ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. 異次元の常識──パンク/ハードコアの思想とメッセージ
  2. ジャパニーズ・ヒップホップ第二世代──あるDJの証言
  3. Moodymann ──ムーディーマンの来日公演が決定、今年は東京と京都をツアー
  4. Arab Strap - Half-Told Tales | アラブ・ストラップ
  5. AMBIENT KYOTO ──2027年春、レイ・ハラカミの展示が決定
  6. interview with Adrian Sherwood and Nightmares On Wax UKダブ・“トーク”・セッション | ――エイドリアン・シャーウッド×ナイトメアズ・オン・ワックス特別対談
  7. Protomartyr - Hotel Usona | プロトマーター
  8. Eden Aurelius - Entre Nous / emer ft. Ugnė Uma - You and Me | エデン・オーレリウス、エメル、ウグネ・ウマ
  9. Marcellus Pittman ──デトロイト・ハウス珠玉の逸材、マーセラス・ピットマンの来日ツアーが開催
  10. Helen - Linda's Head | ヘレン
  11. 別冊ele-king パンク50周年記念号──それは何だったのか、何でありえるのか
  12. METHOD MOTEL - @名古屋・栄CENTRAL
  13. ゲーセン波乱万丈の100年史
  14. DREAMING IN THE NIGHTMARE 第2回 ずっと夜でいたいのに――Boiler Roomをめぐるあれこれ
  15. ele-king vol.37 ボーズ・オブ・カナダ大研究/サイケ&ドリーミー特集
  16. The Alchemist ──現代USヒップホップのキーパースン、ジ・アルケミストが来日
  17. 細野晴臣 - Yours Sincerely | Haruomi Hosono
  18. Columns ♯17:もしもパンクがなかったら ——その基礎知識と『パンク50周年記念号』刊行のお知らせ
  19. interview with Actress UKテクノ界の奇才が語るみずからの哲学 | ──アクトレス、インタヴュー
  20. Dusty - Dusty & Friends / Commodo - Deep Harbour ft. Alfa Mist / Untold - False Vacuum

Home >  Columns > 冴えわたるベンジー・Bのセンス- ──ルイ・ヴィトン最新コレクションの音楽に注目

Columns

冴えわたるベンジー・Bのセンス

冴えわたるベンジー・Bのセンス

──ルイ・ヴィトン最新コレクションの音楽に注目

文:米澤慎太朗 Jul 02,2019 UP

 2019年6月20日、ルイ・ヴィトン、メンズの2020春夏コレクションが発表された。ランウェイの舞台はドフィーヌ広場、「少年時代の楽しみ」をコンセプトとし、会場の外観は春の訪れを感じさせる濃い緑で統一された。ラッパーのオクテヴィアン、ブラッド・オレンジのデヴ・ハインズ、クリス・ウー、スワエ・リー(Swae Lee)といったミュージシャンもランウェイを歩き、話題を集めた。ヴァージル・アブローがアーティスティック・ディレクターを務め、ミュージック・ディレクターを務めるのはベンジー・B。本稿ではこのランウェイで使われた音楽をレヴューした。

 一聴してわかるが、2020SS のコレクション音楽の主役はヴァイオリンだ。ヴァイオリンを主役としつつ、シンセサイザーやサンプリングが絡み合った音楽がヘリテイジ・オーケストラによって再解釈されて演奏される。パリという都市で、ヴァージルのもつサンプリング・再解釈・再構築といった彼の理念を表現しようと思ったとき、ベンジー・Bはヒップホップだけでなくジャズ、コンテンポラリー・クラシック、グライムといった様々な現代的な要素を織り交ぜ調和させることを選んだ。

 演奏を手がけたのはUKのジュールス・バックリーとクリストファー・ウィーラーによって設立されたオーケストラ「The Heritage Orchestra」。ジャイルス・ピーターソン のフェスティヴァル出演、BBC Live Lounge の演奏を務めるなどBBCとの関わりも強く、ピート・トン(Pete Tong)とのコラボレーション・アルバムでは、イビザ・クラシックスを再解釈したアルバムを発表している。

Max Richter - Spring 1 (Four Season Rework)
 コンテンポラリー・クラシックの音楽家、マックス・リヒターが手がけた「春」、この曲がランウェイ全体の文脈を作り上げ、雰囲気をセットしている。マックス・リヒターは66年ドイツ生まれ、英国育ちのコンポーザーで、クラシックとエレクトロニクスを結びつけた音楽性で注目を集め、映画音楽なども手がける。人気を得たのは2018年に公開された映画『メッセージ』で使用された“On the Nature of Daylight”、そしてこの曲で使われたのはヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲「四季」をリメイクした『Recomposed by Max Richter: Vivaldi – The Four Seasons』(2012)より“Spring 1”だ。

《四季》の原曲の楽譜を検討した結果、リヒターは既存の音源を使うのではなく、音符単位でリメイクしたほうがと判断。その結果、原曲の75%にあたる素材を捨て、残りの25%の素材に基づきながら新たに楽譜を書き下ろし、ヴァイオリン独奏と室内アンサンブルで演奏可能な“新作”を完成させた
* https://www.universal-music.co.jp/max-richter/products/ucch-1037/

 印象的なヴァイオリンのフレーズは原曲の音符をつなぎながら、再構築されており、確かに原曲の雰囲気を踏襲しているものの異なった響きを得ている。さらにヴィヴァルディの原曲と異なるエッセンスとして、Moog シンセサイザーのベースラインが敷かれている。ヒップホップとは異なる形で、サンプリング・再構築・コラージュといったアプローチが表現されているといえるだろう。

Arthur Verocai - Sylvia
 ブラジルのサイケ・レアグルーヴと呼ばれるアルトゥール・ヴェロカイの1972年リリースの2ndアルバムより。2016年にリイシュー盤が発売されている。ヒップホップとのつながりといえば、リュダクリス、カレンシー(Curren$y)、スタティック・セレクター、スクールボーイ・Qといったラッパーが2000年代中頃にこぞって同曲が収録されたアルバムからサンプリングしたことだ。この曲でも、ホーン使いにはむしろその頃のヒップホップ・チューンを連想させられた。

Arca - Wound
 アルカのアルバム『Xen』より。Xジェンダーやフェミニズムといったモチーフを加工した声によって表現する。原曲では重低音とシンセ、そしてヴァイオリンが鳴らされている。「I am not the wound type」というアルカのメッセージこそ演奏されないものの、性を超えた多様性への目配せがあるのだろう。

Nick Drake / Andy Bay - River Man
 UKのシンガーソングライター、ニック・ドレイクによる“River Man”のアンディ・ベイによるアレンジカ・カヴァー。ここでもギターの後ろでヴァイオリンが奏でられている。ここで、この会場となったドフィーヌ公園自体がパリのセーヌ川の三角州に位置していることと、この曲のタイトル「River Man」とは情景のレヴェルでつながっているはずだ。

Slum Village - Fall in Love
 NYのジャズ・ピアニスト、ギャップ・マンジョーネの“Diana in the Autumn Wind”をサンプリングしたJ・ディラ・プロデュースの1曲。ベンジー・Bの頭の中にはジャズ・ミュージシャン=アンディ・ベイのカヴァーからの、ジャズ・ピアニストの音楽をサンプリングするという連想があったのかもしれない。このランウェイの中でもっとも普通に北部のクラシックなヒップホップであるが、弾き直されることで雰囲気を変え、ランウェイの雰囲気とよくマッチさせている。

Treble Clef - Ghetto Kyote
 UKのグライム・アーティスト=トレブル・クレフ(Treble Clef)による2000年代のインスト・グライム・クラシック。原曲のチープなサンプルベースのヴァイオリンの原曲をオーケストラで再現することでクラス感を醸し出している。ランウェイではフランス移民の出自をもつUKのラッパー、オクテヴィアンが映され、UKのサウンド・カルチャーの新旧世代がランウェイでコラボレーションした瞬間だった。

Tyler, the Creator - Igor’s Theme
 カルフォリニア発のコレクティヴ=オッド・フューチャーのタイラー・ザ・クリエイターの最新作、『 IGOR』のテーマ。「彼がこの街にやってくる」(あるいは裏側の意味としては、「この曲に集中しろ」という言葉が鳴り響いている)というメッセージが鳴り響き、コラージュ的なサウンドスケープが展開された原曲。演奏はヴァイオリンを軸にシンプルなインストゥルメンタル。

 一聴すると、パリ・ヨーロッパという文脈に合わせて、ヴァイオリンという楽器の共通点のみでジャズ、コンテンポラリー・クラッシック、グライムをごちゃごちゃと混ぜているように見える。しかしリサーチを重ねていくと、選曲の裏側にサンプリング・再構築・コラージュといったヴァージル・アブローの基本哲学が透けて見えるのが、このランウェイの面白さであった。

Profile

米澤慎太朗 米澤慎太朗
1992年、東京生まれ。グライムプロデューサーデュオ「Double Clapperz」のメンバーとして都内を中心に活動中。また音楽批評を中心に文筆活動を行っている。 twitter : https://twitter.com/djsinta

COLUMNS