ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. interview with Actress UKテクノ界の奇才が語るみずからの哲学 | ──アクトレス、インタヴュー
  2. 細野晴臣 - Yours Sincerely | Haruomi Hosono
  3. Brian Eno ──ブライアン・イーノがレーベル〈Opal〉を再始動、あわせて00年代の2作品がリイシュー
  4. Loraine James ——ロレイン・ジェイムズの新作、突如のリリース(しかも無料DL)
  5. Klara Lewis - Opening | クララ・ルイス
  6. 別冊ele-king パンク50周年記念号──それは何だったのか、何でありえるのか
  7. Future Sound of Jazz ——蘇る「フューチャー・ジャズ」、ドイツの〈Compost〉の人気シリーズが16作目
  8. interview with Wendell Harrison 音楽の楽園=デトロイトから、ウェンデル・ハリソンがファラオ・サンダースとサン・ラーの思い出を語る
  9. R.I.P. 鷲巣功
  10. Dusty - Dusty & Friends / Commodo - Deep Harbour ft. Alfa Mist / Untold - False Vacuum
  11. ele-king vol.37 ボーズ・オブ・カナダ大研究/サイケ&ドリーミー特集
  12. RYUICHI SAKAMOTO + SHIRO TAKATANI AMBIENT KYOTO - TOKYO -
  13. Kim Doeon - SLAPSTICK | キム・ドオン
  14. Haruomi Hosono ──細野晴臣のドキュメンタリー映画が公開
  15. R.I.P. Miru Shinoda 追悼:篠田ミル
  16. This Is Lorelei - The Singer in My Band | ディス・イズ・ローレライ
  17. Tohji - angel
  18. Cornelius - Refractions | コーネリアス
  19. interview with Toshimaru Nakamura 世界を魅了する、類い稀なる電子音響 | ──中村としまる、待望の初期ベスト盤リリースと超ロング・インタヴュー
  20. interview with Kinnara : Desi La 「アートによって、私は世界に満足できるようになりました。アートが、私の孤独の多くを壊してくれたのです」 | ──緊那羅:デジ・ラ、インタヴュー

Home >  Reviews >  Album Reviews > Tyler, The Creator- IGOR

Tyler, The Creator

Hip HopR&B

Tyler, The Creator

IGOR

Columbia

Spotify iTunes

大前至   Jun 06,2019 UP

 前作『Flower Boy』から2年ぶりにリリースされた、タイラー・ザ・クリエイターにとって初となるビルボードの総合アルバムチャート(Billboard 200)1位に輝いたニュー・アルバム『IGOR』。このチャート1位という結果は、彼自身がいまのアメリカの音楽シーンを代表する存在という証(あかし)でもあるが、一方で他のメインストリームのヒップホップとは一線を画するように、彼自身の音楽性はより独自な方向を突き進み、本作によってひとつ頂点を極めている。

 タイラー自身が全曲プロデュースを手がけるトラックは、イントロ曲の“IGOR'S THEME”や、続く先行シングル曲“EARFQUAKE”に象徴されるように、シンセサイザーを多用したメロディアスで重厚なサウンドが軸となっており、さらにラップよりも歌やコーラスにウェートが置かれているのも大きな特徴でもある。タイラー本人以外には曲ごとにフィーチャリングのクレジットは一切ないものの、リル・ウージー・ヴァート、プレイボーイ・カルティ、ソランジュ、サンティゴールド、カニエ・ウェスト、シーロ・グリーン、ファレル・ウィリアムといった錚々たるメンツがラップ、ヴォーカル、コーラスなど様々な形で参加しており、エフェクトを駆使しながら、まるで楽器のひとつかのように彼らの声を自在に操り、見事に自らのサウンドの中へ取り込んでいる。

 恋人との別れや三角関係がアルバムのテーマになっており、ある意味ヘビーな部分もありながら、同時にタイラーならではのユーモアも存分に盛り込まれているのは言うまでもない。全部で40分未満とコンパクトなサイズの中で、しっかりとコンセプトとストーリーが組まれており、それがアルバム全体の完成度を高めている大きな要因にもなっている。

 いまやラッパーが歌うのは当たり前であるし、ヒップホップとR&Bの境目が非常に曖昧な時代でもある。しかし、このアルバムの奥底に存在しているのは、完全にヒップホップだ。それはアルバム前半でやたらと強調されているアナログ盤のプチプチと鳴っているノイズであったり、“WHAT'S GOOD”にて響き渡るストレートなBボーイブレイクにも感じるし、あるいは本作のリリース時に話題となった“GONE, GONE / THANK YOU”の後半部分での山下達郎“Fragile”の引用(サンプリングではなく、山下達郎の歌詞とメロディをアレンジして歌い直している)という手法にもヒップホップ・アーティストならではセンスが伺える。しかし、それらはあくまでも表面的なわかりやすいヒップホップ感でしかない。それ以上に重要なのが、決して音楽としての美しさや格好良さだけを追求しているのではなく、何らかの歪(いびつ)さがサウンドやヴォーカルの中に盛り込まれ、結果的にそれらの要素が作品の魅力を別のベクトルへと導き、ヒップホップとしても完結させているように思う。

 タイラー・ザ・クリエイターというひとりのアーティストだけなく、ヒップホップ・シーンが今後、どのように進んでいくべきかの指針にもなるようなアルバムであり、ぜひ、頭から最後までじっくりと通して聴いてもらいたい作品です。

大前至