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木津 毅、野田 努    Jul 25,2013 UP
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ハウスの時代 木津 毅

 ときどき、何かを思い出したようにようにブリアルの最初期のシングル"サウス・ロンドン・ボローズ"を聴くことがある。ガラージのビート、重々しいダブ・サウンド。ここから始まったものが変化し、拡散し、いまやダブステップと呼ばれるものがかつてのダブステップと違ってきていることは知っての通りだが......ビート・ミュージックにおけるこの10年の最大の成果であるダブステップの精神のそのすべてが、それでもまだそこにあるように思うのだ。いまだに僕は、その生々しい迫力を簡単に聞き流すことができない。
 その南ロンドンで生まれたローレンス兄弟は兄のガイが91年生まれ、弟のハワードが94年生まれ。"サウス・ロンドン・ボローズ"の時点で14歳と11歳かそこらである。音楽にもっとも敏感に反応する時期をダブステップ全盛のロンドンで育ち、のちにディスクロージャーと名乗る兄弟の目に、ダブステップの変遷はどんな風に映っていたのだろう。ジェイミーXXそしてディスクロージャーら若い世代がいまハウスに向かっているのは、南ロンドンで生まれたかつてのものが、アメリカでEDMとして白人のレイヴ・ミュージックになっているものと世間では同じ名称を与えられていることと無関係ではないだろう。それとこれとは、別のものなんだと。

 エアヘッドのインタヴューに同席して僕がとくに印象的だったのが、ジェイムス・ブレイクと遊びに行ったフランソワ・ケヴォーキアンのDJがすごく良かったというエピソードだった。ポスト・ダブステップ時代のトラックメイカーたちの興味がハウスに向かっていることは理解しているつもりだったが、それにしてもフランソワKとは! 僕にとってフランソワK辺りは上の世代のものというか、キャリアをしっかり積んだ立派なベテラン(要するに大御所)というイメージだったもので、彼らがまったく新しいものを発見するようにそのオーセンティックなハウス・ミュージックに出会っていることが、どうにも羨ましく思えたのだ。
 『セトル』の国内盤のライナーノーツによれば、兄のガイがダブステップの影響元を遡って発見したのがハウスやガラージだったという。それは彼らにとって紛れもない発見であり、そして恐らく、わたしたちがダブステップの黎明期に感じたような興奮を兄弟はそこで覚えたのだろう。まったく自然な成り行きとして、そしてこのデビュー・フル『セトル』は、ハウスとガラージが中心を占めるアルバムとなった。
 アルーナジョージを招聘したシングル「ホワイト・ノイズ」のセクシーなハウスの時点では、あるいははじめて通してアルバムを聴いたときは、すごくよく出来ているクラブ・ミュージック以上の印象を受けなかったのだが、『セトル』の最大の良さは"イントロ"から間髪入れずに"ホウェン・ア・ファイア・スターツ・トゥ・バーン"へと突入するドライヴ感、タイトル通り炎が燃え上がる瞬間を捉えていることだと何度か聴くとわかる。20代前半が作ったとは思えない完成度の高さが世間に大いに驚かれておりそれも事実なのだが、同時に彼らが自分たちが「新たに」発見した音楽を作っている興奮がここにはある。"スティミュレーション"などを聴いていると、ハウス・ミュージックのワイルドさ、ソウル、セクシーさが、とてもプリミティヴな状態で立ち現れているように感じる。というか、ある程度年のいった連中からすればこれは聴き慣れたハウスのコレクションに聞こえるのかもしれない。が、ダブステップで育った世代からすれば、これはクラブ・ミュージックにおけるソウルの復権運動である。
 その意味で、僕にはサム・スミスが歌うシングル"ラッチ"や、ジェイミー・ウーンがハイ・トーン・ヴォイスを聞かせる"ジャニュアリー"辺りがベスト・トラックだ。そのキャッチーなソウル・ヴォーカルそしてバウンシーなビートには歓びと、クラブ・ミュージックをピュアに謳歌する前向きさがある。ようやくクラブに入るIDを手に入れた連中の、弾む足取りがある。「やっと捕まえた君を離しはしない/取り囲まれた君は逃げられない/俺は君を手に入れる」"ラッチ"

文:木津 毅

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