ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. PAS TASTA - GRAND POP
  2. Columns Squarepusher 蘇る00年代スクエアプッシャーの代表作、その魅力とは──『ウルトラヴィジター』をめぐる対話 渡辺健吾×小林拓音
  3. PAS TASTA - GOOD POP
  4. Columns エイフェックス・ツイン『セレクテッド・アンビエント・ワークス・ヴォリューム2』をめぐる往復書簡 杉田元一 × 野田努
  5. Tyler, The Creator - Chromakopia | タイラー、ザ・クリエイター
  6. Jabu - A Soft and Gatherable Star | ジャブー
  7. Tomoyoshi Date - Piano Triology | 伊達伯欣
  8. Shabaka ──一夜限り、シャバカの単独来日公演が決定
  9. interview with Kelly Lee Owens ケリー・リー・オーウェンスがダンスフロアの多幸感を追求する理由
  10. interview with Loraine James 路上と夢想を往復する、「穏やかな対決」という名のアルバム  | ロレイン・ジェイムス、インタヴュー
  11. DUB入門――ルーツからニューウェイヴ、テクノ、ベース・ミュージックへ
  12. Columns Nala Sinephro ナラ・シネフロの奏でるジャズはアンビエントとしての魅力も放っている
  13. 工藤冬里『何故肉は肉を産むのか』 - 11月4日@アザレア音楽室(静岡市)
  14. Columns 11月のジャズ Jazz in November 2024
  15. 音楽学のホットな異論 [特別編] アメリカの政治:2024年に「善人」はいない
  16. aus, Ulla, Hinako Omori ──インスタレーション「Ceremony」が東京国立博物館内の4つの茶室を舞台に開催
  17. People Like Us - Copia | ピープル・ライク・アス、ヴィッキー・ベネット
  18. 変わりゆくものを奏でる──21世紀のジャズ
  19. interview with Squarepusher あのころの予測不能をもう一度  | スクエアプッシャー、トム・ジェンキンソン
  20. VMO a.k.a Violent Magic Orchestra ──ブラック・メタル、ガバ、ノイズが融合する8年ぶりのアルバム、リリース・ライヴも決定

Home >  Interviews > interview with Acid Mothers Temple - アシッド・マザーズ物語

interview with Acid Mothers Temple

interview with Acid Mothers Temple

アシッド・マザーズ物語

──河端一、超・超ロング・インタヴュー

大久保潤    撮影:小原泰広   Apr 30,2013 UP

ただフロムジャパンのバンドが来たっていうだけで。15年前だったらフロムジャパンというだけでも対バンもつくしお客も入ってたけどいまはもうそういう時代じゃないんで。昔は日本のバンドは全部面白いと思われてたんですよ。それがいっぱい行くようになって、面白くないバンドもいるということがバレたんよ。

日本人は音がデカいって話もよく聞きますよね。

河端:デカいし、耳栓しないでしょ。向こうは客もエンジニアも演奏するやつもみんな耳栓するから。それは目が弱いからグラサンしないとあかんのと一緒で、たぶん耳栓もしないとあかんのやと思う。もしかしたら、耳栓しても俺らくらいに聞こえてるのかもしれない。もともと感度が良すぎて補聴器つけてるような耳なのかもしれんわね。だってボリューム2くらいで練習しててもみんな耳栓してるもん。ライヴハウスで耳栓売ってるしね。

ああ。

河端:テリー・ライリーの70歳の誕生日ライヴに呼ばれたことがあって、『In C』を演奏したんやけどね。とりあえずギター・アンプを3台用意してもらって。それで俺らの前にテリー・ライリーが演奏して、俺らのライヴの番になったらアナウンサーが「次はアシッド・マザーズ・テンプルです。ただいまホールのロビーで耳栓を配っています」言うたら殺到して(笑)。耳栓をもらい損ねた人はトイレットペーパー詰めてて。それで最初にドローンでしばらくグワーってやってから『In C』のタラッタラッってところに入るんやけど、その時点で客が半分以上帰ってた(笑)。

ええー?

河端:現代音楽のコンサートなんで。半分はアシッド・マザー目当てのヒッピーやんか、もう半分はネクタイ締めたお客さんで。ネクタイ締めた人は全部帰って、ヒッピーおやじだけが全部前にやってきてハイドパーク踊り状態(笑)。テリー・ライリーもライヴ前は仲良く喋ってたのに、終わったら口もきいてくれない(笑)。

向こうはいわゆるクラシックとロックとかが完全に分かれてますもんね。

河端:テリー・ライリーも最初は「僕の曲を演奏してくれてありがとう」とか言うてたのが、アルバムとライヴが違いすぎて。俺のギターソロもそうなんやけど、アンビエントに聞こえるみたいやね。CDやと。

まあ小さい音で聴けばそうかもですね。

河端:ライヴのときにあんな爆音でやってるとは思えへんから。それは「グレッグ・レイクのバラードが雷鳴のように聞こえた」っていうのの延長なんよ。アンビエントのように聞こえるけど爆音でやってるていう。
 ノイズのライヴとか行くとすごく静かに聞こえて寝てしまうんよ。それに近い恍惚感みたいなものを自分のライヴにも期待してる部分もあるね。録音物はアンビエントに聞こえるけど、それを爆音でやることによってノイズの向こうにある無音みたいなものが出たらいいなと。それをちっこい音で演奏してしもたらそれはただのほんまにちっこい音やからね。

ドローンみたいなのもやはり中学生の頃からの延長というか。

河端:やってますね。ハーシュノイズみたいなのがあんま興味なかったので。中高生の頃もエフェクターを発振させるだけ。ピーって発振させてるのをずっとほっとくとすこしずつ変わったりもするから、それで20分録音したりとか。ドローンもそうやな、小学校のときに「驚異の世界」とかいうドキュメンタリー番組があって。それでインドが舞台のドキュメンタリーを見たときにインド古典音楽を演奏しているシーンがあって。それが妙にぐっと来たんやね。その後探したときにも、楽器とかも最初からシタールではないなと。俺が気持ちよかったのは何やと思ったらタンブーラだったんやね。基本的にビヤ~~ンていってるやつ。それでインド音楽が好きって話をした時に「何が好きなん?」て聞かれて「タンブーラ」って答えたら、「あれは楽器じゃないやろ」みたいな。シタールとかリード楽器が演奏している下でずっと鳴ってるだけの楽器やからね。そういうふうに基本的にドローンみたいなものには反応してたんやね。

そう考えるとすごく一貫してますね。

河端:変わってないね、進歩がない。

これまでの経歴を追っていくとえろちかだけちょっと浮いてる感じはしますけど、それでもなんか東洋的な旋律みたいなものの取り入れ方は共通してるかなと。

河端:例えばビートルズでもね。リバプールの港町にアメリカの音楽が入ってきたと。そこでそういうアメリカのリズム&ブルースとかにリバプールのもってる民謡みたいなメロディを重ねていったのがビートルズ・サウンドなわけやんか。それと同じように、日本のロック・バンドがかっこ悪い理由っていうのは、フラワー・トラベリン・バンドでもなんでもそうやけど、リズムを導入するからかっこ悪いんやと。ロックでかっこいいのはどっちかというとリズムやから、ロックのリズムに日本のメロディを乗せればええ。和音階を乗せても、あのドンタカタッタみたいなリズムでなければカッコ悪いことにはならないんで。あれをやってしまうと間抜けに感じるでしょう

そうですね。

河端:フラワー・トラベリン・バンドでもチャクラとかでも、好きは好きやったけど、やっぱ間抜けやないですか。その極みが竜童組みたいなもんで。あんなふうにならないように、和風のメロディとアメリカのリズムという組み合わせにしてるわけですよ。

日本の要素を導入しようとするとどうしても祭囃し的な感じになりがちですもんね。

河端:あと和楽器を使わない。和楽器を使うと外人がやってるみたいになるんやね。どう考えたって三味線とか琴とか尺八とか入れたってかっこ良くなるとは俺には思えないから。シタールとかならまだ魔術があるけど、和楽器を入れてもロック的にあまりかっこよくない。それなら普通にギター、ベース、キーボード、ドラムでやったほうがかっこええかなと。えろちかは、そういう意味では自分のなかで何か日本人にしかできないロックを作ろうとちょっと無理したんよ。その反動でまた元に戻った、原点に(笑)。

東洋的な旋律はでもアシッド・マザーにも入ってますよね。

河端:それは多分血ですよ。子供の頃とかよくあることで、ピアノの前に座って弾けもしないのに適当に弾くと絶対日本っぽくなるでしょ。そこで例えばジャズみたいにはならないし、ヨーロッパのものにはならないやん。
 えろちかはそれをかっこ悪いと思わないようにしようということで、出てきたメロディをかっこわるいと思わず、これこそが自分のメロディなんやから、それにかっこいいリズムを乗せればいいと。
 アシッド・マザーもたぶん白人とかに聞いたら日本的な曲なはずや。それはブリティッシュロックを聞いたらやっぱりブリティッシュロックに聞こえるし、アメリカのロックでも西海岸のやつならカリフォルニアの音がしてるし。ジャーマンロックはやっぱり同じプログレでもジャーマンな感じやん。言葉は関係なく。体質みたいなのはやっぱ音楽に反映されるから。
 だから俺らが日本人でロックをやってても、外人が聞いたらどこか日本っぽく聴こえるはずなんよね。ペンタトニックでブルースギター弾いたって日本っぽく聴こえると思う。だからわざわざ日本のものを加える必要はなくて、はじめから出汁の匂いがしてるんや(笑)。昔アンコールで"ルシール"をやったことがあって。

リトル・リチャードの?

河端:そう。ディープ・パープルもやってるしね。それで初めて来た客が終わってから「キミらの音楽を初めて観たけどよかった。とくにルシールが良かった」と言ってて。それまでやってた曲は、日本人がやってる音楽やからいいか悪いかよくわからない。でも最後のルシールは自分も知ってる曲やし、ほかのミュージシャンがやってるものいろいろ聴いてる。ああいう曲をやると、違いがよくわかると。

知ってる曲が違う風に演奏されてると。基準ができるというか。

河端:それで「君たちの音楽は素晴らしいと思う」と。そういうことで理解がしやすいみたいやね。アシッド・マザーなんかは普通にベタなサイケロックをやってるわけやけど、どこかでやっぱり日本ぽさがあるんだと思う。メロディにしてもギターソロにしても、どこかで出てしまうことはあるやろ。でもそれは別に血で持ってるもんでしょ。フランス人はどうしてもあの変なフレンチポップみたいなややこしいコードが入るコード進行になったりね。たぶんあの人達にはあれが普通なんやろ。東欧とか行くとどうしてもあの東欧的な感じが出て来るしね。

取材:大久保潤(2013年4月30日)

Profile

大久保潤大久保潤/Jun Okubo
1975年東京生まれ。書籍編集者として菊地成孔・大谷能生『東京大学のアルバート・アイラー』、佐々木敦『「批評」とは何か』、『アメリカン・ハードコア』『ブラック・メタルの血塗られた歴史』、ミック・ファレン『アナキストに煙草を』などを担当。ポストパンクバンド「大甲子園」、即興ドゥームロックバンド「Filth」、即興ハードロックバンド「Filth Iconoclast 666」等のギター。
ブログ:http://www.noiznoiznoiz.com

INTERVIEWS