思うんですが、『オースタリティ・ドッグズ』を境に、それ以前に較べてもうちょっとプロっぽくなった、「これは自分たちのキャリアだ」と考えはじめたんじゃないかと。そこで、音楽作りや作詞へのアプローチは変化しましたか?
JW:ああ、なるほど。うん、変化した。それは、さっきも話に出たマルクーゼみたいな人の考えだとか、現代世界に対する様々な類いの批評等に触れたことが影響しているんだと思う。
それと同時に、俺自身のなかで育ち続けている、「自分はこの世界のどこに位置してきたのか」みたいな意識/目覚めもあるんだ。自分という存在はこの世界でどんな意味を持ってきたのか? 自分は自分にとってどんな意味があるのか? 自分は何を学んできたんだろう? と。ぶっちゃけて言えばケアしているのは唯一それだけ、ほんと、成功と物質的な豊かさに伴うあれこれがひたすら重要な世界のなかで、自分はこれまでどんな人間として生きてきたのか、そうしたすべてをひっくるめたあれこれが、『オースタリティ・ドッグズ』を作った後で、よりはっきりしたものになりはじめていった。
■それだけヘヴィになった、とも言えますね(苦笑)。
JW:ああ、もちろん! そりゃそうだって。歳を食えば食うほど、たくさんのことがかなり、こう……だから、ドラッグだのセックスだの、そんなんばっかの人生なんざもうご免だ、タイクツなんだよ! って風になり出すもので。それらがやがて問題になってくるし、となると自分の人生からその要素を取り去るよう努力する他なくなる。いや、セックスは残しておいていいな、タハッハッハッハッハッ! ただまあ、ドラッグ摂取/飲酒等々の問題面は取り除こうぜ、と。
アルコールとドラッグのツケは、最終的に非常に大きく俺に回ってきたから。あれを乗り越えるのには本当に長くかかった。で、そうしていったん克服してみると、この世界は自分にどんな意味を持つのかという面に関して、これまでとは違う物事が作用してくるようになって(※数年前からジェイソンは飲酒もドラッグも断っている)。
というわけで、スリーフォード・モッズに備わったメッセージはある意味『オースタリティ・ドッグズ』以降も変わっていないんだけど、ただそのコンテンツは常に変化し続けている。
■スリーフォード・モッズは、マルクス主義者やフランクフルト学派を研究するような知識人からも評価されていますよね。個人的には興味深く思っているのですが、こうした左翼的な分析に関しては、あなたはどんな感想をお持ちでしょうか?
JW:彼らの分析には大いに賛成だ。もっとも、自分を左翼人だとは思っちゃいないけどね。でも、右翼じゃないのは間違いない。
■(笑)それはありがたい!
JW:(爆笑)。うん、ああした分析は好きだよ。インテリの立場にいる人たち、おそらく俺も興味を抱くであろう、そういう人びとが俺たちのやっていることをすごく気に入ってくれてるのはいいことだと思ってる。
序文・質問:野田努(2021年1月14日)